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【群馬大学】環境とエネルギーをデザインする! 【群馬大学】環境とエネルギーをデザインする!

【群馬大学】環境とエネルギーをデザインする!

群馬大学大学院理工学府電子情報部門
環境エネルギー設計研究室

高橋 俊樹 准教授
高橋 俊樹 准教授
TAKAHASHI Toshiki
群馬大学大学院理工学府電子情報部門
専門:核融合/プラズマ/室内空気環境分析

世界中でエネルギー問題が喫緊の課題となっている。それは発電燃料に乏しい日本においてはさらに深刻だ。また、近年AIの進展が著しいが、今後さらに高度な演算処理を可能にするコンピュータなどが発展していけば、それに伴ってエネルギー消費も膨大になっていくことは想像に難くない。核融合エネルギー研究とそこから派生した室内環境分析の研究を行っている群馬大学の高橋俊樹准教授に話を聞いた。

核融合と室内環境分析を用いてより良い未来を設計する

群馬大学大学院理工学府の環境エネルギー設計研究室では、「核融合・プラズマ」と「室内空気環境(花粉症)」の研究に取り組んでいる。2つの共通点は、微細な粒子を研究対象にしていること。室内空気環境を分析して花粉症の対策を行う研究は身近に感じるかもしれないが、核融合からエネルギーを取り出すという壮大な研究についてはあまりイメージがわかないだろう。しかし、エネルギーも私たちの生活を支える、実に身近な問題だ。特に日本はエネルギー資源が乏しく、発電燃料の多くを輸入に頼っている実情もある。既存のエネルギーに頼れなくなれば、これまでの生活がいきなりなくなってしまう!?なんてこともあるかもしれない。

「私たちの研究室は、設立当時から『化石燃料に代わる新規エネルギーの創造』『地球環境の保全と環境変化の緩和』を大きな目標に掲げ、研究に取り組んでいます。これらは必ずしも答えのある問題ではありません。実現可能な解を模索し、これからの未来をどう描いていくのかという意味を込めて、設計(デザイン)という言葉を用いています」

そう語るのは、群馬大学大学院理工学府電子情報部門の高橋俊樹准教授。環境エネルギー設計研究室では、主に物理モデルを組み立ててシミュレーションを実行し、結果の観測やその分析、問題点の探索などを行っている。ここでの物理モデルとは、研究対象となる現象を支配する方程式や現象そのもの自体を再現する方法のこと。実験の結果から仮説を立て改めて検証したり、問題解決するための新たな装置やソフトウェアをつくったりする。

それでは、まず「核融合・プラズマ研究」から見ていこう。

エネルギー問題とは?

現在、私たちは膨大な電気エネルギーを享受することで安定した生活を得ている。家に帰ってきたら部屋を明るくするために照明をつけ、寒かったり、暑かったりすればエアコンをつける。そして、スマートフォンを充電したり、楽しみにしていたバラエティ番組を観るためにテレビに電源を入れたりするかもしれない。これらすべての行為に電気エネルギーが消費されている。電気エネルギー(二次エネルギー)をつくり出すためには、石炭、石油、天然ガスなどの一次エネルギーが必要となる。化石燃料は少ないコストで大量のエネルギーを生み出せるが、多くのデメリットが存在する。例えば、資源には限りがあるため近い未来に枯渇するのではないかと言われていたり、化石燃料を燃焼させる際に発生する二酸化炭素が地球環境にやさしくないという側面があったりする。

日本は、太陽光や風力など自然界に存在する「再生可能エネルギー」の活用を進めているが、2022年時点で未だに8割を化石燃料に頼っている実情がある。再生エネルギーには、「どこにでもある」「枯渇しない」「温室効果ガス(主に二酸化炭素)を排出しない」というメリットがある一方で、発電量が不安定だったり、発電コストが高かったりなどのデメリットが存在する。

日本の一次エネルギー供給構成の推移

資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」2022年度速報値
※四捨五入の関係で、合計が100%にならない場合がある
※再エネ等(水力除く地熱、風力、太陽光など)は未活用エネルギーを含む

詳細はこちら
2023年度 資源エネルギー庁広報パンフレットより

また、世界のエネルギー消費も同じく8割ほどを化石燃料が占めている。日本においても、世界においても、既存のエネルギー資源に依存しない新たなエネルギー源が必要なのは間違いない。

そこで新たなエネルギー源として、古くから注目されているのが「核融合エネルギー」。わずかな燃料から膨大なエネルギーを取り出すことができる「夢のエネルギー」として期待されている。

核融合エネルギーとは?

まず、基本的な知識からおさらいするために、水(H₂O)を例に考えてみよう。物質の構成単位は、原子または分子だ。今回の例である水は、2個の水素原子(H)と1個の酸素原子(O)で構成されている分子となる。分子は2つ以上の原子で構成されており、原子は物質を構成する基本的な粒子である。そして、原子は、原子核と電子でできている。

原子は、原子核と電子でできている

「核融合」とは、原子核と原子核をぶつけることで、新しい原子核を生み出すこと。例えば、重水素(D)と三重水素(T)の核融合反応では、原子核同士が融合することで、ヘリウム(He)と中性子(n)が生じる。

原子核同士が融合

そして、核融合の際に生じた物質の質量の差異から取り出したエネルギーが「核融合エネルギー」だ。例えば、重水素と三重水素よりもヘリウムと中性子は軽いため、この質量の差がエネルギーに変換される。核融合エネルギーを利用した発電は、①温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)を出さない、②主に水素を用いるため地球(海水中など)に燃料がたくさんある、③核分裂と異なり安全性が高くて環境にもやさしい、④高レベルの放射性物質の排出が少ないなどのメリットがある。しかしながら、高度な技術を必要とするため、実現するには至っていない。

プラズマとは?トカマク型やヘリカル型とは?

では、なぜ核融合発電は難しいのだろう。高橋俊樹准教授はこう語る。

「核融合は、原子核同士がぶつかることで起こる反応です。そのため、『プラズマ』という状態にして、原子核と電子をバラバラにする必要があります。例えば、氷(固体)を温めると水(液体)になり、さらに温めると水蒸気(気体)になります。そして、そこからさらに高温にすると原子を構成している原子核と電子がバラバラになって飛び回ります。この状態がプラズマです。このプラズマ状態を維持するのが難しい」

物質の状態変化

「プラズマは簡単に言えば電気の塊のようなもので、さまざまな方法で閉じ込めることができます。代表的なものとしては、磁場(コイル)を用いてドーナツ状にプラズマを閉じ込める方法(トカマク型やヘリカル型)と、レーザーをドバンと当てて閉じ込める方法があります。日本は主にこの2つの方法で研究を進めており、岐阜県や茨城県に大型の実験装置が備えられています」

磁場閉じ込めと慣性閉じ込めのイメージ

プラズマを長時間にわたって閉じ込めることで、核融合反応を連続して起こすことができる。しかし、プラズマはすぐにこわれて消えてしまうのが厄介なところ。プラズマ状態をいかに維持するのかが、核融合研究における大きな障壁となっているのだ。

磁場反転配位(FRC)とは?

「プラズマ状態を維持するのは容易ではありません。現時点では、トカマク型が最も持続力があり、堅実な方法だと言えるでしょう。しかし、デメリットもあります。プラズマ圧力と外部磁場の磁気圧の比をベータ値と言うのですが、トカマク型はベータ値が低く核融合で必要とされる圧力を得るために要求される外部磁場が大きくなるのです。例えば、タイヤの太いチューブのなかに薄い空気が入っているものをイメージしてみてください。持続力はあるのですが、その磁場をつくるためのコイルや装置が大型になったり、費用が高額になったりします」

トカマク型やヘリカル型、磁場反転配位(FRC)のイメージ

「一方、我々の研究室が取り組んでいるのが『磁場反転配位(FRC)』という磁場閉じ込め方式の一種です。これは高ベータであるため、トカマク型などと比べてコンパクトで設計コストが安く済むというメリットがあります。しかし、やはりこの方式においてもデメリットがあり、ハイリスクハイリターンというのが特徴です。例として、水がたくさん入っている水風船を想像してみてください。プラズマが高密度で入っており、より大きなエネルギーを取り出せるかもしれませんが、すぐに破裂してしまう可能性もあるのです」

トカマク型では1時間ほどプラズマ状態を維持できた例があるというが、FRCが維持できた最高記録はわずか0.04秒。つまり1秒にもはるかに満たない時間ということになる。

「FRCはプラズマを持続的に維持するのは難しいという実情があり、安定した成果を出すにはトカマク型やヘリカル型がいいのかもしれません。しかし、研究者としては、多くの人が難しいと考えているものに挑戦してみたい。また、核融合発電の実用化は非常に困難であり、この先、実現するのかどうかも疑わしいほどです。そのため、あらゆる方法を模索し、さまざまな角度からシミュレーションを用いた分析や、実験・検証を行っていくことが大切なのです」

磁場反転配位プラズマの衝突シミュレーション
磁場反転配位プラズマの衝突シミュレーション

高ベータプラズマの研究が進めば、核融合発電の実用化に大きく近づく可能性がある。しかし、高ベータプラズマにおいてはまだまだ未解明な現象も多くあり、それを理解するためにシミュレーションコードという再現可能な枠組みが求められる。そのため、今後シミュレーション研究は重要な役割を果たすのではないかと高橋准教授は話す。

また、環境エネルギー設計研究室では、核融合の応用研究として昨年度から「Kamuyプロジェクト」もスタートしている。これは焦電結晶と重水素を用いて発生させた中性子をがん細胞に当てて破壊するというホウ素中性子捕捉療法に核融合研究を応用したもの。エネルギーから医療まで、さまざまな分野で応用される核融合研究の今後の進展に期待しよう。

室内空気環境を分析して、花粉症対策

微細な粒子の衝突から膨大なエネルギーを取り出せるという核融合エネルギーやプラズマ研究の面白さは理解してもらえただろうか。この粒子の動きの観察を応用した、環境エネルギー設計研究室におけるもうひとつの研究が「室内環境分析」。花粉症に関する研究だ。

「今日の日本において、花粉症患者は年々増加しており、国内患者数はおよそ2,200万人にも及ぶといいます。また、QOL(生活の質)低下への影響も示唆されており、花粉症対策は喫緊の課題です」

花粉症は、スギやヒノキなどの花粉によってアレルギー反応が起こる疾患のこと。そのため、花粉症を改善するには、花粉との接点をいかに減らすかということが重要になるという。

「花粉症対策においては、花粉を家の中に持ち込まないこと、また効率的に除去することが大切です。そのためには、花粉の動きの特性や侵入経路を明確にする必要があります。そこで私たちの研究室は、『CAMPAS』というソフトウェアを開発しました。これは空気の流れや微粒子の動きを解析し可視化できる統合ソフトウェアで、空気清浄機がつくる気流と花粉の動きを観測することができます。観測の結果、例えば、空気清浄機の周りに花粉が多く落下する傾向があったり、窓の近くに空気清浄機を置くと花粉を巻き上げてしまったりするということがわかりました」

CAMPASによるシミュレーション
CAMPASによるシミュレーション

空気清浄機を開発しているメーカーとやり取りを行うなかで、花粉だけではなく、花粉の周りに付着している粒子がアレルギー反応に多分に影響している可能性についてもよく聞くと高橋准教授は話す。

「花粉は時間の経過とともに床に落下するのですが、花粉の周りに付着している粒子は落下せずに室内を漂っている場合が多いそうです。床に落ちた花粉はお掃除ロボットなどで除去すればいいですが、微粒子をどのように計測し、花粉症対策につなげていくのかということが今後重要になると感じています。現在、シミュレーションを駆使して気流を把握したり、画像認識を用いて室内空気環境のデータを把握したりして、役立てようと考えています。しかし、室内環境というのは、その空間ごとに異なるという問題があります。家庭によって部屋に置いてある家具などは違いますよね。それに伴って、気流や室内空気環境のあり方も変わってくるのです。いかに一般化できるかという課題があるため、AIデータサイエンスを用いて、より膨大なデータを取得するシステムを構築したり、機械学習で繰り返しシミュレーションを行ったりなども必要になってくると感じています。現在取り組みを進めているところです」

シミュレーションを駆使

核融合発電の実現のため、学生の積極的なチャレンジを期待している

「研究室では、室内の湿度が花粉の動きとどの程度関連があるかなどを研究している学生もいますし、核融合・プラズマの研究に意欲的に取り組んでいる学生もいます。割合としては、『核融合・プラズマ研究』と『室内空気環境』それぞれ半分ずつくらいだと思います」

核融合研究の実験を行うには大規模な設備を必要とするため進学先は限られるが、理論を学びたいのであれば進学先も広がってくる。環境エネルギー設計研究室においても、シミュレーションを用いて核融合の理論を学びたいとやってくる学生も多いという。

「私が高校生の頃は、ブラックホールなど宇宙に関するものに興味がありました。空に輝く太陽や星々が放つ熱と光の原理は、核融合です。そして、そこからエネルギーを取り出すという未だ実現されていない分野の研究に惹かれました。大学進学、そして、研究室配属の際に核融合の研究室を選んだ背景には、そのようなきっかけがありました」

核融合エネルギーに関する研究は世界中で取り組みが進められている。しかし、その成果が現れるのはいつの日になるのか、専門家でさえ予測するのが難しいという。50年後、100年後、もしかしたら実用化される日は来ないかもしれないと高橋准教授は語る。

「核融合発電を実用化するには、技術的な難易度も高いですし、未解決の課題も多く残されています。実験装置の性能は上がっていますが、方法論としてはそれほど進歩していないのではないかと思うことさえあります。そのため、新しい方法をガンガン提案していくチャレンジングな学生が増えていくといいですね。環境エネルギー設計研究室もそのような学生が来るのを待っています」

研究室の詳細

群馬大学大学院理工学府電子情報部門
環境エネルギー設計研究室

「化石燃料に代わる新規エネルギーの創造」と「地球環境の保全、環境変化の緩和」を目標に掲げ、環境問題やエネルギー問題に対する実現可能な解決策の提示を目指している。シミュレーションを用いて、核融合エネルギーや室内空気環境分析の研究に取り組む。
詳細はこちら
環境エネルギー設計研究室

Text by 仲里陽平(minimal)/Illustration by 竹田匡志

UNIVERSITY INFO

群馬大学理工学部
GUNMA UNIVERSITY School of Science and Technology
物質・エネルギーからAI・IoTまで科学技術の幅広い学びを提供
群馬大学理工学部
物質・エネルギーからAI・IoTまで科学技術の幅広い学びを提供

学生の可能性を広げる2類8プログラム

持続可能な社会とSociety5.0の実現を支える人材育成を目指し、「物質・環境類」と「電子・機械類」の2つのコースを設置。「物質・環境類」では化学・生物・物理を融合した科学技術を学び、2年次後期から5つのプログラムのいずれかを選択して学びを深める。「電子・機械類」では物理・数学を基礎としたIoTやロボットなどの科学技術を学び、3年次から3つのプログラムのいずれかを選択してより専門性を高める。

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TEL:0277-30-1040、1037

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