【秋田大学】空間情報学+データサイエンスで地域課題に挑む!
秋田大学情報データ科学部
有川研究室

情報データ科学部
有川研究室
専門:空間情報学/ユビキタスマッピング/地域ビッグデータ・エコシステム
AI・データサイエンス系大学・学部の研究室では、どのような研究が行われている? 近年、スマホの地図アプリやAR機能、生成AIなどを活用して、新たなサービスが続々と誕生している。秋田大学情報データ科学部の「有川研究室」では、地図情報、IoTセンサー、AR、ロボットなどの技術を組み合わせて、人と地域に役立つサービスの研究・開発を行っている。
研究室の専門領域「空間情報学」とは?
外出先で観光名所やグルメスポットを探すとき、皆さんはどのようなツールを使っているだろうか? ガイドブックが手元になければ、スマホの地図アプリを利用する人がきっと多いだろう。今やGoogle Mapsを起動して、周辺のおすすめ情報を表示すれば、街の概要をつかむことができる。この仕組みを成立させているのが、GPS(Global Positioning System)。人工衛星からの信号を利用して、目的の位置情報を特定する世界規模の測位システムだ。
これに加えて、最近のスマホにはカメラをはじめとするセンサー機能、AR(拡張現実)機能に対応するアプリ、ChatGPTをはじめとする「生成AI」なども搭載されている。このように、今や最先端の情報科学を駆使したサービスは誰もが気軽に使えるものになりつつある。
秋田大学情報データ科学部の「有川研究室」では、こうした地図情報、位置情報、IoTセンサー、AR、ロボットなどの技術を組み合わせて、人と地域に役立つサービスを研究・開発している。研究室の代表である有川正俊教授の専門分野は、「空間情報学」だ。街中や観光地の屋外および博物館などの屋内で得られる位置情報・行動ログ・地図データなどの「空間ビッグデータ」を収集・解析し、地域課題の解決や観光・生涯学習サービスの高度化につなげることを目指した研究を行っている。
「空間情報学は、実空間(Real Space)/認知空間(Cognitive Space)/デジタル空間(Digital Space)/メディア空間(Media Space)という4つの空間の関係を考える学問です。人間は生まれながらに“空間で考える生き物”です。私はその根源的な能力とデジタル技術を橋渡しすることに面白さと可能性を感じています」(有川教授)
キーワードは「データ駆動」と「人間中心」
3つのチームに分かれて研究を展開する
教員は、有川教授のほか、Lu Min講師、内海富博助教、佐々木一織助教の4名体制であり、修士・学部を合わせて十数名の学生が在籍している。研究室は、テーマに合わせて大きく3つのチームに分かれている。
- ■ユビキタス・マッピング・チーム
- モバイル端末を用いた街歩き観光、歴史地図を用いた地域学習、生成AIによる音声ガイドなどを通して、「歩く」「学ぶ」体験をデータでデザインする。
- ■センシング・チーム
- IoTセンサーネットワークやスマートウォッチを用いた行動センシング、高齢者見守りシステム、サービスロボットの遠隔制御と対話インタフェースなどを扱う。
- ■インドア・アウトドアAR・チーム
- 博物館ナビゲーション「AUTUMN (Akita University Time-travel Underground Mining Museum Navigator)」や聖地巡礼支援など、屋内外でのARナビゲーションや時空間写真体験システム「ARTimeWalk」などを研究している。
共通するキーワードは「データ駆動」と「人間中心」。実世界から得られる多様なデータを分析し、それをもとに新しいサービスや仕組みを試作・評価しながら、「人にやさしい空間情報サービス」と「地域ビッグデータ・エコシステム」の実現を目指している。専門である「空間情報学」と「データサイエンス」を組み合わせた最新の研究領域といえるだろう。
では、所属する先生たちが取り組む研究テーマを紹介してもらおう。
Lu Min先生(ユビキタス・マッピング・チーム)
「人間中心モバイルマッピングシステムの開発」
- 【プロフィール】
- 専門は、人間中心モバイルマッピング、歴史的地図の時空間リファレンシングによるストーリー生成支援、学習操作ログ分析に基づくラーニングアナリティクスほか。スマートフォン地図や歴史地図データ、学習ログなどを用いて、人の行動・学び・物語を可視化・分析するデータサイエンスを展開し、教育・観光・文化継承への応用を目指している。
中国江蘇省出身のLu Min先生の研究テーマは、「人に優しい地図」をデジタルでよみがえらせることだ。もともと北京大学で、GIS(地理情報システム)を用いた研究に取り組んできた。大学院博士課程在籍時に始めたのが「人間中心マッピング(Human-centered Mapping)」という研究だ。
「Google Mapsのようなデジタル地図は便利ですが、実は “人が読みやすい” という観点では、アナログの観光マップのほうが優れている場面も多いのです。問題は、アナログの手描き地図や鳥瞰図は “歪んでいる” ため、スマホのGPSと直接つながらないこと。そこで私は歪んだイラスト地図をGPSと連動させる技術を開発しました」
Lu Min先生が開発したのは、「動的局所ジオリファレンシング(DLGR)」という技術。アナログ地図の図像表現を保持したまま、その背後で、機械可読な地理空間データとの相互変換レイヤーを構築する。これによって、アナログ地図の見た目の上で、現在地表示などのデジタル機能を実現することが可能になるという。この技術を用いて、Lu先生は、古地図(鳥瞰図、イラスト地図なども)と現在の地図を同期させる「時空間地図ブラウザ」を開発した。

(吉田初三郎『秋田市』鳥瞰図〔1936年刊、国際日本文化研究センター所蔵〕を表示)
Lu先生は現在、学生たちと一緒に、「自分で地図を選び、テーマを決め、音声ガイドをつくる」という演習も行っている。アナログの魅力とデジタルの利便性を統合し、地域の物語を“歩きながら体験できる世界”を目指している。
詳細はこちら
DLGR Mapper(英語版 Web サービス)
内海富博先生(センシング・チーム)
「IoTを用いた高齢者見守りシステムの開発」
- 【プロフィール】
- 専門は、IoT、センサーネットワーク、高齢者見守りシステム、アンビエントコンピューティングほか。住環境に配置された各種センサーからの時系列データを解析し、高齢者の行動モデル化や見守り支援を行うヘルスケアデータサイエンスに取り組む。
内海富博先生がメインで取り組むのは、IoTセンサーネットワークを用いた高齢者見守りシステムの開発だ。背景には、「高齢化率39%」という秋田県の社会課題があった。内海先生は、秋田大学の卒業生で、ずっと母校で研究を続けてきた。
「天井に付けた小さな人感センサーだけで高齢者の行動を見守るシステムを開発しています。秋田の高齢化率は日本トップの39%です。2050年には、ほぼ2人に1人が高齢者になると推計されています。その中で必要なのは、負担が少なく、プライバシーを侵さず、持続可能な見守りシステムだと考えました」
研究の核となる技術方針は、①カメラは使わない(監視感を避ける)、②非ウェアラブル(装着の負担を回避)、③市販センサーだけで構築(壊れても交換しやすい)というもの。例えば、トイレにいる時間、部屋を移動する頻度など、人感センサーの情報だけでも身体活動量の変化を評価し、「フレイル(虚弱)の兆候」や「認知症の初期サイン」を判別することができるという。
「実験ではすでに、センサー情報だけで人の位置を誤差1m前後で追跡できている。大量のセンサーデータを解析し、“変化”を見抜くデータサイエンスによって、高齢者が安心して暮らし続けられる仕組みを実装しています」
詳細はこちら
MUS3E: 高齢者のためのモビリティ・ユビキタスセンサエッジ環境
佐々木一織先生(ユビキタス・マッピング・チーム)
「観光地の魅力を“その場で語り出す”アプリの開発」
- 【プロフィール】
- 専門は、位置情報サービス、生成AIを用いた地域ガイドITサービス、データ駆動型地域エコシステムほか。位置情報データと生成AI・各種オープンデータを組み合わせて、地域の魅力発信や産業振興につながるデータ駆動型サービスとエコシステムの設計・実装を行う。
佐々木一織先生は、生成AIと位置情報データを組み合わせて「豊かなまち体験」をつくる研究に取り組んでいる。インバウンド旅行者も増えている昨今、秋田県などの地方都市では、地域が主体となって観光体験をデザインしていくことが重要になっている。そこで、佐々木先生は、秋田市・大館市などと連携し、位置情報と生成AIが会話する自動観光ガイドアプリを開発している。背景で駆動しているのは、旅行者の過去の行動ログから「どこで案内を出すべきか」を最適化する「ジオフェンス推定」と呼ばれるデータサイエンスの技術だ。
「最近力を入れているのが、ユーザーの位置を読み取り、その場に合わせてAIが自然な語りで案内してくれる『オンサイトラジオAI』というサービスの開発です。スマホが“語り手”となり、旅のストーリーをリアルタイムに紡いでくれる――そんな新しい観光体験を地域と共同でつくっています」
詳細はこちら
佐々木一織_研究紹介HP
最後に「インドア・アウトドアAR・チーム」の研究テーマもひとつ紹介しよう。こちらのチームで開発しているのが、インターネット上で公開されているような一般的な写真に対して、撮影場所での鑑賞体験を提供する時空間写真共有プラットフォーム「ARTimeWalk」だ。
「ARTimeWalk」の強みは、看板や標識を認識し、基準点(位置の基準)として活用することで、スマートフォンの機能だけで、低コストかつ精度の高い位置測位を実現できること。これを使えば、ドラマや映画の舞台となった場所を巡る「聖地巡礼」など、現地を訪れることに意味がある文化活動を拡張するシステムとして、活用が期待できるという。
- [YouTube]
- ARTimeWalk: 過去の写真を使ったARによる時空歩きiPhoneアプリ
- AUTUMN2 (Akita Univ. Time-travel Underground Mining Museum Navigator ver. 2)
地域をフィールドにした持続可能で人にやさしいデータ社会を実現する
こうした幅広い研究に通底するキーワードは、「地域をフィールドにした持続可能で人にやさしいデータ社会の実現」だ。例えば、観光やまち歩きの分野では、地元の歴史や文化、日常のまちなかの魅力を「再発見」できるサービスを通じて、地域に誇りを持てる社会の実現を目指している。
高齢者見守りや健康支援では、重い負担や監視感をなるべく与えずに、日常生活の中でさりげなく健康状態の変化を検知できるしくみを通して、安心して自宅で暮らし続けられる社会を実現していく。
さらに、観光ログ、歴史地図、センサーデータ、ロボットの行動ログなど、多様なデータを安全に活用し、地域企業・自治体・市民が協働する「地域ビッグデータ・エコシステム」の構築を目標としている。
「当研究室は、『世界がうらやむ秋田モデル』をデータサイエンスの力で具体化していくことを長期的なビジョンとしています。単に技術を輸入するだけでなく、地方から世界に発信できるモデルをつくることを目標としています。GAFAのようなビッグテック企業にできない領域が必ずあると信じています!」(有川教授)
データの向こう側に、人と地域の物語が見えてくる
有川教授が考えるデータサイエンスの面白さとは、「データの向こう側に、人と地域の物語が見えてくること」。例えば、まち歩きアプリのログや観光者の行動軌跡を分析すると「どの道がよく歩かれているのか」「どの場所で立ち止まりやすいのか」といったパターンが見えてくる。単なる数字やグラフにとどまらず、「なぜそこが魅力的なのか」「どうすればもっと楽しめるのか」という議論に発展し、次のサービス改善につながるという。
一方、IoTセンサーデータから高齢者の生活リズムや行動の変化を捉えられたときは、「このパターンを早めに検知できれば、健康寿命の延伸につながるかもしれない」と実感できる。データサイエンスは、抽象的な理論だけでなく、実際の生活や地域政策に直結する「橋渡し役」のような役割を果たすこともできるのだ。
所属学生は学会で多数の賞を受賞。就職実績も好調!
有川研究室では、学生が自分のミニプロジェクトを立ち上げ、プロトタイプをつくり、ゼミで議論しながら卒論テーマへと育てていく「スパイラル型」の進め方を重視している。自分で発見した問題に対して、自分でデータを取り、自分で分析し、自分の名前で学会発表する経験は、データサイエンスならではの大きなやりがいになるという。
こうした研究活動の成果によって、研究室の所属学生たちは、情報処理学会全国大会、電気関係学会東北支部連合大会など数々の学会で、多数の賞を受賞している。さらに、大学院修了者を含む卒業生たちは、2024年度だけでもアクセンチュア、ソフトバンク、NTT東日本、NTTデータ先端技術、清水建設、東京海上日動システムズ、トヨタ自動車東日本、TIS、エフサステクノロジーズ、日立ソリューションズ・テクノロジーなどの一流企業への就職を決めている。
失敗を恐れず、挑戦し続ける人なら誰でも大歓迎!
データサイエンスと聞くと「数学が得意でないといけない」「プログラミングが完璧にできないと無理」と思う受験生も多いだろう。しかし、有川研究室が大切にしているのは、好奇心とチャレンジ精神だ。研究室のモットーは、「CIF」。これは、Challenge(向上心)、 International(世界へ)、 Fun(楽しむ・楽しませる) の頭文字を取ったもの。「地図や旅行が好きな人」「歴史や地域文化に興味がある人」「IoTやロボット、スマートフォンアプリにワクワクする人」「人の行動や社会の仕組みをデータで理解してみたい人」なら誰でも大歓迎だという。

「アルベルト・アインシュタインは、『挫折を経験したことがない者は、何も新しいことに挑戦したことが無いということだ』と語ったとされています。私たちが求めているのは、まさに失敗を恐れず、新しいことに挑戦し続けられる人です。秋田大学 情報データ科学部では、基礎から段階的にデータサイエンスを学びつつ、研究室では実際の地域をフィールドにした『生きたデータ』に触れることができます。データサイエンスを通して、自分の世界と地域の未来を少しずつ変えてみたい人は、ぜひここで一緒に新しい挑戦をしましょう!」
研究室の詳細
有川研究室
「空間情報学」と「データサイエンス」を軸に、地図・位置情報・IoTセンサー・AR・ロボットなどを組み合わせて、人と地域に役立つサービスを研究・開発している研究室。研究キーワードは、「データ駆動」と「人間中心」。実世界から得られる多様なデータを分析し、それをもとに新しいサービスや仕組みを試作・評価しながら、「人にやさしい空間情報サービス」と「地域ビッグデータ・エコシステム」の実現を目指している。
詳細はこちら
有川研究室
- [YouTube]
- 情報データ科学部 有川研究室(現:理工学部 数理・電気電子情報学科 人間情報工学コース)の紹介
- 対面ガイダンス@ラボ紹介動画BGMありver1 20200716
- Tega Rally 紹介PV【秋田大学オープンキャンパスガイドアプリ】
- Manpo – using hand-drawn maps on your smartphones
- 180217 KashiwaWalk Event Kashiwanoha Playback
Text by 丸茂健一(minimal)/Illustration by 竹田匡志
秋田大学情報データ科学部の一般選抜は、「前期日程」と「前期日程」が実施される。
- 入試日程
- 出願期間(前期・後期共通)
- 2026年1月26日(月)〜2月4日(水)
- 大学入学共通テスト(前期・後期共通)
- 2026年1月17日(土)、1月18日(日)
- 独自試験日(前期)
- 2026年2月25日(水)
- 合格発表日(前期)
- 2026年3月7日(土)
- 独自試験日(後期)
- 2026年3月12日(木)
- 合格発表日(後期)
- 2026年3月21日(土)







