【千葉大学】データサイエンスで「魅力的な顔」の謎に迫る!
人文公共学府 人文科学専攻
基盤文化コース心理学・認知科学 比較認知研究室
データサイエンス系大学・学部に通う先輩は、どのような学び&研究に取り組んでいるの? 今回話を聞いたのは、千葉大学文学部人文学科卒で、現在は同大学院で認知科学を研究している森田貴帆さん。データ分析を活用して「顔の魅力の研究」に取り組む森田さんに、文系領域でデータサイエンスを学ぶ面白さについて聞いた。
「動物心理」への興味が、認知情報科学を選んだきっかけに
——まずは大学時代の学びについて教えてください。
大学院に進学する前は、千葉大学文学部人文学科の行動科学コースに在籍していました。もともと心理学に興味を持っていたこともあり、行動科学コースに惹かれたのが入学のきっかけです。
人文学科の行動科学コースには、心理学、認知情報科学、哲学、社会学、文化人類学の5つの専修があります。1年次にはこれらの分野を横断して学び、2年次からは1つの専修を選んでより専門的に学んでいきます。
なかでも私が面白さを感じたのは、認知情報科学領域の先生が教える「動物心理学」でした。子どもの頃から動物が好きだったこともあるのですが「動物たちが世界をどう見ているかを分析できるってすごい!」と感銘を受けて、認知情報科学専修に決めました。
——大学時代には、データサイエンスをどのように学んでいましたか?
データ処理や分析といったデータサイエンスの基礎は、1年次の「統計学」の授業で学ぶことができます。文系の学生にもわかりやすく説明してくれるので、理系科目を専門的に学んでいなかった自分でもスムーズに理解できました。
認知情報科学専修の授業では、実験や分析にデータサイエンスを活用していました。例えば、会話データを通して、その人たちの関係性やコミュニケーションのあり方を分析する「会話分析」という授業があります。
会話分析では、音声の統計処理を便利にしてくれるELANというソフトウェアやR言語を使い、データの分析と視覚化に役立てていました。
データ分析を活用して「顔の魅力の研究」に取り組む
——森田さんの現在の研究内容をお聞かせください。
1つは動物の認知機能に関するもので、「ハトの視覚認知」を研究しています。
合わせて力を入れているのが「顔の魅力」の研究です。これは個人的にずっと気になっていたテーマでもあるんです。「この人の顔好きだな」となんとなく思わせるような、魅力的な顔の正体を知りたくてこのテーマに決めました(笑)。
卒業論文でも「魅力的な顔は注意を捕捉するか?」をテーマに実験を行いました。大学院でも、引き続き類似する実験に取り組んでいます。
——顔の魅力の研究、興味深いですね。ぜひ詳しく教えてください。
もし自分の好きなタイプの顔であれば、たくさんの顔のなかにあってもすぐに見つけられる気がしませんか?
人混みで知り合いの顔を見つけるときのように、複数から特定の1つのものを見つけ出す認知能力を「視覚探索」といいます。卒業論文で取り組んだのは、この視覚探索の実験です。
魅力的な顔とその顔が見つかるまでの速さには相関性があるのではという仮説のもと、学生に協力してもらって次のような実験を行いました。
- 【実験の流れ】
- ①真顔の表情かつ同一の髪型を合成した複数の男女のカラー写真を用意
②1種類の顔(例:Aさん)のみを表示し、記憶してもらう
③同時に表示される複数の顔から、記憶した顔(=Aさんの顔)をできるだけ速く探し出してもらう
④5種類の顔を用いて、顔の配置や同時表示される数などを変えながら②③を繰り返す
⑤最後に、5種類の顔の魅力度を順位づけしてもらう
※細かい条件などは省き実験の概要のみを記載
実験後は、顔の種類ごとに反応までにかかった平均時間を算出して、その顔の評価との関連を分析しました。
その結果で意外だったのが、魅力的だと評価された顔ほど、探索時間が長くなるということです。魅力的な顔ほど早く見つかると予想していたので、逆に時間がかかるという結果は驚きでした。
この結果は、魅力的な顔ほど視線を捕捉してしまう、つまり見惚れてしまうのが要因ではないかと考察しています。
データサイエンスの面白さは、感覚的なものを数値で可視化できること
——データサイエンスを活用した研究には、どんな魅力があるのでしょうか?
魅力などの感覚的なものを数値化できれば、そこに説得力が生まれてきますよね。データを活用した研究は、それまで“なんとなく”でしかなかった思いや考えを数値で可視化できる面白さがあります。
また、私は現在、国内の4つの大学とひとつの研究機関、民間企業が連携して社会課題解決に取り組む人文系の大学院生を養成する「卓越大学院プログラム アジアユーラシア・グローバルリーダー養成のための臨床人文学教育プログラム」に参加しています。
そこで私が勉強しているのが「デジタル・ヒューマニティーズ」という研究分野です。これは、歴史、社会のあり方、人の言葉やふるまいなどを探求する人文学(Humanities)の問いに、データサイエンスの手法を用いてアプローチするものです。
人文学にデータサイエンスを掛け合わせ、これまで扱いきれなかった大量の情報を分析することができるようになりました。これにより、従来と違った新たな問題を俯瞰することができるところに、面白さを感じています。
——最後に、情報系・データサイエンス系に興味がある受験生にメッセージをお願いします。
研究を通してデータ処理や分析と向き合うなかで感じるのは、やはりデータサイエンスはあくまでアプローチ方法のひとつだということです。だからこそ高校生のみなさんには、データサイエンスによって自分が何を実現したいかまで考えてみてほしいなと思います。
私の場合は、研究に欠かせない手法の1つとしてデータサイエンスに出会いました。データサイエンスは、文系だからといって必ずしも無縁な世界ではありません。認知情報科学のようにデータサイエンスの視点を活かせる学問もあるので、興味があればぜひ挑戦してみてください!
取材協力
Life is Tech ! (ライフイズテック)
中学生・高校生〜社会人向けのIT・プログラミング教育サービス。2010年にスタートし、これまで100万人以上にデジタルを活用したイノベーション教育を届けている。
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Life is Tech ! (ライフイズテック)
Text&Photo by 市川茜(minimal)