【データサイエンスCROSSTALK】大学&企業に聞く「AI時代に人間はどう変わっていくべきか」
三井住友ファイナンス&リース株式会社 加月 佳子 さん
関東学院大学情報学部(2026年4月新設)吉川 厚 教授
データマネジメント部 部付部長
データサイエンティスト/機械学習エンジニア


専門分野:認知科学、ヒューマンコンピュータインタラクション
ビジネスの現場では、AI(人工知能)を用いた自動化、効率化が急速に進められています。日常生活においてもChatGPTに代表される生成AIを使う人が増えています。人間とAIは今後どのように共存していくことになるか……誰もが気になるところでしょう。今回は、総合リース会社でデータサイエンティストとして活躍する三井住友ファイナンス&リース株式会社の加月佳子さんと関東学院大学情報学部(2026年4月新設)の吉川厚教授に、「AI時代に人間はどう変わっていくべきか」をテーマに幅広く語り合っていただきました。
「人工知能」と「認知科学」は車の両輪の関係
——吉川教授のご専門は、「認知科学」ということですが、これは情報学に含まれる領域なのでしょうか?
吉川 いい質問です。人工知能とは、人間のように振る舞う計算機、つまりコンピュータのことを指すのが一般的な定義といえるでしょう。そして、近年の生成AIと呼ばれるテクノロジーを支える基盤がディープラーニング(深層学習)です。さらに、この技術の基盤がニューラルネットワークと呼ばれるもので、これは人間の脳に“着想”を得た技術になります。ニューラルネットワークの基本的なアイデアは、1950年代からすでにあって、そこからAI研究はブームと冬の時代を繰り返しながら発展してきました。今は「第3次AIブーム」なんて言われますが、その裏側でずっと伴走してきた大きな流れが「認知科学」なんです。

加月 AIの文脈で認知科学を強く意識したことはなかったのですが、どういうことでしょう?
吉川 つまり、「計算機を人間っぽく動かす」というAI研究を進める過程で、研究者たちは「そもそも人間の仕組みがよくわからない」という壁にぶつかり、認知科学に注目が集まるようになったのです。認知科学は英語でCognitive Science。人間が「どのように考え、理解し、判断し、行動するのか」という心の働き(認知)を学際的に解明しようとする学問分野です。「人間とは?」を追究する性質上、人工知能学会と認知科学会の両方に所属している研究者が多いのもまったく不思議ではないのです。
加月 なるほど。人間か機械かというアプローチの違いであって、研究対象がまったく異なるわけではない。
吉川 そうです。そういう意味で、人工知能と認知科学の研究は、ずっと車の両輪として進んでいるような関係性なのです。
加月 昔からあったAI研究の基本的なアイデアが、マシンパワーの進化によって、ようやく実力を発揮するようになったという話はよく聞きます。
吉川 まさにその通りで、昨今の生成AIを支える「大規模言語モデル(LLM)」は、圧倒的な計算資源とデータ量によって爆発的に伸びました。ここまで来ると、AIにどれだけ大量の質のよいデータを食わせたか(学習させたか)の戦いになってきますよね。
加月 よくわかります。計算資源とデータ量以外の部分で違いを出すことが企業のAI活用の価値になると思います。
生成AIを社内向けにカスタマイズして活用
——加月さんがお勤めの三井住友ファイナンス&リース株式会社は、金融・リースという領域でビジネスを展開されています。業務において、加月さんはどのような役割を担っていますか?
加月 私の仕事は、データ・AI活用によって、ビジネスや社会にどのように貢献できるかを考えることです。データサイエンティスト、機械学習エンジニアと呼ばれる職種にあたります。AIや機械学習をはじめとする新たな技術やその適用領域を探索することで、より高次の価値創出を目指すとともに、メンバーの活躍の場を広げていくことも業務における大切なミッション(使命)です。以前は、自分自身もデータ分析やAIのモデル開発の実務を担っていましたが、現在は各プロジェクトの実務は基本的に部内のメンバーに任せて、私自身は全体の統括やメンバーのサポートを行うことが多いですね。

吉川 業務のどのような分野でAIを活用していますか?
加月 メインで活用しているのは、「予測AI」です。サプライヤー部門(※)で導入しており、リースをする際の「審査(貸しても大丈夫か判断する業務)」の業務で使っています。具体的には、リース取引の申し込みをWebやスマホアプリ上で行い、取引の可否を最短数分で回答できる自動審査システムを自社開発しました。自動化できない複雑な案件については、担当者が判断をする際の参考材料として「予測AI」を活用するケースもあります。
※中小企業向け小口販売金融ビジネス

吉川 なるほど。予測AIがすでに業務の中核に入っているんですね。
加月 社内における生成AIの活用も進んでいます。まずは、社内専用のAIチャットボットを開発しました。もちろんChatGPTをそのまま使うわけではなく、社内で閉じた環境で使えるようにカスタマイズしています。さらに、社内規定類などを参照できる形のAIチャットボットも別途リリースしました。
吉川 社内の知識を参照できる状態にするところまで来ているわけですね。IT企業ではなく、金融系企業でもこのくらいは当たり前の時代なんですね。
加月 開発現場としては、やっとここまで来たという感覚です。
重要なのはAIと人間の「適材適所」の関係性
——社内でAIを活用する上で、どのような課題がありますか?
加月 最も大きな課題は、データの扱い方です。これまでの予測AIで扱ってきたのは、過去の取引などをベースにした「構造化データ」です。これは機械学習など既存の技術で扱いやすい。ただ、問題は「非構造化データ」なんです。これは社内で散在している規定類などで、決まった形式に整理しづらい。これらをまとめてどのように活用するか……データサイエンティストの腕の見せどころになります。

吉川 ここはかなり専門的な部分なので踏み込みませんが、機械学習として扱いづらさが残る「非構造化データ」を活用できれば、強みになるということですね。
加月 まさにそうだと思います。「意思決定プロセス」と「業務プロセス」でAI活用のアプローチは異なります。ここをいかに融合させていくかが、今後の課題になりそうです。ただ、私が最も重視しているのは、AIと人間の「適材適所」の関係性です。AIによる効率化が進むことで、社員の個性が消えるような運用は絶対に避けるべきです。人間が個々の強みを活かして、より楽しく働けるような仕組みをつくりたいですね。
「フィーリング・エコノミー」の時代へ
吉川 時代の流れとして、今は「フィーリング・エコノミー」という概念で語られることがあります。メカニカル(大量生産)の時代、シンキング(知識)の時代を経て、次は「感情」や「体験」が経済的価値を持つ時代になるという言説です。
加月 「フィーリング」というのは、社員の働きやすさや顧客体験みたいなものですか?
吉川 その通りです。先ほどの「より楽しく働ける」という「体験」は、AIが勝手につくってくれるものではなく、人間側が設計しなければいけません。どこまで自動化し、どこから人間が担うのか。そのシステム設計次第で価値が生まれるわけです。
加月 非常に興味があるテーマです。
吉川 最近の海外の研究では、「人間とAIが役割分担する時代」から、さらに進んで、「どちらも主導権が取れる時代が来る」という議論もあります。つまり、AI自らがどんどん提案してくる時代も近づいている。
加月 現場感覚で言うと、確かにそういう未来はあり得ます。例えば、意思決定の場面で、「調査機能」の役割を担うAIエージェントが必要な情報をサッと用意してくれて、判断のアドバイスをくれるような……。
吉川 採用するかどうかを決めるのは、あくまでも人間ですが、提案そのものは、AIが勝手に差し出す。そういう関係性ですよね。ただ、そんな未来はもう少し先かもしれません。現状では、こちらが相当働きかけないとAIは何もしてくれません。
加月 いわゆるプロンプト(命令)の工夫が必要ということですよね。意外と高いハードルだと思います。
吉川 私も大学で、学生に「生成AIを使っていいよ」と言っていますが、単純に「この課題のレポートを書いて」と命令して出てくるものは、どうしようもないものが多い。しかし、資料を読み込ませて、自分の主張を書いて、条件を提示すると、それなりのものが出てくる。むしろ、これが次世代の「能力差」になるのかもしれません。
加月 技術知識というより、「クリアに言語化する」「必要な要素を漏らさない」「簡潔に説明する」など、人間同士のコミュニケーションに近い能力がますます求められていく気がしますね。
「楽しようとした人が、楽できなくなる」
——文系学生にとって、それは希望の光になるかもしれません。プログラミングはどうしても難しい。それでも日本語で「クリアに言語化する」ことならできるという人も多いのでは?
吉川 面白い研究があって、ちょっと前は企業で生成AIを導入するとスキルの低い人の助けになると言われていましたが、今はスキルが高い人は生産性が上がるのに、スキルの低い人は逆にパフォーマンスが落ちるという結果が出ている。知識がないと出てきた結果をそのまま信用して、バグや誤りを検証できないのがその理由のようです。
加月 生成AIのアウトプットを鵜呑みにしない「クリティカルな視点」は重要です。
吉川 つまり、「楽しようとした人が、楽できなくなる」という世の中になるのです。AIは便利だけど、使い手の能力を明確化してしまう。そこが怖いところでもあります。
加月 新たな課題ですね。ただ、物心つく頃から生成AIが手元にある「AIネイティブ」の子どもたちは、大人が心配するほど使い方に困っていない可能性もありますよね。
吉川 大学の現場を見ていると「AIを使うとバカになるから」と自分の意思で生成AIを放棄している学生もいます。そこは尊重しないといけない。「AIは不可欠」といいつつ、そういう人たちが、阻害されるような社会をつくってはいけないと思います。
加月 企業に当てはめて考えても誰もがAIを使う必要はなく、強みを伸ばせる人が使えばいいわけですからね。
AIエージェントの表情次第で人間の話す内容が変わる!?
吉川 「知らないうちに使っている」というのが未来のAIの理想的な姿だと私は思っています。これは、私の専門分野のひとつである「ヒューマンコンピュータインタラクション」の研究に通じるものがあります。

加月 具体的には、どのような研究をしているのですか?
吉川 これは、人間が持つ身体的・心理的な特徴に応じて、より適したコンピュータ技術のあり方を研究する学問分野なんですね。例えば、私がやっている研究のひとつに、「医療系対話エージェントの開発」があります。対話エージェントとは、つまり対話をしてくれるAIのことです。そこでわかるのは、エージェントの顔(見た目)を変えるだけで、患者の話す内容が変わるということです。人間同士で話をする場合も相手の外見や口調、話題の提示方法などによって、話しやすさは大きく変わりますよね。そうしたデータをAIにインプットして、より自然な対話エージェントとはどのようなものかを探っています。
加月 顔というのは、リアルな写真なんですか?
吉川 そこが面白いところで、不気味の谷というのがあって、日本人はリアルになっていくと急に不気味がる傾向が報告されている。なので、アニメだったり、動物だったりしたほうがいい。これは対話するときの姿勢の差も大きい。欧米だと正面を向いて話すのが真摯。でも日本だと正面は怖い、斜めが落ち着く。
加月 確かにそうだと思います。面白い。
吉川 こういう文化的・認知的条件を踏まえないと使える対話エージェントにはならない。ここに先ほどの「認知科学」の知見が生かされるわけです。さらに、その先の未来を考えるとAIに身体性が必要かという議論も出てきます。
加月 身体性、つまり物理的にそこにいるということですか?
吉川 そうです。例えば、ペットロボットの「LOVOT(ラボット)」は愛着が生まれやすい。理由のひとつは、物理的な身体があること。そばにいて、抱っこできる……それが意外と重要なんです。仕事を頼む相棒AIでも、画面上だけでいいのか、身体がある方が頼みやすいのか。ここは今後、大きなテーマになると思っています。
加月 会社のデスク上に物理的なAIロボットがいる……。想像するだけで面白いですね。
複数のコミュニティと接点を持つことが価値になる
——AIの未来像について、さまざまな議論がありました。ここで、本日のメインテーマである「AI活用が加速する時代に人間はどう変わっていくべきか」について伺いたいです。
加月 AI時代といってもプログラミングやデータ分析ばかり学ぶ必要はなくて、手を動かして何かをやってきた経験がますます重要になると思っています。それは、スポーツでも楽器でも茶道でもいい。常に好奇心をもって、さまざまなことに挑戦してきた人は、社会人になっても自ら知識を得て、仕事の幅を広げていきます。例えば、私の部署では、学生時代からAIコンテストに出て、仲間と一緒にさまざまな試行錯誤を続けてきた経験がある社員が、仕事現場でも次々と新しいアイデアを生み出しています。
吉川 昔から変わらないかもしれませんが、大学でとにかくいろいろな体験をした学生は社会に出てからしっかり伸びていきますね。大切なのは、学生時代から複数のコミュニティと接点を持つことです。特に、社会人との接点が重要になります。私が所属する関東学院大学では、「社会連携教育」に力を入れていて、企業の実際の課題を解決するPBL(課題解決型学習)に取り組む機会が豊富にあります。連携先には、日本IBMなどの一流企業も数多くあります。PBLの授業に積極的に参加するような学生は、大学時代から社会人と話すのが当たり前になるので、社会に出てからも順応が早いですよね。話を戻すと、AI時代に求められるのは、むしろこうした「社会とつながる力」なのかもしれません。

——最後にこれから大学に進学する中高生など若い世代にメッセージを。
加月 とにかく、これからの時代は「体験」を重視してください。勉強も大事ですが、頭に詰め込むだけじゃなく、自分の目で見て、耳で聞いて、足を運んで、触れる。AIは、その広い体験の中の“ひとつの道具”として使うのがいいと思います。AIと1対1でどっぷり向き合うより、価値観の異なる人と話して、いろいろな体験をして、自分の譲れない「何か」を見つけて、それを深めてほしい。まだ、見つかっていないなら、隣接する領域をどんどん探索していけばいい。まさに、複数のコミュニティに参加することが重要になるかもしれませんね。
吉川 高校時代に多くのことを体験した学生と、しなかった学生では、学びに向かう姿勢も明らかに違います。データを扱う人ほど、それがわかるはずです。数字の意味って、裏に体感があると急に見えてくるんです。“ただの数字”が“現実”につながる——その瞬間を味わうのが、「情報学」の醍醐味でもあると思います。
【取材協力】
三井住友ファイナンス&リース株式会社(SMFL)
株式会社三井住友フィナンシャルグループと住友商事株式会社の戦略的共同事業として共同出資する総合リース会社。SMFLグループは、国内リース事業、地球環境事業、不動産事業、トランスポーテーション事業、国際事業など、多岐にわたるビジネスを展開している。
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三井住友ファイナンス&リース株式会社(SMFL)
※掲載情報は、2026年1月時点のものです。


