【一橋大学】社会科学+データサイエンスで現代社会の課題を解決する
一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部
学部長
2023年4月に新設された一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部は、社会科学とデータサイエンスを融合した新たな学術領域の開拓に挑む。目指すのは、「開発・マネジメント型人材」と「分析・マネジメント型人材」の育成。幅広い観点からビジネスの革新や社会課題の解決を模索する新たな学びについて、学部長の渡部敏明教授に話を伺った。
目指すのは「開発・マネジメント型人材」と
「分析・マネジメント型人材」の育成
「現代は『ビッグデータの時代』と言われるように、大量かつ多種多様なデータが入手可能です。こうしたビッグデータから有用な情報を抽出するデータサイエンスは、社会から注目を集めています」
そう語るのは、一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部の渡部敏明学部長。学部名の「ソーシャル」は、経済学、経営学、法学、政治学、社会学などの社会科学を意味するもので、統計学、情報・AIなどのデータサイエンスに加え、社会科学も幅広く体系的に学ぶことができる。さらに、「PBL(Project-Based Learning)演習」などを積極的に取り入れ、分析力、リーダーシップ、プレゼンテーション力の養成にも力を入れていく。
目指すのは、「開発・マネジメント型人材」と「分析・マネジメント型人材」の育成だ。「開発・マネジメント型人材」とは、統計学・機械学習などデータ分析の知識、データベース・アルゴリズムなど大規模データの管理・活用の知識に加え、社会科学の幅広い知識を駆使して、開発の立場から社会課題にコミットできる人材。言わばシステムエンジニアの立場から利便性の高いデータ分析基盤を開発し、社会に貢献できる人だといえる。
一方、「分析・マネジメント型人材」とは、社会科学とデータサイエンスを融合した知識を活用して、既存の社会科学では解決できない新たな課題に対応可能な組織運営に挑む人材を指す。つまり、自らもデータ分析を行える能力を備えた上で、組織をマネジメントできる人だといえるだろう。
学部の特色は以下の通り。
一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部 3つの特色
1 社会科学の体系的な知識を修得できる
データサイエンス系の学部でありながら、一橋大学が長い歴史の中で培ってきた社会科学系の幅広い知識を修得できること。他学部の科目もほぼ自由に履修可能で、社会科学領域の理論を深く学ぶこともできる。よって、社会科学の理論を用いてビジネスや政策上の課題を抽出し、データサイエンスの手法でそれらの課題を解決するスキルを身につけられる。
2 「PBL演習」を通じた実践的な知識・スキルの修得
3年次の必修科目である「PBL演習」では、企業や政策機関などで実際に行われているデータ分析に関わり、社会科学とデータサイエンスの知識を融合した課題解決に挑む。演習は製造業、コンサルティング企業、官公庁などおよそ20機関と協力して実施する。授業の最後には、社会人に向けてプレゼンテーションを行い、フィードバックを受けることができる。
3 伝統のゼミナールを通じた全人的教育
一橋大学の伝統であり、カリキュラムの中核である3・4年次必修のゼミナールでは、担当教員や他学生との濃密な議論を通じた深い学びを得るとともに、独自の問題意識を醸成していく。そして、その問題意識に基づく研究を実施し、成果の集大成となる学士論文を執筆する。データサイエンス系のゼミナールでは、多くの学生が大学院進学を選ぶことが予想される。
【特徴的な授業やプログラム】
データサイエンスの基礎とその法・倫理を学ぶ必修科目群
次に特徴的な授業について見ていこう。まず、1年次の「ソーシャル・データサイエンス入門Ⅰ・Ⅱ」では、社会科学とは何か、データサイエンスとは何かについて紹介し、ソーシャル・データサイエンスという新しい学術領域の全体像を共有する。その上で、対象となるビジネス・社会課題の各領域について、データ分析事例を交えて学んでいく。
そして、2年次には、「ソーシャル・データサイエンスの法と倫理」で、データサイエンスの社会実装に不可欠な法と倫理の関係にも目を向ける。ビッグデータの分析と取り扱いに関する倫理基準、データとプライバシーに関する法制度の展開について詳しく学び、個人情報の扱いやAI規制についても議論できる知識を醸成する。
「カリキュラム全体としては、ビジネス領域、社会課題領域、データサイエンス領域の3領域について、体系的な知識を修得できるように設計されています。すべての学生は、ビジネス領域(経営学、マーケティング、経済学など)から少なくとも1分野、社会課題領域(法学、政治学など)から少なくとも1分野を選択し、導入科目→基礎科目→発展科目と系統的な学修を行います。併せて、データサイエンス領域では、統計学、情報・AI、プログラミングという3分野で系統的に学ぶことができます」
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一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部カリキュラム
【注目すべき教員や施設】
統計学を使った研究ノウハウの蓄積がある
ソーシャル・データサイエンス学部は新設だが、一橋大学では、もともと統計学を用いて、社会課題を解決する研究が既存の学部で幅広く行われてきた。つまり、データサイエンスの基盤となる統計学のノウハウの蓄積は十分にある。渡部学部長は、この点に期待を寄せる。
「ソーシャル・データサイエンス学部では、もともと各学部に在籍する統計学の教員と情報系の新たな教員のコラボレーションが始まります。AIの画像認識や自然言語処理を専門とする新たな教員の知識が加わることで、大学全体が成長できればと考えています」
【入試制度】
一般選抜では数学Ⅲの範囲も出題される
社会科学とデータサイエンスを融合した知識を修得するためには、数学の堅固な基礎知識とそれに基づく論理的な思考力、さらに日本語および英語を用いた読解力、説明力、表現力が必須となる。そのため、一般選抜では共通テスト、2次試験ともに数学が必須となる。さらに、後期日程では数学Ⅲの範囲の問題も出題される。
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一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部入試情報サイト
【想定される進路】
民間企業や官公庁の幅広い分野で活躍してほしい
一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部が目指すのは、社会科学とデータサイエンスを融合して、社会課題を解決できるゼネラリストの育成だ。卒業後、活躍するフィールドは、「開発・マネジメント型人材」と「分析・マネジメント型人材」で多少異なるという。
「開発・マネジメント型人材」は、主にシステム開発系の民間企業でITエンジニア、システム設計者、データサイエンティストなどの職を得て活躍していくことが予想される。一方、「分析・マネジメント型人材」は、主に政府機関、金融機関、コンサルティング企業、商社など幅広い分野で、政策分析担当者、アナリスト、ストラテジストとして活躍していく未来が待っているという。最後に渡部学部長から高校生に向けたメッセージをいただいた。
「ソーシャル・データサイエンスという耳慣れない学問領域を学ぶにあたり、不安に思う人も多いでしょう。その点では、むしろこのリスクをチャンスと思える人に集まってほしいです。1学年約60名という少数精鋭の環境で、革新的な学びの場を一緒につくっていきましょう」
※掲載情報は2024年9月時点のものです。
Text by 丸茂健一(minimal)