【山形大学】理学部で学ぶ理論的なデータサイエンスとは?
山形大学理学部
主担当
山形県内に4つのキャンパスを構える国立山形大学。山形市の小白川キャンパスに設置された理学部理学科にはデータサイエンスコースカリキュラムがある。理学部で学ぶデータサイエンスとは、どのようなものだろうか。データサイエンスコースカリキュラムを担当する脇克志教授に話を聞いた。
理学精神を礎に地域・社会の課題解決に挑む
山形大学理学部は、1920(大正9)年創立の旧制山形高等学校、第二次大戦後の1949(昭和24)年に開設された山形大学文理学部をルーツとする長い歴史を持つ。ここで継承されてきた理学精神を礎に、地域・社会の課題解決に対応できる教育・研究に取り組んでいる。
「理学部理学科が6コースカリキュラム制となった2017年にデータサイエンスコースカリキュラムが誕生しました。従来の統計学やデータ分析の研究をベースにデータサイエンスやAI(人工知能)を活用して地域の課題に取り組める人材を育成しようと考えました」
そう語るのは、理学部主担当でデータサイエンスコースカリキュラムでも指導にあたる脇克志教授だ。専門分野は「数理科学」。「表現論」と呼ばれる代数学の一分野のエキスパートだという。山形大学の工学部には、情報系の学科もある。なのに、なぜ理学部にデータサイエンスコースカリキュラムがあるのだろうか。脇先生は、コースカリキュラムの特色を以下のように説明してくれた。
山形大学理学部理学科データサイエンスコースカリキュラム 3つの特色
1 データサイエンスを理論的に学べる
昨今の機械学習、深層学習(ディープラーニング)など、AI・データサイエンス分野の最先端技術は加速度的に変化を繰り返している。使用するプログラム言語や開発環境も同様だ。だからこそAIを形づくる仕組みの原理原則を知ることが重要だと脇先生。理学部ならではの理論的な学びで、変化しても揺るがないデータサイエンスの基盤を形成できる。
2 データサイエンスで地域社会に貢献
理学部には、データサイエンスやDX(デジタルトランスフォーメーション)に挑戦する授業などが多数ある。データサイエンスの学びを地域社会のために役立てる実践的な教育環境がここにある。
3 卒業生の多様な進路
データサイエンスコースカリキュラムで学んだ卒業生の活躍の場は、IT企業ばかりではない。むしろ、公務員や金融業界、製造業など、就職先は実に多彩だ。在学中にデータサイエンスを駆使して、社会問題の解決に挑んだ経験は、社会のあらゆる分野で役立っている。
【特徴的な制度やプログラム】
データサイエンスマイスター制度
山形大学では、ビッグデータから価値ある情報を読み解き、それを活用して社会課題を解決できるデータサイエンス人材を育成している。それは、理学部だけでなく、全学的な取り組みで、その指針となるのが、「データサイエンスマイスター制度」だ。脇先生に詳しく聞いてみよう。
「この制度では、基盤共通科目から、データサイエンスに関連する特定の科目を履修し、修了条件を満たした学生をデータサイエンスマイスターとして認定しています。認定基準は、ベーシック(リテラシーレベル)、アドンバンスト(応用基礎レベル)の2段階。小白川キャンパスでは、誰でもデータサイエンスを基礎から学べる環境が整っています」
また、注目すべきプログラムとしては、理学部で2022年からスタートした「地域デジタルデザイン思考演習 」がある。授業では、デザイン思考を学びながら地域社会・環境に関するデータを収集し、目的に合わせて変換し、地域社会・環境で起きる現象を把握するデータ処理思考力を養う。
「これはまさにデータサイエンスを駆使したフィールドスタディです。理学部の奥野貴士教授は、西洋ナシの棚仕立てで優れた栽培文化を有する山形県上山市、及び生産者に協力いただき、園地環境、果実成分を地域から収集する方法を確立し、生産者がそれらデータを共有できるアプリ「かるほく」、「コレみーる」を開発した。今後は、収集したデータを凍霜害などの災害対策に役立てる。このように、前例のない課題に対してデザイン思考とデータサイエンス的思考の手法を取り入れて、地域課題の具体的な解決策を提案することがこの授業の目標になります」
【注目すべき施設】
データサイエンス教育研究推進センター
山形大学の全学的な数理・データサイエンス教育の推進と地域ニーズに対応した実学志向の教育コンテンツの開発を目的に、2019年に小白川キャンパスに設置されたのが、データサイエンス教育研究推進センターだ。さらに、データサイエンス教育に関するプログラムや教材の開発も行っている。
「当センターは、山形大学のデータサイエンス教育の拠点のような場所です。定期的にデータサイエンスCaféというイベントを開催し、データサイエンスに関連するテーマのプレゼンテーションなどを行い、この分野に興味を持つ社会人・教員・学生が交流できる機会を創出しています。また山形大学と地域企業のつながりを活用して、県内に本社を置く企業の社会人から、卒業研究に取り組む学生にアドバイスをいただくことがあります」
【想定される進路】
卒業生の多くは一般企業のIT部署で活躍
山形大学理学部データサイエンスコースカリキュラムを履修して卒業した学生の多くは、関東圏や仙台市内のIT系企業に就職する。最近は、DXの支援などを行うITコンサルティング企業からの求人も多いという。理工系人材に対する求人は増えており、理学部卒業生の就職率は2015年度から9年連続で100%を達成している。
「全般的には、バリバリのプログラマーになるというより、一般企業のIT部署で活躍しているような卒業生が多いと思います。公務員から金融系、医療系、介護系など実にさまざまです。また数学の教員免許を取得して、教員として活躍している卒業生もたくさんいますよ」
脇先生の話を聞くとデータサイエンスとは、数学や統計学を基盤にした実直な研究であることに気づかされる。「AI! ロボット!」と最先端の技術を闇雲に追いかけるより、じっくりとデータサイエンスの基盤となる理論を理解し、着実にプログラミング技術を修得して、地域社会の課題に挑む——山形大学理学部データサイエンスコースカリキュラムは、そんな未来を描く受験生に向いている進学先といえそうだ。
※掲載情報は2024年9月時点のものです。
Text by 丸茂健一(minimal)