【佐賀大学】AIを駆使して、社会を変革するソフトウェアを開発する
佐賀大学コンピュータ・ソフトウェア研究室
コンピュータ・ソフトウェア研究室
専門:ソフトウェア工学、データベース、情報専門教育
AI・データサイエンス系大学・学部の研究室では、どのような研究が行われている? メールソフト、機械翻訳、飲食店の予約サービスなど、私たちの生活はさまざまなソフトウェアによって支えられている。そんなソフトウェア開発の現場が、生成AIの登場で大きく変わろうとしている。佐賀大学理工学部コンピュータ・ソフトウェア研究室の掛下哲郎准教授に話を聞いた。
社会をよくするためのソフトウェアや情報サービスを開発
スマホ、家電、自動車、交通、商店、金融、教育、病院、政府など、ソフトウェアは私たちの生活の隅々に溢れている。現代のソフトウェアや情報システムは、社会を支える基盤(インフラ)になっているといっても過言ではない。
佐賀大学理工学部情報部門の掛下哲郎准教授は、革新的なソフトウェアで社会を変えることを目標として、幅広い研究に取り組んでいる。
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[理工学部理工学科データサイエンス分野] データサイエンスコースの紹介(YouTube)
「過去30年間を見ても、パソコン、インターネット、携帯電話、Google、Facebookなど、人々の仕事のやり方を根本的に変えたソフトウェアは数多くあります。最近は、オンライン技術、メタバース、ブロックチェーン、ChatGPTをはじめとする生成AIなどが教育・研究だけでなく社会にも大きな影響を与えています。私が担当するコンピュータ・ソフトウェア研究室では、Society 5.0等に代表される将来の社会を展望し、社会をよくするためのさまざまなソフトウェアや情報サービスを企画・開発しています」
例えば、ChatGPTを使えばテキスト生成だけでなく、簡単なプログラムの生成もできる。つまり、生成AIを活用すれば、より少ない労力でソフトウェア開発が可能になる。そうすれば、プログラマーやシステムエンジニアは、以前と同じ労力で、より高度なソフトウェア・情報サービスの企画・開発ができるようになる。そんな新たな時代に、人間はAIをどう使いこなすことができるのか——。最近の掛下准教授の関心はここにある。
「AIがプログラムも書いてくれる時代に突入しています。そこで問われるのは、AIにどんなプログラムを書いてほしいか。つまり、今後のプログラマーやシステムエンジニアには、AIに命令を的確に伝える力が求められます。また、生成AIはウソをつくことが知られています。AIの出力を鵜呑みにせず判断できる幅広い教養、さらに、AIが生成したプログラムを理解する知識も必要になるでしょう。いずれにせよ、これからのエンジニアは、人間だけでは実現できないことをAIと一緒にやっていく時代を生きていくことになります」
AIを駆使して、どのようなサービスを創出するか
高齢化、労働生産人口の減少、介護・医療現場の人材不足など、現代の日本はさまざまな社会課題を抱えている。その解決策を考える手段として、AIを駆使して、どのようなサービスを創出するかを考えるのが、これからのソフトウェアや情報サービスの開発者に求められるという。
「研究室の学生に、個別のプログラミング言語を教えることは基本的にありません。PythonやJavaなど最新の言語は、授業でも教えていますし、WebやAIに質問すれば教えてもらえます。私はむしろAIを有効に活用してソフトウェアの企画や設計・品質保証などを効果的に行う手法を学生と一緒に研究したいと考えています」
掛下准教授は、これまで主にソフトウェア工学やデータベースの研究に取り組んできた。具体的には、情報システムを駆使した「プログラミング教育支援ツール」や「ソフトウェア開発支援ツール」の開発などを行っている。
また、データサイエンス分野においては、情報処理学会のデータサイエンス教育委員会 委員長として、データサイエンス・カリキュラム標準の策定にも尽力してきた。
「データサイエンス分野の資格制度やカリキュラム標準に関するさまざまな取り組みが世界中で進んでいます。そこで日本や世界における情報処理の専門家とチームを組み、データサイエンス教育の体系化に貢献すべきと考えました。データサイエンス教育では、①データを収集するしくみ、②データを安全に管理するしくみ、③データを分析するしくみ、④データがもたらす知見に基づいて新しいサービスや製品をつくること、この4分野をバランスよく学びます。データサイエンスの全体像を把握した上で、生成AIを使いこなすことができれば、大きな力になるでしょう」
生成AIの登場でプログラミングの手順も大きく変わる
掛下准教授によれば、生成AIの登場によって、プログラミングの手順は大きく変わるという。従来のプログラミング工程では、①人間によるコーディング→②コンパイル(コンピュータ向けの書き換え)・修正作業→③デバッグ(検証)・修正作業と進んでいた。
それが今後想定される工程では、人間の作業は①コード生成指示→②コンパイル確認→③修正指示→④実行結果確認→⑤修正指示となり、具体的な「コード生成」や「コード修正」は、AIが行うようになるという。つまり、人間に求められる役割が根本的に変わる。コンピュータ・ソフトウェア研究室では、こうした新しい開発工程についても詳しく学べそうだ。
「これまでソフトウェア開発の現場は、いわば職人技の世界でした。それが、生成AIの登場によって、これまで職人が担ってきたコーディングの作業は、言わば“工場で自動化”されることになります。もうエンジニアが数万行のプログラムを書く必要はありません。今後は、同じ労力で、10倍、100倍のソフトウェアをつくれるようになるのです」
これはそのまま教育現場にも当てはまる。今後は大学のレポート提出やプログラミングの課題もAIが相当な割合を手伝うようになると掛下准教授。プレゼンテーション用のスライド資料も生成AIにテキスト数行の指示を与えれば、できてしまう時代が来るだろう。学生は、日々の課題から解放され、より面白いことに挑戦できるようになる。そこで問われるのは、どのような力なのだろうか。
「経営学者ピーター・ドラッカーの著書に『未来を予測する最良の方法は、未来を創ることだ(The best way to predict the future is to create it.)』という名言があります。まさにこれからの時代を生きる皆さんに向けた言葉です。データサイエンスをはじめとした幅広い知識を活かして、どのような未来を創りたいか……。その発想力が問われます。ぜひAIを駆使して、社会を変えてしまうような革新的なソフトウェアを開発しましょう」
研究室の詳細
コンピュータ・ソフトウェア研究室
ミッションは、Society 5.0等に代表される将来の社会を展望し、社会をよくするためのさまざまなソフトウェアや情報サービスを企画・開発すること。「プログラミング教育支援ツール」や「ソフトウェア開発支援ツール」など、さまざまなソフトウェア開発に取り組んでいる。AIを駆使したソフトウェア・情報サービスの開発にも挑戦できる。
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コンピュータ・ソフトウェア研究室
Text by 丸茂健一(minimal)/Illustration by 竹田匡志