【佐賀大学】データサイエンスコースを新設!多彩な13コース
佐賀大学理工学部
理工学部
佐賀大学理工学部では、データサイエンスコースを含む13コース体制で理工系の幅広い学びを提供している。データ駆動型社会のニーズに応え、全コースでデータサイエンス教育を実施。数理、情報、化学、物理学、機械工学、電気電子工学、都市工学など自分の得意分野でデータサイエンスの知識を活かすことができる。今回、皆本晃弥教授に、データサイエンスコース新設の背景や佐賀大学の目指すデータ活用の理想像を聞いた。
令和5年度からデータサイエンスコースを新たに設置
日本政府は、「Society 5.0」というビジョンを掲げ、「超スマート社会」の実現を目標として動き出している。これは、デジタル技術などを駆使して、あらゆる人が質の高いサービスを受け、多様性を乗り越えて、誰もが快適に生活できる社会を実現する動きを指す。
近年、データサイエンス系学部・学科の新設ラッシュが続いている。なかでも「文理融合型」のデータサイエンス学部を標榜する大学が目立つ。そんななか、佐賀大学は「理系」に特化した専門的な学びを提供することを目的として、理工学部理工学科に「データサイエンスコース」を新たに設置。急速にニーズが高まっているデータサイエンティストやDX推進の中核を担うことができる人材の育成を目標としている。
「2030年に最大で約79万人のIT人材が不足すると経済産業省が発表するなど、IT人材の育成は日本にとって喫緊の課題です。また、少子高齢化などに伴った、労働人口の減少にも対応しなければならず、AIやデータの活用も求められています。佐賀大学理工学部は、令和元年度に学部改組を行い、1学科12コース体制のもと、全コースの学生を対象とした共通教育としてデータサイエンス教育を実施してきました。また、同年度に大学院改組も行い、大学院理工学研究科修士課程にデータサイエンスコースを設置。その後、令和3年度には同研究科博士後期課程に数理・情報サイエンスコースを、令和4年度には同研究科にAI・データサイエンス高度人材育成プログラムを設置するなど、数理・データサイエンス・AI教育の充実を図ってきました」
そう語るのは、理工学部数理・情報部門の皆本晃弥教授。そして、令和5年度からはデータサイエンスコースが設置され、理工学部理工学科は13コース体制となった。その後、令和6年度には、情報系3コース(知能情報システム工学、情報ネットワーク工学、データサイエンス)の定員を30名増員した。
「データサイエンスコースの設置に伴い、地元企業にヒアリングを行った結果、『数学、プログラミング、情報科学など理系分野を重点的に教育してほしい』と要望がありました。ビジネス的な部分は企業でも教育できますが、理系の理論的な部分は企業では教育が難しいということです。データサイエンスや情報分野の理論を突き詰めて学び、その理論を実装までつなげていける人材の育成を目標としています」
佐賀大学理工学部 3つの特色
1 「やりたいこと」が必ず見つかる13コース
1年次に理工教育の要である数学、物理、化学、⽣物、データサイエンスなどを学び、基礎力を強化していく。コース選択は2年次から。13の専門コースの教育研究内容に少しずつ触れながら、1年を通して「自分のやりたいこと」を考えることができる。それぞれのコースによってその研究内容も多種多様。今やりたいことがなくても、さまざまな研究に触れながら、「やりたいこと」が必ず見つかるのが佐賀大学理工学部の特徴のひとつだ。
2 他コースと協力して行うPBL(問題解決演習)
複眼的な視点から業務を遂行するために、2年次にサブフィールドPBLを実施。6つのサブフィールド(理学、情報技術、化学、機械工学、電気電子工学、都市工学)のうち、自分の専門外の5つのフィールドの講義を各3回、合計15回受講する。その後の演習ではコースの混在した5名程度のグループをつくり、最新のトピックや地域に根差した課題に取り組んでいく。なお、令和5年度より、企業と協力して、AI実習を実施しており、全学生がこれを受講している。
3 社会とつながる教育を積極的に推進!
理工学部では、さまざまな分野の教員が関連企業との共同研究を行なっている。学生自身も在学中から共同研究に携わったり、インターンシップに参加したり、自分のアイデアをカタチするなど実践の場が多くあったりする。
【特徴的な授業やプログラム】
全コースでデータサイエンス教育を実施
佐賀大学理工学部が、DX人材を育成するために力を入れているのが、数理・データサイエンス・AI教育プログラム。これは、今後のデジタル社会において数理・データサイエンス・AIを日常生活や仕事の場で利活用できる基礎的素養を身に付け、問題解決や他者との円滑なコミュニケーションなどに正しく活用できる人材を育成することを目的としている。
このプログラムは、理工学部におけるすべてのコースで実施されており、リテラシーレベルから応用基礎レベルまでのデータサイエンス教育をすべての学生が受ける。データサイエンスを学び、それを他分野に応用していける人材が求められる昨今の流れに、いち早く対応したといえる。実際、大学全体で実施している「佐賀大学データサイエンス教育プログラム(リテラシーレベル)」は、文部科学省より令和4年度に「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定され、令和5年度には「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)プラス」に選定された。また、理工学部で実施している「佐賀大学データサイエンス教育プログラム(応用基礎レベル)」が、令和5年度に「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(応用基礎レベル)」に認定されされ、令和6年度に「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(応用基礎レベル)プラス」に選定された。
「認定制度対応ということで、全学的に必修であるリテラシーレベルがあり、応用基礎レベルもあります。現時点では、応用基礎レベルは理工学部のみが必修ですが、他学部へも展開する予定です。また、理工学部に新設されたデータサイエンスコース、さらに大学院理工学研究科にもデータサイエンスコースがあります。リテラシーからエキスパートまで一貫したデータサイエンス教育が整備されていることが、佐賀大学としての大きな強みだと自負しています」
【特徴的なプロジェクト】
産学連携でビジネス力も養う
「佐賀大学では、産学連携のプロジェクトを推進しており、インターンシップの受け入れなどを地元企業にお願いしています。学部で学んだ理論は社会で活用して初めて意味あるものになります。インターンシップを通して、社会実装するためのビジネス力を養ってほしいと考えています」
理工学部においても、データサイエンスや情報分野の理論を学んだ学生が、ビジネス実装まで担える能力を身につけるため、産学連携のプロジェクトが推進されている。 「建設現場用運搬ロボットへ搭載するための画像処理AIの研究開発」「マッチングアルゴリズムを応用した民泊支援事業」「スマートグラス等を活用したいちごの熟練したパック詰め技術の再現」など、データサイエンスや情報分野を産業のDX化に役立てるプロジェクトが数多くある。
「地方の実情としては、DX化を推進する際にリソースが限られている場合が多く、少人数でも対応できることが求められます。そのため、データサイエンス力だけでなく、データエンジニアリング力も強化し、実践の場で活用する能力や分析結果を現場に伝える能力を養うことも非常に重要になります。産学連携プロジェクトを通して、それらの能力も養っていきます。情報系コースでは、在学中に起業する学生が毎年1人程度は出てくる状況となっています。理論を学んだ上で、自分のビジネスに応用していける学生がデータサイエンスコースでも次々に出てくる状況になってくると面白いですね」
【入試制度】
分野別入試と大括り入試を実施
学校推薦型選抜や総合型選抜などの特別入試で入学した学生は、受験した分野への配属が確約される。すでに学びたい分野が決まっている学生は、これらの入試制度を活用してみるのもいいだろう。令和7年度入試からは、特別入試において女子枠も設けられる。
一方、一般選抜で入学した学生は、1年次の終わりにコース選択がある。本人の希望と1年次の成績によりコースが決定される。一般選抜の学生は、1年間、幅広く多分野を学びながら、自分の配属先を考えることができる。
【想定される進路】
データサイエンス・情報分野は幅広い業界で必要とされている
「データサイエンス力とデータエンジニアリング力の両方の素養を持ったDX人材が、九州内で流動的に循環するような状況になっていくといいと考えています。データサイエンスコース新設の際にも、地元の産業を盛り上げていくことを念頭に置いていました。さらに言えば、AIそのものを開発する企業に就職したり、起業したりする学生が九州の産業を底上げしていけるようになるといいですね」
最後に皆本教授から理工学部理工学科データサイエンスコースに興味を持つ受験生に向けたメッセージをいただいた。
「データ駆動型社会で生きる次世代には、既存の成功にとらわれず、事実、データ、論理に基づいて、新しい価値観を見出していってほしい。自分の頭で考えて、新しい価値をつくるとともに、それを相手に伝えられるスキルも必要です。高校生のうちからプログラミングに触れてみるなど、「情報Ⅰ」の授業もぜひ積極的に取り組んでみてください。また、友達と協力してアプリを作ってみるのもいいと思います。それらを社会に役立てたいと思うことができれば、データサイエンスを興味深く学んでいけると思います」
Text by 仲里陽平(minimal)