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【早稲田大学】ビッグデータを駆使して、消費者動向を探る 【早稲田大学】ビッグデータを駆使して、消費者動向を探る

【早稲田大学】ビッグデータを駆使して、消費者動向を探る

早稲田大学 上田晃三ゼミナール

上田 晃三教授
上田 晃三 教授
UEDA Kozo
早稲田大学 政治経済学部
上田晃三ゼミナール
専門:マクロ経済/経済政策/金融政策/物価

AI・データサイエンス系大学・学部の研究室&ゼミナールでは、どのような研究が行われている? データサイエンスは自然科学系の学問だけでなく、人文・社会科学系の学問でも応用できる。特に経済学との親和性は高く、理論モデルを用いたシミュレーションやデータ分析などを行う場面は多くある。ビッグデータを駆使して「日本経済の不況」を検証する研究も行う、早稲田大学政治経済学部の上田晃三教授にゼミナールにおける取り組みについて話を聞いた。

データ活用でマクロ経済を定量的に分析

早稲田大学政治経済学部・上田晃三教授のゼミナールでは、ビッグデータを駆使して物価動向や消費者動向の分析・評価を行っている。マクロ経済学の理論だけでは十分に理解することのできない経済の実態を、データを活用することによって定量的に把握することが目標だ。

データ活用でマクロ経済を定量的に分析

「私の担当するゼミでは、主にスーパーマーケットのPOSデータとみずほ銀行のビッグデータを用いて分析を行います。POSデータは、お店のレジなどで取得できるデータで、商品のID、カテゴリー、売れた個数や金額などが含まれます。みずほ銀行のデータとしては、口座を持っている人がどこのATMから何時何分にいくらお金を引き落としたのか、クレジットカードがみずほ銀行と紐付けされているのであれば、何日にいくらの引き落としが発生するのかなど、みずほ銀行を通したすべての取引がわかるようなビッグデータとなります。もちろん、これらのデータは匿名性が担保されており、年齢や住んでいる場所など個人を特定できるようなデータは含まれていません」

そう語るのは、上田晃三教授。学生時代は物理学を専攻し、日本銀行への入行をきっかけに金融の世界に足を踏み入れた。14年間勤めた日本銀行では、中央銀行として取るべき金融政策を決定するための情報収集・分析を行っていた。

「近年は、情報機器の高度化、急速に進展するデジタル化などに伴い、取得できるデータもリッチになってきました。そのため、これまでは見ることのできなかったマクロの統計データなども見られるようになり、物価や消費者の動きもより明瞭に把握することが可能になってきました。ゼミの学生には、ビッグデータを提供した後、それを使って自由に研究を行ってもらっています」

データ活用でマクロ経済を定量的に分析

学生にビッグデータを渡し、自由な発想で研究を行ってもらう中で、興味深いテーマが出てくることも多いという。

「ギャンブル」収入に対する消費者動向やPOSデータで分析する物価動向

「現在、ゼミで取り扱っている興味深い研究テーマとしては、ギャンブルの収入に対するレスポンスを分析したものがあります。例えば、JRA(日本中央競馬会)が運営する競馬などではインターネット取引も行われていますので、週末にお金を振り込んで、月曜日の深夜に払戻金として戻ってくるというような動きを見ることが可能です。今後はそれらのビッグデータを分析することで、競馬に勝って収入を得た後、消費者がどのような行動をするのかを明らかにできたらおもしろいと考えています。ギャンブルに入れ込んでいる人とそうでない人の違いはどこにあるのかなどを定量的に表現できるといいですね」

ギャンブルの収入に対するレスポンスとその後の消費動向などを分析する際には、「思いがけず手に入ってしまった!」というようなサプライズな反応がデータとして読み取れると研究としておもしろいものになってくるという。毎月の給料などにおいてはあらかじめ決まった金額が入金されることがわかっているが、競馬では賭けたものが払戻金という形で戻ってくるため、いくら戻ってくるのかわからないという不確実性が生まれる。しかし、これもサプライズなショックを表すデータとは言い切れない側面もある。

「ギャンブル」収入に対する消費者動向やPOSデータで分析する物価動向

「もちろん、100円を賭けて1万円が払戻金として戻ってくる万馬券の場合には、サプライズなショックとなり得ますが、多くの場合、ある程度の予測はできていると思います。さまざまな馬券の種類を組み合わせて賭ければ、10万円を賭けたとしても5〜8万円は戻ってくるわけです。しかし、10万円を賭けて8万円が戻ってくる場合と、5万円を賭けて8万円が戻ってくる場合では、その後の消費行動に際して差異が生まれてくることはあるはず。どれくらいの金額を賭けたのかというデータが重要なのです。また、ギャンブルにおいても宝くじのデータでは、分析の結果も変わってくると思います。高額当選した人と少額当選した人の消費行動を調べてみるとおもしろそうですよね」

ギャンブルの事例はみずほ銀行のデータを活用したものになるが、POSデータを活用した研究も熱心に行われている。ゼミにおける取り組みの割合としては、みずほ銀行のデータを扱った研究とPOSデータを扱った研究で半分ずつに分かれているという。

「POSデータを活用したものとしては、商品の値上げなどに関連した物価動向や消費者動向を分析しています。例えば、あるブランドのビールの値上げがあった場合に、そのブランドのビールを買っていた人はどのような反応をするのか、ビール、発泡酒、ソフトドリンクの売り上げはどのように変化するのかなどを、複数の要素と時系列で捉えることができるパネルデータを作成し、分析を行います。そのときには、タイムセールなどのイレギュラーな要素も考慮に入れたり、惣菜の売り上げとの相関も考えながら調べたりするので、学生が取り組むものとしては非常に高度な分析になっているのではないかと思います」

ビッグデータ分析でわかる「多様性」

ビッグデータを用いたさまざまな研究テーマに取り組んでいる上田晃三ゼミナール。ビッグデータを活用するメリットは、家計の「多様性」が明らかになることだという。

「これまでのマクロデータでは家計を総体として捉えることしかできませんでしたが、先ほども言及した通り、取り扱うデータがリッチになってきたことで、家計の『多様性』を見ることができるようになってきました。例えば、2020年のコロナ禍に給付された特別定額給付金を例に考えてみると、すべてを貯蓄にまわす人もいたし、大きな買い物をした人もいたと思います。もしかしたらギャンブルに注ぎ込んだ人もいたかもしれません。給料をもらっているのか、もらっていないのか。預金はあるのか、ないのか。ビッグデータを観察することによって、家計におけるさまざまな差異が明らかになるのです」

複雑なデータを考慮に入れながら分析を行っていくことで、家計をより細かく識別することが可能になってくる。そうなれば、今後、給付金を配る状況になったときにも、どのような層にどれくらいの金額の給付を行えばいいのか、経済や消費動向には効果があるのかなどの最適解も導き出せるかもしれないというから、意義高い研究であることは間違いない。

「ギャンブル」収入に対する消費者動向やPOSデータで分析する物価動向

「ビッグデータ分析を行ううえで、日本銀行での経験は大いに役に立っていると思います。経済と私たちの生活は密接に結び付いています。そのため、机上の空論で終わらせず、社会情勢を注視しながら、それを研究や政策に結び付けて考えることは非常に重要です。学生にも理論だけではなく、実践の場を意識しながら研究を行ってほしいと考えています」

重要なのは意図をもってデータを分析すること

重要なのは意図をもってデータを分析すること

上田教授のゼミナールでは、はじめの数回の授業で「R」という統計分析で用いられるプログラミング言語の使い方を学び、その後はビッグデータを駆使して各自の研究に自由に取り組むことになる。そのときに重要になるのは、意図をもってデータ分析を行うことだという。

「ビッグデータは正しく活用すれば非常に興味深い結果を得ることができますが、漠然とデータを眺めているだけではほとんど役に立たないと言っていいでしょう。膨大なデータがあったとしても、問題意識がなければ有意義に活用することはできないのです。データは仮説を立てて、収集・分析を行うことで初めて意味のあるものになります。仮説を立て、何度も検証を繰り返す。そして理論ができあがり、それを用いてまた検証を行う。この相互作用が重要なのです。また、経済というものは多くの複雑な要因で成り立っています。そのため、ビッグデータを分析するだけでは得られるものはそれほど多くありません。ビッグデータを活用したとしても解き明かすことのできない領域は存在することを認識したうえで、経済の定量的な現状把握に努めてほしいと思います」

研究を行う際のアプローチとしては、2つの方法があるという。自分の得意とする学問的な専門分野があったうえでビッグデータを活用する方法と、データ分析や統計分析の専門家として特定の学問分野に入っていく方法だ。学術的な専門分野と高度な分析技術。どちらも中途半端に取り組むのではなく、どちらかに軸足を置いた方が、その先の応用可能性があるという。

「些細なことでもおもしろい!知りたい!と思える知的好奇心があれば、私の担当するゼミで楽しく学ぶことができると思います。ゼミに入ってくる学生の多くはプログラミングの経験はありません。しかし、数か月もすれば使いこなせるようになります。そこは安心してもらえたらと思います。普通の大学生では手に入れることのできないようなビッグデータを提供できることが、私の担当するゼミの魅力です。ビッグデータを駆使して経済学を学びたいという希望がありましたら、ぜひ我々のゼミで一緒に学びましょう」

プロフィール

上田 晃三
早稲田大学 政治経済学部 教授

1997年東京大学理学部物理学科、1999年同大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了。同年日本銀行入行。2004年オックスフォード大学で修士号、2006年同・博士号(経済学)を取得。2013年日本銀行を退職。同年より早稲田大学政治経済学術院准教授、2015年より教授。2016年早稲田大学リサーチアワード(国際研究発信力)を受賞。
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上田 晃三 教授

Text by 仲里陽平(minimal)/Illustration by 竹田匡志

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早稲田大学
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全学生が利用できる「データ科学センター」を設置
早稲田大学
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