【早稲田大学】全学生が利用できる「データ科学センター」の役割とは?
早稲田大学
データ科学センター
文系受験の最難関のひとつ政治経済学部が、数学必須の一般選抜を導入したことで話題になった早稲田大学。学内では文理融合の学びが拡大しており、全学向けのデータサイエンス教育プログラムも提供されている。早稲田大学のデータサイエンス・AI教育の拠点となる「データ科学センター」の野村亮教授に話を聞いた。
データサイエンスは早大生の「基礎教養」
「データサイエンスを学べる大学」という文脈で、なかなか名前が挙がってこない早稲田大学。理工系3学部を含む文理融合の総合大学では、どのようなデータサイエンス教育が展開されているのだろうか?
「早稲田大学は13学部、大学院17研究科、4専門職大学院という幅広い学問領域を持つ総合大学です。この幅広い学問領域の多くですでにデータサイエンスが活用されており、今後さらに広がると考えています。つまり早稲田大学の学生にとってデータサイエンスは、所属する学部や大学院での学びをさらに広げる基礎教養のひとつと言えます。一方でデータサイエンスを活用するにはデータやその背景に関する専門的な知識が重要です。学部でしっかり専門知識を学ぶこともまた重要なのです。こうした点から本学では学部や大学院での専門知識の学びとデータサイエンスの融合に力を入れています。実際すでに、政治経済学部、商学部、社会科学部では、データサイエンス系の科目が必修化されています。こうしたデータサイエンス系の教育プログラムを発信する拠点となるのが早稲田大学データ科学センターです」
そう語るのは、データ科学センターの野村亮教授。同センターは、文系・理系の各専門領域で得られた知見と最新のデータサイエンスを融合するためのプラットフォームの提供を目的としている。ここに、あらゆる分野の学生と教員がデータサイエンスを活用するために集まり、新たなコラボレーションが生まれている。
「例えば、心理学を専攻する学生が、フィールドワークで100人にアンケート調査を行ったものの、データの扱い方がわからない……。そんなとき、取得したデータを分析するための新たな手法や考え方をアドバイスすることができます。また、学内だけでなく、学外にも門戸を開いており、国内外の企業や大学と連携した共同研究プロジェクトも進められています」
全学向けの「データ科学教育プログラム」
そもそも早稲田大学データ科学センターのミッションは、全学向けの「データ科学教育プログラム」の科目群を提供すること。フルオンデマンドで受講できるのが特徴で、この科目群を履修することが、データ活用の初めの一歩になるという。データサイエンスの「理論」だけでなく、実際にデータを扱うための「スキル」も同時に学ぶことができる。さらに、自身の「専門」分野の知識を結びつける考え方も身につけられる。
基礎から発展まで段階的にデータ科学を学習するための体系的なプログラムとして、以下のA・B・C・D群の4つの科目群が用意されている。
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早稲田大学「データ科学教育プログラム」カリキュラム概要
早稲田大学「データ科学認定制度」デジタルパンフレット
「学生がデータ科学教育プログラムを履修する際に、明確な目標を提示することを目的として、『データ科学認定制度』も導入しています。全学部・研究科の学生を対象に、それぞれのデータサイエンスに関する能力を保証するために4つのレベル(級)を用意しました。プログラムの科目を履修し、各級の要件を満たした学生には、認定証明書を発行します。この制度を利用して、データサイエンスに関する素養を高め、将来の就職などに役立ててほしいと思っています」
早稲田大学では、データサイエンスを活用した先端研究を行う研究者の養成を目的とした大学院生向けの教育プログラムも用意されている。それが、「データ科学研究力養成プログラム」だ。ここでは、所属研究科の研究とは別に、データ科学センターに所属する教員の指導のもとでデータサイエンスに関する研究演習・論文作成を行う。ここで、データサイエンスを高度に活用した研究ができる人材の育成を目指している。
データサイエンスの研究発表コンペも開催!
ほかにも、データ科学センターが行うイベントとして、「早稲田大学データサイエンスコンペティション」がある。学内から参加チームを募り、共通のデータを分析し、発表会における分析結果の報告に基づきデータ分析の新規性、有効性等を競う。毎年多くの学部生・大学院生がエントリーして、ユニークな発表を行っているという。
「本学のデータサイエンスコンペティションには、理工系だけではなく人文社会系の学部、大学院に属する学生も数多く参加しています。与えられたデータに対して自分たちでテーマを設定して分析を行うのですが、興味深いことに自分の学部や大学院で学んだ知識をテーマ設定や分析に活かす学生が大半です。さまざまな学術領域を抱える本学ならではのコンペティションで専門領域の知見とデータ科学の融合のひとつと言えます」
早稲田大学の創設者である大隈重信は、100年以上前に「現在の国の情勢を詳細に明らかにしなければ、政府は政治を執り行うことができない。また、過去の施政の結果と比較してみなければ、政府はその政策のよしあしを知ることができない」とデータを用いたエビデンスに基づく政策決定の重要性を述べている。まさにデータ科学の考え方そのものである。
「今日では、政治に限らず科学的な方法で研究を進める際には、必ずエビデンスが求められます。同様に、これからの社会では、データを根拠として、何かを発言するのが当たり前の時代になるでしょう。ぜひ早稲田大学で、データサイエンスの基礎を身につけ、将来の研究や仕事の幅を大きく広げてほしいと思います」
※掲載情報は、2024年9月時点のものです。
Text by 丸茂健一(minimal)