【明星大学】触れて、観察して、言語化する——情報学で「学習の仕組み」を解明する

情報学研究科 博士後期課程2年
計算科学研究室所属
岩手県立黒沢尻北高等学校出身
明星大学大学院情報学研究科の博士課程で研究に取り組む鷹觜莉子(たかのはしりこ)さんは、教員を目指して「数学科」と「情報科」の教職課程があった情報学部に入学。現在は、脳神経科学の原理に基づいて、「人が学習する仕組み」を探り、自ら大学の授業をデザインしている。教員への憧れから始まった学びが、「学習そのものの研究」へとつながっていった理由とは!?
「そもそも学習とは何なのか」を考えよう!
——現在は博士課程在籍中ということですが、研究内容について教えてください。
現在は、計算科学研究室に所属して、「学習とは何か」について研究しています。具体的には、脳神経科学をベースに、人が学習する仕組みを解明し、教育分野で応用できればと考えています。指導教員の山中脩也教授は、もともと応用数学が専門ですが、「自分の興味のある方向に振っていいよ」という方針で、私が「教育や学習について知りたい」と話すと賛同してくれました。

そのとき投げかけられたのが、「みんな“こういう教え方がいい”と議論するけれど、そもそもどこを目指すかがバラバラでは?」という問いでした。ならば、「そもそも学習とは何なのか」を再考しようと思い、今の研究が始まりました。
きっかけは、「教育の地域格差」の気づきでした。私は中学校まで東京で育ち、その後、高校の3年間を岩手県で過ごした経験があります。ここで、同じ「学校教育」でも地域によってここまで違うのかと実感しました。やはり地域ごとに教育や進路指導の方針があり、どうしても生徒の視野が狭くなりがちです。そこで、「学びのパッケージ」のようなものを用意できれば、全国どこでも同じ内容で学べるのではないか——そんな思いが、研究の根底にあります。
土台にしているのは脳神経科学の原理です。人は、何か行動を起こす→対象が変化する→それを知覚する→自分の中のモデルが更新される、という循環で学んでいる。これを「行動と知覚の循環」と呼んでいます。つまり学習とは、外部からの入力によって、主体の内部モデルが更新されること。現在のAI(人工知能)にも通じる仕組みだと仮定できます。

そこで、私が考える理想の学習環境では、何かに触れて、よく観察して、その変化を言語化する。それをひたすら支援し続ける。本を読むだけ、講義を聞くだけだと、知覚が「先生の言葉」だけになってしまいます。実物を見て、触れて、実際に体験することが大切だと考えています。
このテーマの面白いところは、研究がそのまま自分の成長につながることです。「行動して、よく知覚することが大事」という学習の原理を研究すればするほど、自分の知識も拡張されます。つまり、「研究することを研究する」というサイクルを回している状態になります。いま新たに取り組んでいるのが、この循環の「入れ子構造」の研究です。1年生に向けて2・3年生がファシリテートする中で、教える側の先輩たちも実は同じ循環で学んでいるのではないか——。この問いを出発点として、指導者側の成長も博士論文のテーマにできないかと考えているところです。
——この研究の応用事例について、具体的に教えてください。
メインの実践の場は、学部1年生向け「プログラミング演習1」と「データサイエンスリテラシー」の授業です。現在は、授業そのものの設計支援を任せてもらい、ファシリテーターも務めています。講義はせず、「こういうアクションをして、どうだった?」とひたすら問いを繰り返す設計にしています。

学生には、行動して気づいたことがあったら、全部書き出してもらいます。「とにかく言葉にして」と伝えます。こうした集まったテキストデータが、いますでに5年分くらい蓄積されています。そこから「その学生がどう変化したか」を自然言語処理などの手法を用いて分析しています。5年間で約2000人分のデータが集まっているので、根拠としてもしっかりしています。
この分析によって、これまで先生が“感覚”でやってきた工夫を理論として言語化できる——そんな手応えがあります。人材不足が言われる中で、経験豊富な先生が引退されていく。その方々の経験値をデータとして残せるかもしれないと期待しています。
この教育環境に関する調査・研究は、学外でも実践しています。2025年8月には、近隣の「イオンモール多摩平の森」で、子ども向けの学びの教室「たまもり科学探検隊」の全体設計を手がけました。ここでは、プログラミング教室や笹や竹を使った工作のブースなどを出展して、いろいろな学びがあちこちでつながっていく面白さを伝えました。当日は、多くの子どもたちが参加してくれて、こちらもさまざまな発見がありました。

プログラミング未経験で不安なまま情報学部に入学
——明星大学情報学部を志望した理由を教えてください。
実は、情報系を学びたい!というはっきりした夢があったわけではありません。中学校のときに先生から「あなた、教師が向いているかもね」と言われたことがずっと頭に残っていて……。大学選びでも「教員になれる大学」を軸にして探しました。明星大学は教員養成に定評があって、丁寧に育ててくれそうだと感じました。そこで、数学科の教員を目指して、進学しました。
情報学部を選んだのは、「これから必ず来る分野だから」と考えたからです。明星大学情報学部の教職課程は、「数学科」「情報科」があるので、もし数学がうまくいかなくても、情報の教員免許も取れるという安心感がありました。
プログラミングは完全に未経験でした。そもそもパソコンもほとんど触ったことがなくて……。自分でホームページをつくっているような知り合いもいましたが、私はまったくそういうタイプではなくて、「本当に大丈夫かな」と、不安を抱えたままの入学でした。
——入学後は、どのような授業を受けましたか?
情報学部では、1年次から情報学や数学の基礎をしっかり学べます。理論を聞くだけでなく、自分の手で試せる環境だったので、「これならなんとかなる!」と感じました。人間に同じことを何回も聞いたら申し訳ないけれど、コンピュータは何度間違えても怒らない。だからコマンドを入れては試してを延々と繰り返しながら、覚えていきました。特にプログラミング系の演習科目は、クラス全体で話しながら進めていく雰囲気で、先生も根気よく付き合ってくださいました。

転機になったのは学部2年生のときです。コロナ禍で完全オンライン授業になった時期に、プロジェクト型の授業で、「初学者にプログラミングを教える」という課題に挑戦しました。対象は、子どもからご年配の方までさまざま。しかもオンラインという制約の中で、毎週のように試行錯誤を重ねました。ここで難しかったのは、チームでの意思疎通。テーマが「教育」だけに、それぞれが自分なりの教育観をぶつけ合うので、なかなか意見がまとまりません。そんな議論をしているときに、先生から「それは研究の第一歩だよ」と言われ、教育の手法や学習の仕組みに興味を持つようになりました。そこから、山中教授の研究室でずっと研究を続けて、現在に至ります。
大学教員として、研究者として、
「学習の仕組み」を探究し続けたい!
——将来の夢や目標があれば、教えてください。
将来は、大学教員になりたいと思っています。現在すでに、非常勤講師として大学の講義も担当しています。入学当初は、中学校や高校の教員を目指していたのですが、気づいたら大学教員にたどり着いていました。
大学教員として、研究者として、今後も続けたいことが、2つあります。ひとつは、「言語化し続けること」。自分のつくる学習環境では「言葉にしよう」がキーワードになっていて、自分自身も目の前の環境を言語化する努力を続けています。それが博士論文にもつながると考えています。もうひとつは、「実践を続けること」。小学生から大学生まで、実際にやってみて初めて見えてくるものがたくさんあります。学部生の授業のファシリテーターや商業施設での子ども向け学習イベントなど、今後も実践の機会を持つようにしていきたいです。
明星大学情報学部は幅広い研究分野の先生がいるので、大きな魅力です。私自身も最近は、自然言語処理にも取り組みたくて、言語学が専門の先生に相談したりしています。分野を横断していろいろな先生に教えていただける環境で、これからも学び続けたい。そして、大学院修了後も研究者として、「学習の仕組み」を探究し続けたいと考えています。
※掲載情報は、2026年6月時点のものです。
Text by 丸茂健一(minimal)/Photo by 石垣星児
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School of Information Science
常に進化するデジタル社会に対応できる人材を育成
AIやデータサイエンス、ネットワーク、CG、音楽情報、サイバーセキュリティ、認知科学など、現代社会を支える情報技術を基礎から幅広く学ぶことができる学部。単なる知識習得にとどまらず、「社会で情報技術をどう活用するか」という実践的視点を重視した教育を展開。生成AIやIoT、クラウドサービス、VR、情報セキュリティなど、急速に進化するデジタル社会に対応できる人材を育成している。
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