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【秋田大学】生活音を“見える化”して、独居者の見守りシステムを開発する 【秋田大学】生活音を“見える化”して、独居者の見守りシステムを開発する

【秋田大学】生活音を“見える化”して、独居者の見守りシステムを開発する

秋田大学 情報データ科学部 田中研究室

田中 元志 教授
田中 元志 教授
TANAKA Motoshi
秋田大学
情報データ科学部
田中研究室
専門:人間情報工学、環境電磁工学、信号処理

AI・データサイエンス系大学・学部の研究室では、どのような研究が行われている? 私たちの身のまわりには、耳では聞こえない音、目には見えない電磁波など、数え切れないほどの“波”が飛び交っている。こうした信号をデータとして取り出し、機械学習で意味を読み解く研究が、いま急速に広がっている。秋田大学情報データ科学部の田中研究室が取り組むのも、まさにこの領域だ。生活音、楽器の音、脳波や心電図、電磁ノイズ——多彩な信号をデータサイエンスで解き明かす研究室の最新テーマに迫る!

「聞こえない音」をデータで可視化する

「私が扱っているのは、人と人が関わる場面で生まれる日常の音や身体から出る生体信号です。目に見えない音や電磁波をデータとして取り出し、可視化する。それができたとき、データサイエンスの面白さを感じますね」

そう語るのは、秋田大学情報データ科学部の田中元志教授だ。担当する田中研究室が掲げる研究テーマは、「人間情報工学(Human Information)」。これは、人間から得られるさまざまな情報を工学的に扱い、暮らしに役立てる研究分野を指す。その基盤となるのは、田中教授が長く手がけてきた音や電気信号のような“波”を分析する信号処理の技術だ。

例えば、生活音を高感度のマイクで記録し、周波数ごとの強さを図にすると、人の耳には聞こえない高い音まで含まれていることがわかる。田中教授はこれを80キロヘルツ(人間の可聴域は約20キロヘルツまで)という広い範囲で解析している。

「私たち人間には聞こえないだけで、この世界は実はいろいろな音であふれています。ほかの動物には、その音域も聞こえているのです。だとしたら、その情報も使えないだろうかと考えたのが研究の起点です。この発想が、研究室のさまざまなテーマを貫いています」

足音から始まった生活音の異常検出システム

数ある研究テーマのなかでも、田中教授がいま最も力を注ぐのが、生活音を使った異常検出システムだ。人の活動によって発生する音に着目し、マイクなどを用いてコンピュータに取り込み、解析・処理し、それから得られた知見を用いた歩行者の識別、家屋内事故などの異常検出、音符認識などに関する研究を行っている。この研究は「足音」の解析から始まった。

「姿が見えなくても、足音を聞いただけで『あ、あの人が来た』とわかることがありますよね? なぜそんなことができるのか。それをコンピュータにやらせてみようと考えたのが出発点でした」

やがて研究は、足音だけでなく生活音全体へと広がっていく。念頭にあったのは、ひとり暮らしの高齢者の“見守り”だ。近年、独居高齢者が孤独死したというニュースをよく耳にする。こうした異変をできるだけ早く、音で検出できないかと考えた。カメラを使わずに暮らしの異変を察知できれば、「見られている」という抵抗感なく、プライバシーを守りながら安否を見守ることができる。カメラの死角になる場所でも使え、扱うデータも軽い。音センサーを使った見守りシステムに関心を寄せる企業も多いという。

生活音の特徴量
生活音のスペクトルと抽出した特徴の例

生活音から異変をとらえる——。言葉にすれば簡単だが、ここには田中研究室ならではの工夫がある。通常の研究であれば、「これは足音」「これは掃除機の音」と一つひとつの音を判別して、異常値を解析していく。しかし、あらゆる生活音を判別しようとすれば、膨大なデータベースが必要になってしまう。

「扱うデータ量が増えれば、解析するコストも時間もかかります。そこで、発想を変えて、何の音であるかは判別しない方法を考案しました。日常的な音の分布から外れた“怪しい音”だけを検出すればいい。それだけでも見守りシステムとして、機能すると考えました」

確率モデル化と状態遷移図例
確率モデル化の説明図(左)と状態遷移図の例(右)

田中教授が開発した異常検出システムでは、日常の音を大量に集めてクラスタリング(グループ分け)し、その“中心”を「いつもの音」と定義する。そこから大きく外れた音を「非日常=異常の可能性が高い音」として検出する。転倒や破損のような異変に伴う音は、日常的には発生しない。だからこそ「いつもと違う」という変化を手がかりにできるのだ。このシステムをAI機械学習を用いて開発している。

ギターのコードをコンピュータに聴き取らせる

さらに身近で、わかりやすいテーマもある。それは、ギターの演奏音から鳴っているコード(和音)をコンピュータに判別させる研究だ。このプログラムは、オープンキャンパスの研究室公開でも人気だという。

ギターはコードごとに弦の押さえ方が決まっており、鳴る音の組み合わせも決まっている。そこで、演奏音をスペクトル解析して、含まれる周波数成分となる「基準音」とその整数倍の高さで重なる「倍音」を取り出す。あらかじめ各コードの構成音を数値データにしておき、演奏音と最も一致するものを探せば、コードが割り出せるという仕組みだ。

Cメジャーコードのスペクトル
Cコードの周波数スペクトル例

「きれいに鳴らした音なら95%くらいの精度でコードを言い当てられます。ただ、ジャカジャカと雑に弾いた音になると少し精度は下がりますが、そこを上げていくのが今後の課題です。音を可視化し、そこから意味を取り出すこのプログラムは、音を分析するとはどういうことかを実感するのに最適な研究事例だといえます」

脳波や心電図から“心地よさ”を読み取る

田中研究室のもう一つの柱が、生体情報を使った研究だ。脳波や心電図、視線の動きといった体の信号を計測し、解析・処理によって抽出した特徴量から、人がどのように感じているか、どうしたいかなどの主観的判断・評価などを客観的に検出(推定)する方法を検討している。

例えば、照明空間の“快適性”を生体信号から評価する研究がわかりやすい。これは、色温度の異なる照明(電球色の3000K、昼白色の5500Kなど)のもとで脳波を測ると、リラックス時に多くなるとされるアルファ波の出方に顕著な違いが見えるという。

「心電図といっても、見ているのは心拍の“揺らぎ”です。緊張すると揺らぎが減り、リラックスすると増える。そこから、交感神経と副交感神経のどちらが優位かわかります。ストレス評価によく使われる指標ですが、私たちは逆に、“快適さ”の指標として使えないかと考えました。このテーマは、地元企業との共同研究として現在も進められています」

心拍の“揺らぎ”を“快適さ”の指標として使えないか?

電磁波吸収体を利用した次世代ドローンのノイズ対策技術を創出

音や生体信号の研究を主軸とする田中教授だが、研究者としてのルーツは別のところにある。もともとの専門分野は電気通信工学、なかでも電磁ノイズの研究だった。「環境電磁工学(EMC:Electromagnetic Compatibility)」と呼ばれる分野だ。

「学生の頃は、アナログテレビのノイズを扱っていました。現在のデジタル放送では生じませんが、近くで掃除機をかけたり、トラックが通ったりすると、画面がザラつきました。そのようなノイズのシミュレータを作り、妨害の程度を人のアンケートで評価していました」

東北大学大学院での工学の博士号取得後、秋田大学に移り、新たな領域で研究テーマを開拓していく。当初はアンケート用紙を用いていたが、脳波から評価しようと前述の「生体情報を扱った研究」が始まった。EMCについては現在、電気・電子機器の電磁ノイズ抑制に、機械学習を利用する研究を行っている。また、東北大学、名古屋大学、名古屋工業大学との共同研究で、カーボンナノチューブ(CNT)を使った新しい電磁波吸収材の開発にも取り組んでいる。目的は、ドローンなどのエアモビリティ内で発生する電磁ノイズを抑えること。しかも、桜の花びらの上に載せてもつぶれないほど軽いのが特長だという。

電磁界シミュレーション結果例
電磁界シミュレーション結果の例(線路上に電磁波吸収体を配置したときの磁界。2.1GHz)

「ドローンのような、軽さが求められる機器に組み込む電磁波吸収材になればと考えています。非常に専門的な分野なので、細かい説明はしませんが、情報学と電気電子工学を融合したニッチな分野に産業界からの大きなニーズがある。こういう研究テーマに出合えるのが秋田大学情報データ科学部の魅力だと思います」

AIは“道具”――何をどう学ばせるかを考える

生活音の異常検出から電磁ノイズ抑制まで、実に幅広いテーマを扱う田中研究室だが、共通しているのは、「取得したデータからいかに必要な情報をスムーズに取り出すか」という姿勢だ。実験で用いる機械学習は、研究の目的ではなく手段。対象によって、正解を与える「教師あり学習」、正解を与えない「教師なし学習」を使い分ける。例えば、生活音の異常検出では「教師なし」、足音の識別では「教師あり」を用いる。膨大なデータを扱うため、何万点もある周波数のデータを十数個の特徴量に絞り込む「次元圧縮」の技術なども欠かせない。

「AI(=機械学習)は、あくまでも道具です。大事なのは、何をどう学習させて、どう判断させるか。そこを人間がきちんと設計しないと、ほしい結果は得られません。AIが賢くなったぶん、何も考えずに投げても、それらしい答えは返ってきます。しかし、本当に必要な答えや情報を得るには、背景にあるアルゴリズムなどを理解する必要があるでしょう。生成AIがいくら発達してもエンジニアの役割は変わりません」

「どうなってるの?」から始めよう

秋田県は、65歳以上が人口の4割近くを占める全国有数の高齢県。ひとり暮らし高齢者の見守りシステムのような研究が、社会実装のニーズと隣り合わせにある。まさに、人間情報工学の研究をするには、最適の環境だといえる。少子高齢化が進む日本社会において、開発した技術で人間のより豊かな生活環境を創出することが田中教授の研究のモチベーションになっている。

田中研究室の卒業生は、ITはもちろん、メーカー、半導体、インフラ、医療機器まで、幅広い業界で活躍している。信号を読み解き、データから意味を引き出す力は、分野を選ばず求められている。秋田県からまだ誰も見たことのないデータを掘り起こす――そんな挑戦がここにある。最後に、田中教授からデータサイエンス分野に関心のある受験生へのメッセージをいただいた。

「例えば、手元にスマホがあるなら、『なぜ通信ができるのか?』『カメラはどうして写るのか?』と疑問を持ってほしい。そして、身のまわりの技術に興味を持ったら、自分で調べてみる。ゲームだって、攻略法を自分で調べて、クリアできたらうれしいですよね。受験勉強も研究も同じです。興味を持って取り組めば、きっと楽しくなります。そのうえで、プログラミングには、ぜひ触れておいてほしい。とりわけ機械学習で広く使われるPythonは、この分野を学ぶ上で必須です。まずは、アレルギーを持たずに、自分で簡単なプログラムを組んで動かしてみる。その一歩を踏み出せる人なら、きっとこの分野を楽しめると思います」

【研究室の詳細】

田中研究室

人間情報工学(Human Information)と環境電磁工学(EMC:Electromagnetic Compatibility)を柱として、エレクトロニクスの応用に関する研究を行う研究室。音や生体信号、電磁波といった目に見えない“波”をデータ化し、信号処理技術を用いて可視化する研究に取り組む。生活音を対象にした異常検出(見守り)システム、楽器音のコード認識、脳波・心電図からの心理状態推定、電磁ノイズの抑制など、実に幅広い研究テーマに取り組んでいる。
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秋田大学 田中研究室

Text by 丸茂健一(minimal)/Illustration by カヤヒロヤ

UNIVERSITY INFO

秋田大学情報データ科学部
AKITA UNIVERSITY Faculty of Informatics and Data Science
情報学・データサイエンスの応用分野に特色がある学部
秋田大学情報データ科学部
情報学・データサイエンスの応用分野に特色がある学部

情報技術やデータサイエンスを活用し、デジタル社会を構築する

情報技術やデータサイエンスを活用して諸課題の解決を図り、新たな価値を創造することができるデジタル人材を養成するため、2025年4月に新設。人間情報や防災・エネルギー情報に加え、知能ロボティクスを内包する特色ある学部。地域や日本のデジタル化を推進し、情報関連産業をけん引できる人材の輩出を目指す。

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秋田大学 情報データ科学部 事務部
TEL:018-889-2268
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