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【IKOMA FC 奈良】データを起点に、持続可能なサッカークラブをつくる 【IKOMA FC 奈良】データを起点に、持続可能なサッカークラブをつくる

【IKOMA FC 奈良】データを起点に、持続可能なサッカークラブをつくる

佐々木 竜治 さん
佐々木 竜治 さん
SASAKI Ryuji
IKOMA FC 奈良
データ戦略部 部長

2025年12月に誕生した「IKOMA FC 奈良」。SCOグループが関西サッカーリーグ1部のVELAGO生駒のオーナーとなったことを機に、チーム名を変更して新たにスタートしたサッカークラブだ。2026年7月には「データ戦略部」も発足。チーム強化にとどまらず、データを活用してクラブの成長や地域との新たな関係を生み出すことも見据えている。ゼロから組織と仕組みを築くデータ戦略部の佐々木竜治さんに、これまでの歩みとサッカークラブにおけるデータ活用の可能性について聞いた。

ゼロからデータ活用の組織をつくる

――2026年7月に立ち上げられたIKOMA FC 奈良のデータ戦略部について教えてください。始動してまだ間もないと思いますが、現在どのような取り組みが進んでいますか?

データ戦略部は、さまざまなステークホルダーに対して、準備段階からデータを活用してサポートする組織です。現在、5人ほどが所属しており、それぞれ役割を分担しながら、毎試合の分析やフィードバック、対戦相手の分析などを行っています。

IKOMA FC 奈良は2025年12月に誕生したばかりのクラブです。そのため、選手やチームのパフォーマンスをどのような軸で評価するのかも、まだ定まっていないのが実情です。

まずは、「自分たちはどのようなサッカーを表現していくのか」を明確にする必要があります。攻撃から守備、守備から攻撃へと切り替わるトランジションのなかで、それぞれのポジションの選手にどのような役割を担ってもらうのか。チームとしてどのような戦術を採用し、どのようなプレーモデルを目指すのか。現時点では、そうした部分がまだ十分に言語化されているわけではありません。

だからこそ、データを活用する前段階として、GMや監督と毎週議論しながら、チームとして目指すサッカーや評価の基準を一つずつ固めています。

そして、モデルができた後は、それを再現性高く実現するためにデータを取得し、チームや選手にフィードバックする。その結果をもとに改善し、また実践する。そうしたPDCAを継続的に回せる仕組みを、今まさにつくろうとしているところです。

選手やチームのパフォーマンスをどのような軸で評価するか

もう一つ力を入れたいのが、メディカルの領域です。現在、メディカルスタッフが体重などのデータに加え、練習前後のコンディションについて、選手自身にアンケートで回答してもらうなど、定量・定性の両面からデータを蓄積しています。ただ、現状では、それらのデータをどのように活用するかという部分までは、まだ十分に整理できていません。

そこで、メディカルスタッフと協力しながら、蓄積されたデータをコンディション管理などに活かしていくためのプロジェクトも進めたいと考えています。ここでも大切なのは、いきなりデータを分析することではありません。そもそも「良いコンディション」とはどのような状態なのか。そこを定義するところから始める必要があります。

2万本のシュートを手作業で入力しデータセットを構築

――そもそも、データでサッカーを見ようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

小学2年生から高校までサッカーを続けていて、もともとはサッカー選手になりたいと思っていました。関東大学1部リーグに所属する大学に入学し、大学でも選手としてサッカーを続けるつもりでした。しかしセレクションで落ちてしまい、自分が思い描いていた形でサッカーを続けることができなくなったんです。

指導者になる道も考えたのですが、『マネーボール』という映画を観たり、もともと数字をもとに考えることが好きだったりしたこともあって、「データを活用することで、別の形からサッカーに貢献できるのではないか」と考えるようになりました。そこで、論文を読んだりして、独学で勉強を始めました。

大学2年次になってからは、プログラミングを学んだり、試合映像を見ながら自分でデータを取ったり、少しずつ分析にも挑戦していきました。大学のサッカー部の試合を撮影して分析するというより、外部で公開されている試合映像などを使って取り組んでいました。そして、さらに知見を深めるため大学院に進むことにしたんです。

――大学院ではどんなことに取り組んだのですか。

大学院では、ゴール期待値(xG)の研究に取り組みました。一般に公開されているデータもありましたが、自分が研究に必要とするものとは少し違っていた。そこで、データを集めるところからやることにしたんです。

2020~2021シーズンのJ1、J2合わせて500試合以上を見て、試合映像をコマ送りしながら、約2万本のシュートシーンを一つひとつ手作業で入力しました。そうして自分でデータセットを構築し、ゴールまでの距離やシュート角度などを分析して、ゴール期待値を算出しました。

一方で、大学院にいる間に、実際のプロの現場で経験を積みたいという思いもありました。自分から動いていかなければ機会は得られないので、SNSなども活用しながら、「日本の大学でこういう研究をしています。少しでもいいので、自分を使ってもらえませんか」「プロの目から見て、研究についてフィードバックをいただけませんか」といった形で、直接アプローチしていきました。

その中で声をかけてくださったのが、スコットランド1部・リヴィングストンFCのデビッド・マーティンダールさんでした。「インターンとしてやってみたら」と声をかけていただき、初めてプロの現場でデータを扱う機会を得ました。

大学院時代に
海外クラブでの実務も経験

――リヴィングストンFCでは、具体的にどのようなことを担当したのですか。

主にリクルートメント、つまり選手獲得に関わる仕事です。クラブには、「こういう選手を獲得したい」という理想像があります。例えば、フォワードならこういう特徴、サイドハーフならこう、ディフェンダーならこう、といった具合です。クラブには複数のデータアナリストがいて、選手の特徴を示すさまざまなデータも蓄積されていました。

そのうえで、「このポジションの選手を、このリーグから探してほしい」といった指示が出されます。私の役割は、指定された国やリーグから、そのポジションに合う選手を20人ほど、データを根拠にリストアップすることでした。

当時はStatsBombのプラットフォームに蓄積されたビッグデータを利用していました。そこから必要なデータをダウンロードし、条件を設定しながら候補となる選手を絞り込んでいきます。作成したリストをデータアナリストに渡し、そこから他のアナリストの意見なども入って、最終的には監督に情報が上がっていきます。

――選手をリストアップした段階で、佐々木さん自身でその選手の試合映像を見て確認することはなかったのでしょうか。

そこは担当していませんでした。かなり役割が細分化されていて、映像を見て確認するのは、その後の担当者の仕事でした。

私の役割は、ビッグデータの中から求められている特徴に合った選手を探し出すこと。あくまでデータ上の指標として、クラブが求めている条件と合致しているかどうかを見るところまでです。その選手が実際にどのようなプレーをするのか、データに表れない部分は、その後のプロセスで確認されます。

実際に現場で働いてみて、プロのクラブには、データを選手獲得につなげるための細かな役割分担とプロセスが設計されていることを知りました。個人としては、結果を出してその先の仕事まで食い込むことはできませんでしたが、3カ月間の経験は非常に大きな学びになりました。

――その後、カンボジアのアンコールタイガーFCでも活動されたんですよね。そこでは、どのようなことに取り組んだのでしょうか。

アンコールタイガーFCでは、ちょうどチームがリーグ最下位にいる時期だったこともあり、パフォーマンス評価とリクルートメントに携わりました。

当時、チームとしては、ボールを保持しながら試合を展開する、いわゆるポゼッションサッカーを志向していました。一方で、リーグ内で勝率の高いチームのデータを分析すると、ロングボールを主体とするチームが多かった。また、ポゼッションを重視することと勝率との間にも、必ずしも強い相関は見られませんでした。そこで、監督には「もう少しゴールに直結するサッカーを目指してはどうか」と、データを示しながら提案していました。

アンコールタイガーFCからはその後もオファーをいただいていましたが、大学院修了後は、日本で活動することを選びました。きっかけの一つになったのが、清水エスパルスのスポンサーでもある株式会社クラウディオの会長から声をかけていただいたことです。「スポーツテックを事業としてやっていこう」という話から、スポーツテックを手がける子会社として株式会社クラウテックを設立するなど、ビジネスの視点からスポーツを捉え直す経験も得られました。

大学院修了後は、日本で活動することを選びました

その後、ご縁があってFC徳島で仕事をすることになりました。FC徳島でも、データ戦略室をつくるなど、ゼロから基盤を整えました。そして2026年7月からIKOMA FC 奈良に活動の場所を移しています。

――大学院修了後もデータサイエンティストとしてサッカー業界に関わっていこうと決めたきっかけは何だったのでしょうか。

大学院にいた頃、サッカーをしていた弟が怪我をしたことです。弟は大学のサッカー部で副キャプテンを務め、Jリーグのクラブから声がかかることもあるような選手でした。ところが、半月板を怪我してしまい、それを境にJリーグのクラブから連絡が来ることもなくなりました。弟も泣いていましたし、家族も泣いていました。その姿を見て、怪我は選手のキャリアを大きく左右するものなのだと、改めて痛感しました。

同時に、もう一つ気づいたことがありました。「なぜその怪我が起きたのか」を、誰も十分に説明できなかったんです。選手自身も把握できていない。チーム側にも、明確に説明できるだけの情報がない。そこに、スポーツ業界におけるデータ活用の課題があるように感じました。

一般企業では、議論する際に前提条件をそろえたり、データをもとに意思決定したりすることが、ある程度当たり前になっていると思います。一方で、スポーツの現場では、まだ十分にデータを活用できていない部分がある。だからこそ、データを使って、選手がより安心して競技に取り組める環境をつくりたいと思うようになったんです。

「役立つデータ活用」のユースケースを確立したい

――IKOMA FC 奈良のデータ戦略部で取り組みを進めるなかで、佐々木さんが実現していきたいことは何ですか?

データ活用には、大きく2つのフェーズがあると思っています。「わかるフェーズ」と「役立つフェーズ」です。

「わかるフェーズ」は、データを収集し、分析して、見える形にして伝えること。これはAIの発展やテクノロジーの進歩によって、スポーツ業界にも急速に浸透していくと思います。

一方で、それが本当に成果につながるのか、現場で役立っているのかとなると、話は難しくなります。「何を目的とするのか」「どのような課題があるのか」「その課題に対して、どのようなアクションを取るのか」「その結果をどう検証するのか」という一連の仕組みを設計しなければいけないからです。

まずは、そうした「役立つデータ活用」を実現する仕組みをIKOMA FC 奈良で確立したいと考えています。もちろん、データ活用の成果として「チームが試合に勝つ」ということは重要です。ただ、それだけがデータ活用の価値ではありません。

例えば、データを扱える人材をクラブが育成し、その人材が地域企業に対してデータ分析やコンサルティングを行う。そこから収益が生まれれば、一つのビジネスモデルになります。また、地域のIT企業などと連携することもできるでしょう。そうなれば、クラブが単にテクノロジーを利用する側ではなく、テクノロジーの発展に貢献する側にもなれます。それが地域経済の活性化、日本のサッカー界全体の発展にもつながっていくのではないかと思っています。

今は、データというと「チーム強化にどう活かすか」「勝利に結びつくのか」といった議論が中心になりがちです。しかし、もっと全体を見渡してみると、データを取得できる機器や環境、データを分析できる人材をクラブが持つこと自体に、大きな可能性があります。そこから新しいビジネスモデルが生まれ、クラブの持続可能な運営につながる可能性もある。

そうしたユースケースを、IKOMA FC 奈良でつくっていきたい。そして、自分たちがつくったモデルをほかのクラブにも展開し、スポーツ産業全体の発展に貢献していきたいと考えています。

――最後に、スポーツ業界でデータサイエンティストやアナリストを目指す学生にメッセージをお願いします。

これからの時代、情報収集や分析、検証といった仕事は、AIが非常に強くなっていきます。そして、「データの民主化」も進んでいくでしょう。誰もが必要なデータを瞬時に取得し、分析できるようになる。だからこそ、これからは「データを分析できる人」以上に、「データを使って課題を解決できる人」の価値が高まっていくと思います。

そのため、人間にしかできないことは、まず現場に出て、一次情報を取ることです。その現場にはどんな課題があるのかを自分の目で見つけ、言葉にして、仮説を立て、検証する。そうした一連のプロセスにこそ、大きな価値があります。

理論や分析手法は、学生のうちにたくさん学ぶことができます。しかし、それを社会や現場の課題にどうつなげるのかを考える必要があります。データ分析は、あくまで手段です。「なぜこのデータを分析するのか」「その先に何を実現したいのか」という目的を持って、データと向き合うこと。それが、これからのデータサイエンティストやアナリストには、ますます求められると思います。

目的を持って、データと向き合うことがますます求められると思います

プロフィール

佐々木竜治
IKOMA FC 奈良
データ戦略部 部長

大学院でサッカーのゴール期待値(xG)について研究し、J1・J2の500試合以上、約2万本のシュートデータを独自に収集・分析。スコットランドのリヴィングストンFCやカンボジアのアンコールタイガーFCなどで実務も経験。株式会社クラウテック、FC徳島を経て、2026年7月より現職。データを活用した持続可能なクラブモデルの構築を目指す。

※掲載情報は、2026年9月時点のものです。

Text by 仲里陽平(minimal)

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