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【国立音楽大学】音楽とテクノロジーを融合し社会のデザインに活用する 【国立音楽大学】音楽とテクノロジーを融合し社会のデザインに活用する

【国立音楽大学】音楽とテクノロジーを融合し社会のデザインに活用する

国立音楽大学 音楽学部 演奏・創作学科
コンピュータ音楽研究室

濵野 峻行 准教授
濵野 峻行 准教授
HAMANO Takayuki
国立音楽大学
音楽学部演奏・創作学科
コンピュータ音楽専修
専門:コンピュータ音楽

AI・データサイエンス系大学・学部の研究室では、どのような研究が行われている? 国立音楽大学では、以前より音楽とテクノロジーを結びつける研究が行われてきた。2023年度からは「音楽データサイエンス・コース」を開講。音楽の感性的な部分をデータ化することで、科学的裏付けを持って音楽を語ることのできる人材を育成している。同コースを担当する濵野峻行准教授に、自身の研究内容や音楽大学でデータサイエンスを学ぶ意義を聞いた。

創作とは異なる視点から音楽表現の可能性を模索する

音楽とテクノロジーは切っても切り離せない関係にある。録音技術や記録媒体の進化はいうまでもなく音楽を世の中に浸透させた。また、シンセサイザーやコンピュータを取り込んだ“電子音楽”は一大ジャンルを築き、今でも幅広い人々から愛され続けている。もはや楽器を演奏する必要すらなくなり、作曲ソフトを用いれば誰もがラップトップの中で音楽をつくれるようになった現代。最新テクノロジーであるデータサイエンスは音楽にどのような影響を及ぼすのだろうか。2023年度より「音楽データサイエンス・コース」を新たに開講した国立音楽大学を訪ねた。

「このコースでは、音楽を主軸とし、従来、工学部などの理系の専門教育を受けた人材が担ってきたデータサイエンスの手法を取り入れながら、新しい音楽文化の創造のための研究に取り組むことができます」

そう語るのは、同コースを担当する濵野峻行准教授。国立音楽大学では、伝統的な音楽演奏、創作活動に加え、最新のテクノロジーと音楽の関係について、以前より研究・教育を行ってきた。コンピュータを用いた芸術表現を追求する演奏・創作学科 コンピュータ音楽専修では、プログラミングと音響、創作技術を一体として考える学際的な学びを実現。一方「音楽データサイエンス・コース」は同学で演奏科学と音楽情報産業の研究を行ってきた三浦雅展准教授を中心に立ち上げられ、濵野准教授の担当による創作研究の軸も加わることとなった。音楽大学がデータサイエンスに特化したコースを設置するのは、今回が国内初の試みである。

従来はコンピュータ音楽専修の授業を受け持つ濵野准教授自身もコンピュータ音楽の専門家/アーティストであり、新たなアプローチから音楽とテクノロジーの融合による可能性を模索している。

「作曲のような音楽の創作とは別の視点から、音楽を取り巻く環境や社会をトータルでデザインすることを目指して研究を進めてきました。DTM(デスクトップミュージック)的なコンピュータ音楽のあり方だけではなく、テクノロジーと音楽を組み合わせた幅広いメディアアート作品を創作しています」

濵野准教授の授業では、従来の楽器演奏による表現に取り組む一方で、映像技術やダンスを組み合わせたパフォーマンスなども実施。コンピュータを使用した新しい芸術表現を生み出しながら、形態にとらわれない音楽の可能性を探究しているのだと話す。

「代表的な創作手法として挙げられるのは、“ライブエレクトロニクス”というパフォーマンス形式です。生楽器が奏でる音声をリアルタイムでマイクに取り込み、それを加工したものに音を重ねて同時に演奏するというもの。このように、楽器を“拡張”する作品づくりに昔から取り組んでいます」
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国立音楽大学コンピュータ音楽研究室YouTubeチャンネル

音楽に関連するあらゆるデータが研究対象に

AIをはじめとする最先端のテクノロジー、そしてデータサイエンスは、音楽にどのような革新をもたらすのだろうか? 音楽大学でデータサイエンス技術を学ぶ意義を聞いた。

「音楽データサイエンス・コースでは、音楽の産業、演奏、創作など、多様な方向性においてAIやデータ技術の音楽分野における活用方法を考えていきます。音楽のデータと聞くと、楽譜などがわかりやすい例ですよね。でも、実際にはもっとたくさんの情報が存在しています。楽器を奏でる際の身体の動かし方、文献などによる歴史的・文化的な蓄積、音楽的な理論など、幅広いデータが私たちの研究対象になるのです。単に演奏や創作に活かすだけでなく、教育分野や社会分野にも貢献できる可能性を秘めています。その点、音楽とデータサイエンスには親和性があると考えています」

また、濵野准教授は音楽とAIにも相性の良さを感じている。画像生成など視覚的な表現とAIとの融合が進められている近年。しかし、視覚的な情報にはグロテスクなデータやセンシティブなものも数多く存在し、大規模な実験を行う際の障壁となっている。一方で、聴覚的な情報は抽象性が高く、安全面から見て実験に取り組みやすいのだと話す。こうした実験に基づき、AIが人間の創造性を“拡張”する未来が実現するのではないかと濵野准教授は展望を語る。

音楽とテクノロジーによるビジネスを展開

濵野准教授は、大学の教員とは別にもうひとつの顔を持つ。東京藝術大学発のベンチャー企業・株式会社cotonの最高技術責任者として、音とテクノロジーを融合し、それを社会実装するためのソリューションやサービスの開発を進めているのだ。これまで参加したプロジェクトについて説明してもらった。

「事業の一例として、『soundtope(サウンドトープ)』があります。これは、自動作曲技術を用いることで店舗やオフィスに最適な音環境を提供するサービスです。時間や季節、天気など、24時間/365日、絶え間なく情報を収集し、それぞれの状況に合わせてリアルタイムで音楽を変化させることができます」

株式会社cotonの事業は、店舗やオフィス内だけに止まらない。都市をまるごと楽器に変えてしまうようなスケールの大きいプロジェクトが「sonicwalk(ソニックウォーク)」。スマートフォンの衛星測位システムを使って、環境と音を結びつけるのだという。

「私たちの周りにある森や公園、庭園、街並みなどの風景の中に仮想の音オブジェを置き、その風景と音を一緒に楽しむ体験を提供するテクノロジーです。スマートフォン上のWebブラウザでsonicwalkのページにアクセスし、イヤホンを着けて街を歩く。すると、利用者の位置や動きにより、目の前に広がる現実の風景とともに、そこに配置されている仮想の音オブジェから音や音楽が聴こえてきます。また、西新宿で実装した『Sounding Building(サウンディングビルディング)』というアクティビティでは、AIが街の風景を認識し、それぞれのビルに割り当てられた音を再生。スマートフォン越しに周囲を見渡せば、すべてのビルが一斉に、まるでオーケストラのように演奏を始める仕組みを取り入れました」
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株式会社coton

AI時代も人間の“身体性”の重要性は変わらない

社会デザインに応用することにもやりがいがある

もちろん、音楽理論について基礎から学び、自ら創作活動に励むことは重要である。しかし同時に、その理論を誰もが体験できるようなアクティビティに落とし込み、社会デザインに応用することにもやりがいがあると濵野准教授は話す。インタラクティブな音楽コンテンツを生み出し、サービスの利用者を含めすべての人を表現の担い手に変える。cotonのメソッドは、国立音楽大学で学ぶ学生たちにも受け継がれている。

「ステージ上での表現を重視する人もいれば、cotonのようにアプリ開発に取り組んでいる学生もいます。例えば、学生のつくった『音たっちくん』というアプリは、カメラで人物の手の位置を捉え、その動きを読み取って音を出すWebブラウザ上のサービスです。出る音や位置を自由に設定できるので、仮想空間上に楽器を置くようなイメージですね。創作のみならず、こうした研究にも注力できるところが、本学の魅力のひとつだと考えています」

他大学の情報系学部とは異なり、演奏やダンスなど幅広い音楽表現に取り組む学生が近くにいる点も、音楽とテクノロジーを併せて学ぶ上では理想的な環境だといえる。実際、試験の際には学部の違う学生の手を借りるシーンが多く、相乗効果も期待されている。研究と教育、そしてビジネスの3分野から音楽とテクノロジーの可能性を探る濵野准教授。彼が見据える未来を聞いた。

「今後、テクノロジーはさらなる進化を遂げていくでしょう。広告などに用いられる簡単な音楽であれば、AIがつくったものを使えばいいという時代はすぐそこまできていると思います。そして、その流れに逆らうことは難しいとも考えています。だからこそ、私が大切にしたいのは人間の“身体性”です。身体全体を使って楽器を演奏したり、音を聴いて何かを感じたりする。その主体としての人間の役割は、AIに取って代わられることはありません。テクノロジーが発展したとき、人間に何が残るのか。そういったことと真摯に向き合いながら、人間の価値や創造性を高められるようなテクノロジーの活用方法を提示していきたいと考えています」

プロフィール

濵野峻行 准教授
国立音楽大学音楽部演奏・創作学科 コンピュータ音楽専修

国立音楽大学音楽文化デザイン学科にて作曲、コンピュータ音楽を学ぶ。オランダ王立音楽院ソノロジー研究科修士課程修了。2014年まで科学技術振興機構ERATO岡ノ谷情動情報プロジェクト研究員。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。株式会社coton最高技術責任者。コンピュータ音楽、ソフトウェアエンジニアリングなどの領域を基盤とし、音楽・メディアアートのための創作システム開発やICT・プログラミング教育活動も行う。
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濵野 峻行 准教授
国立音楽大学 コンピュータ音楽研究室

Text by 上垣内舜介(minimal)/Illustration by カヤヒロヤ

UNIVERSITY INFO

国立音楽大学
KUNITACHI COLLEGE OF MUSIC
2023年度より「音楽データサイエンス・コース」を開講
国立音楽大学
2023年度より「音楽データサイエンス・コース」を開講

音楽を通して社会に貢献できる音楽家、教育家を養成する

自由、自主、自律の精神を尊重した教育によって、音楽を通して社会に貢献できる音楽家、教育家を養成する。音楽を愛し、音楽へのこだわりと夢を信じ、自らの信念を貫き通す人々の学舎を目指す。2023年度より、データサイエンスを主軸に科学的な手法を取り入れて音楽分析を行う「音楽データサイエンス・コース」を開講。

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学部・学科

【データサイエンスを学べる学科・専修】
演奏・創作学科、音楽文化教育学科 全専攻・専修
【学科・専修】
■演奏・創作学科/声楽専修、鍵盤楽器専修、弦管打楽器専修、ジャズ専修、作曲専修、コンピュータ音楽専修
■音楽文化教育学科/音楽文化教育専攻(音楽教育専修、音楽療法専修、音楽情報専修)、幼児音楽教育専攻

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