【名古屋市立大学】文・理・医・薬の「知」の蓄積がデータサイエンスと融合する
名古屋市立大学データサイエンス学部
学部長
東海エリア初のデータサイエンス学部として、2023年4月に誕生した名古屋市立大学データサイエンス学部。文・理・医・薬までカバーする8つの学部、5つの附属病院を有する総合大学という強みを活かし、東海地域の産業を支えるデータサイエンス人材を育成している。分野横断型のユニークな学びについて、学部長の三澤哲也教授に話を伺った。
東海エリア初のデータサイエンス学部
名古屋を中心とする東海エリアは、日本のものづくりを支える製造業の拠点として知られている。ここで地域を支える人材を育成してきたのが、1884年設置の名古屋薬学校を起源とする名古屋市立大学だ。この歴史ある大学に東海エリア初となるデータサイエンス学部ができたのが2023年4月。滝子(山の畑)キャンパスを拠点として、1学年80名定員に対し、専任教員14名という体制で丁寧な教育を提供している。
特長は、8学部(医学部、薬学部、経済学部、人文社会学部、芸術工学部、看護学部、総合生命理学部、データサイエンス学部)、大学院7研究科(医学研究科、薬学研究科、経済学研究科、人間文化研究科、芸術工学研究科、看護学研究科、理学研究科)を有する総合大学であること。さらに5つの附属病院を含めた「知」の蓄積をデータサイエンスの学びにフルに活かすことができる。
「データサイエンスは、IT分野に特化した研究分野ではありません。ビジネス、医療、福祉などさまざまな分野と連携してこそ新たな価値を生み出すことができます。文・理・医・薬までカバーする学内の各学部だけでなく、地域の企業や行政機関と連携した共創拠点として発足したのがデータサイエンス学部です。『データ』を共通ワードとして、分野を越えて集まった教員が各チャネルで化学反応を起こすことを期待しています」
そう語るのは、データサイエンス学部長の三澤哲也教授だ。自身の専門分野は統計解析や金融工学。これまでは、経済学部で指導にあたっていたという。具体的な研究テーマとしては、統計学を用いた企業の経営分析、データ分析を用いた投資リスクの評価などが挙げられる。まさにデータサイエンスを経済や金融の分野で活かす学びである。
三澤学部長に聞いた、学部の特色は以下の通り。
名古屋市立大学データサイエンス学部 3つの特色
1 文系・理系・医療系の分野横断的な研究が可能
14名の専任教員の専門分野は以下の通り。工学、情報学、経済学、医学、薬学と実にバランスよく教員が配置されているのがわかる。新学部ながら、各分野の深い知識にアクセスできる点は大きな強みといえるだろう。
専任教員14名の幅広い専門分野
詳細はこちら
名古屋市立大学データサイエンス学部 教員一覧
2 社会課題の解決にアプローチできるカリキュラム
名古屋市立大学データサイエンス学部では、4年間で実社会の課題解決にアプローチできるスキルを修得できるカリキュラムを設計している。まず、1年次に統計学、数学、情報工学、経済学の基礎理論を学び、データサイエンスの基盤となる力を養成。2年次からは、データサイエンスの応用として、PBL(課題解決型)演習に挑戦。さらに3年次以降は、IT、ビジネス、医療の3分野における応用学習を行い、4年次の卒業研究につなげる。
名古屋市立大学データサイエンス学部 4年間の流れ
3 分野の垣根を超えた教育・研究の学内&学外連携
名古屋市立大学は、もともとビジネスや医療の面で、地元企業や行政機関と密に連携した教育・研究に取り組んできた。データサイエンスの分野においても学内連携・学外連携の既存ネットワークを存分に活かすことができる。
【特徴的な研究】
未来社会Society5.0の実現に向けた先端研究
名古屋市立大学では、政府が目指す未来社会Society5.0の実現に向けた先端研究に取り組んでいる。データサイエンスを用いた研究事例には以下のようなものがある。
生体信号や動作解析を活用した研究
室内や家具に設置したエッジデバイス(インターネットに接続された製品)やウェアラブルセンサを用いて、人の身体にセンサーを装着することなく、心身の状態を推定する研究を展開。この研究には、AI(人工知能)の機械学習や深層学習(ディープラーニング)を活用している。
企業の経営をお金や情報の側面から研究
企業の財務諸表などの財務会計データ、企業内部で有している管理会計データなどの情報を使って、投資家・経営者・従業員・顧客・取引先など関連する人々がハッピーになる企業を見つける。さらに、そのような企業を増やすにはどうすればいいのかを考える。
感染防御行動につながる研究
都道府県から公表されている感染者情報や市町村データ等を使用して、新型コロナ感染症(COVID-19)についての医学・臨床・疫学的観点からの科学的解析に基づいた感染集積マップやリスクアラート、専門家コメントを付けた疫学情報などを発信するアプリを開発している。
気候変動が農作物生産性に与える影響の研究
気候変動が農業の生産性に及ぼす影響を明らかにするために、気候・水・土・作物の特性などのデータを使用。また、予測モデルを作成し、プログラミング技術やビッグデータの多角的な分析により、気候変動や食料政策などの課題解決を考えている。
詳細はこちら
名古屋市立大学データサイエンス学部 学びの特色
【特徴的なプロジェクト】
1年次から参加できる「課外活動プロジェクト」
名古屋市立大学データサイエンス学部の学生は、1年次から希望制の「課外活動プロジェクト」にも参加できる。これは各教員が窓口となって研究課題を提示するもので、「気候変動」「宇宙天気」「予防医療」「生体データ分析」など、テーマは多岐にわたる。卒業単位には認定されない自主的な活動になるが、4年次の卒業研究に向けて、調査・分析のスキルを鍛えたい学生にとっては絶好の環境といえるだろう。
【入試制度】
「一般選抜」は、数学の配点が高め
データサイエンス学部の入試は、「一般選抜」に加え、大学入学共通テストのスコアを利用する「学校推薦型選抜B」もある。「一般選抜」は、数学の配点が高め数学が得意な人には有利になりそうだ。個別試験では、「数Ⅲ」の範囲からも出題されるが、数学の配点が高いので、数学が得意な人には有利になりそうだ。個別試験では、「数Ⅲ」の範囲からも出題されるが、「数Ⅰ・数Ⅱ・数 A・数 B・数 C(「ベクトル」のみ)」の範囲からだけでも解答することができる。
詳細はこちら
名古屋市立大学 学部入試情報
【想定される進路】
2025年4月よりデータサイエンス研究科が開設
想定される進路の例は、大きく分けて3つ。①調査・企画担当者 ②政策・戦略立案者 ③医療情報の管理・分析担当者となる。就職先としては、
- 調査・企画担当者=IT業界、製造業、サービス業、ジャーナリズムetc.
- 政策・戦略立案者=コンサルティングファーム、シンクタンク、行政機関etc.
- 医療情報の管理・分析担当者=ヘルスケア業界、製薬企業、病院、行政機関etc.
などが挙げられる。
4年間の学びを通じて、目指すことができる資格としては、統計検定、情報処理技術者試験、データサイエンス検定などがある。また、より高度な技術・分析力を習得するために大学院進学も推奨している。なお、2025年4月に名古屋市立大学大学院データサイエンス研究科(修士課程)が開設される。博士課程の設置についても検討を進めている。
最後に三澤学部長から受験生に向けたメッセージをいただいた。
「社会がデータサイエンス人材に求める力をデータサイエンス力、データエンジニアリング力、ビジネス力の3つと想定して、今後も先進的な講義や演習科目を用意していきます。データサイエンス力とは統計学や情報工学の知識力、データエンジニアリング力はこうした専門知識を運用する能力、ビジネス力は実務課題の設定とそれを解決する力になります。データサイエンス研究の歴史は浅く、まだまだ新しい分野です。一緒に名古屋市立大学の新たな歴史をつくっていきましょう!」
Text by 丸茂健一(minimal)