【立命館大学】データサイエンス+社会システムデザインがICT社会創造の鍵になる
立命館大学情報理工学部社会システムデザインコース
※「先端社会デザインコース」は2024年4月から上記名称に変更となります。
情報理工学部
立命館大学情報理工学部では、1年次に情報科学分野全般の基礎を学修し、春学期終了時に各自の興味や将来のビジョンを考慮して専門のコースを選択することができる。バラエティに富んだ7つのコースの中でも、社会システムデザインコースは特に強い独自性を持ったコースだ。同コースを担当する西原陽子教授に特長や魅力を聞いた。
「世の中で困っていることは何だろう?」
疑問から始まるデータサイエンスの学び
現代の複雑な社会システムには多くの課題が蓄積されている。そして、ひとつの学問分野を深く突き詰めるだけでは、そうした課題を解決することが困難になっている。この現状に立ち向かうため、立命館大学情報理工学部社会システムデザインコースでは、情報通信技術(ICT)について多様なアプローチからの学びを提供し、未来の社会システムをつくるための人材を育成している。学びの柱となるのは、データサイエンス(Webサイエンス)とデザインサイエンス、そして人間とテクノロジーのインタラクションだ。
「近年では、画像や音声、動画など、さまざまな媒体についてデータサイエンスの研究が進められています。社会システムデザインコースでは,言語に関わるテキストデータの扱い方を学び、その後、より発展的なデータサイエンス(Webサイエンス)の技術を学んでいきます。こうした学びを通じて、安全・快適・便利な未来の社会を創造することができると考えています。
このコースでは、『世の中で困っていることは何だろう?』という疑問から始まり、それを解決するために既存の技術を組み合わせてアプローチすることに重点を置いています。一般的な大学の研究室では、「最先端の研究を社会に適用していくにはどうすればよいか?」と考えるアプローチもあります。一方、本コースでは常に現場に即したものを考え、それを実装するところまで意識しながら学んでいきます。その点が大きな特長になっていると言えるでしょう。もちろん、それらを実現する技術として、プログラミングについても1年次から学ぶことができます」
コースの特色は以下の通り。
立命館大学情報理工学部社会システムデザインコース 3つの特色
1 膨大なデータを分析し、モデル化するデータサイエンス(Webサイエンス)技術の学び
Webページ、ソーシャルネットワークを流れるデータ、いろいろなところに置かれるセンサから生み出されるデータなど、現代の社会は大量のデータであふれている。未来のICT社会を創造するには、こうした大量のデータを分析し活用することが重要になる。「テキストマイニング」や「情報アクセス論」といった授業を通じ、データ分析の手法やモデル化の技術を学ぶことができる。
2 ICTを活用したシステムを実装するデザインサイエンス技術の学び
ICTは、交通・金融・商流・物流などの社会システムの姿を大きく変えつつある。ICTを活用した新しい社会システムを構築するためには、社会の要請を理解し、具体的なシステムとして実現することが求められる。「社会デザイン論」や「認知工学」といった授業を通じ、ICTを活用したシステムやサービスを社会に実装するための手法を学ぶことができる。
3 人々とシステムの交流を可能にするインタラクション技術の学び
Webにあふれる情報やサービスが人々の行動を導き、人間とICTが共生する新たな社会・システムを形成するためには、人間の言葉や行動の意図・意味を理解し、社会・システムが人間と有効につながることが重要となる。「自然言語処理」や「ヒューマンインタフェース」といった授業を通じ、人々とデジタル社会の豊かな交流を実現するための技術を学ぶことができる。
【特徴的な授業やプログラム】
データサイエンス(Webサイエンス)・デザインサイエンス・
インタラクションから興味のある分野へ
次に特徴的な授業について見ていこう。立命館大学情報理工学部社会システムデザインコースでは、1年次の後期より「データサイエンス(Webサイエンス)」「デザインサイエンス」「インタラクション」を学んでいくことになる。
まず、データサイエンス(Webサイエンス)分野では、Web(インターネット)の仕組みの基礎を理解し、その内部で動いているアプリやシステムを自分でつくるための手法を学ぶ。
「例えば、市販のパソコンにはお絵かきアプリが標準で搭載されていることがありますよね。プログラミング技術などを駆使しながら、こうした簡単なアプリを自分でつくってもらいます。その後、さらに大規模なWebサービスを構築し、自ら運用できるところまでを目指してカリキュラムを作成しています」
デザインサイエンス分野では、「人はどのように認知を行っているのか」「世界を構築している知識を情報としてどのように表現できるのか」という問いを追究する「認知工学」「知識工学」を習得する。
「まずは『認知工学』という授業からスタートし、人間が外界を認知するプロセスについて理論的な学びを深めます。こうして、人間を中心としたものづくりの手法を身につけた後は、『知識工学』などの授業を受講してもらい、人間が持っている知識をコンピュータ上で表現する手法について学びます。この『認知工学』と『知識工学』で得た知識をもとに、情報通信技術を使って社会の大きなシステムをモデル化、設計するための技術を学びます」
モデル化の例
インタラクション分野では、人間とコンピュータがどのように入力・出力して情報の伝達をしているのか、その手法を扱う。社会システムデザインコースでは、特に言語に関するインタラクションに力を入れているという。
「人間が日常的に使う言葉は『自然言語』と呼ばれています。これをコンピュータに理解させるためにはどうすればいいのかということを教え、その後は実際に大量のテキストデータを分析するための技術を身につけてもらいます。最終的には、必要な情報を効率的に見つけ出すための技術を教えています。情報推薦やフィルタリングと呼ばれる技術ですね」
インタラクションの例
【注目すべきプロジェクトや施設】
人間の認知とコンピュータを相互に結ぶ独自の授業
注目すべき授業として、「認知工学」や「知識工学」が挙げられる。社会の課題をデジタル技術で解決するためには、単に技術について学ぶだけではなく、「人間が外の世界をどのように認知するのか」「人間の常識をコンピュータに教えるためにはどうすればいいのか」といった学びが必須になる。
「『認知工学』や『知識工学』は、他のデータサイエンス系の学部にはあまり置かれていない特殊で興味深い授業です。世の中の役に立つデジタル技術を生み出すうえで、人間の認識についての学びは避けては通ることのできない分野となります。ここにもしっかりとアプローチできるところが、本コースの強みなのです。
そうした授業には、人間、つまりユーザーの存在を強く意識してほしいという本学の考えが色濃く反映されています。もちろん、真理や理論を探究したり、技術の速度や処理の精度を引き上げたりすることも非常に重要です。しかし、本コースでは、より実社会に応じた学びとして、既存の技術をどのように応用すればいいのか、ツールの新しい使い方を創造しましょうと教えています。ユーザーはたったひとりでも構いません。学生には、とにかく人の悩みを解決できるものを生み出してもらうことを期待しています」
【入試制度】
入学までに教養を深めておいてほしい
立命館大学情報理工学部社会システムデザインコースに特化した入試は特に存在しない。一般入試、総合型選抜が主な試験形式である。日程や受験科目などについては、Webサイトをしっかりと確認しておこう。
「本コースに特化した入試はありません。ただ、高校生の皆さんにはなるべく教養を深めておいてほしいと思います。というのも、どんなに情報やデータサイエンス分野のことを熱心に学んだとしても、それだけでは決して役に立たないからです。データサイエンスは組み合わせの発想力が勝負となる分野です。遠いところにあるものをくっつけないと面白いものは生まれません。そのため、世の中にあるさまざまなものに触れておいてください。美術館に行く、地域の文化に触れる、外国の方と話をするなど、遊びのような感覚で構いません。広い視野を持って、自分の引き出しを増やしましょう!」
【想定される進路】
大学院への進学でさらに専門的な学びを
人間とデジタル技術のつながりを重視し、実社会での課題解決を目指した教育を提供している立命館大学情報理工学部社会システムデザインコース。こうした教育を通じて実践的なデータサイエンスの知識や技術を身につけた学生たちは、どのような進路を描くことができるのだろうか?
「卒業後は大学院に進学する人と就職する人に分かれます。データサイエンス系の学びは深く、学部の4年間だけでは学べないこともあるので、本学としてもより専門的な知識を得るためにぜひ進学してほしいと考えています。就職する場合の業界はさまざまですが、やはり情報通信系の割合が高くなっています。製造業やサービス業に進む卒業生もおり、活躍の場は非常に広いといえるでしょう」
Text by 上垣内舜介(minimal)