ゲームクリエイター:ゲーム制作を一貫してマネジメントする仕事
事業開発部
ゲームクリエイター
企画やプログラミング、デザインなど、ゲームづくりには数多くの工程が存在する。株式会社batonに所属し、QuizKnockのメンバーとしてゲームやアプリの開発チームを率いる藤田隼輝さんは、そのほとんどすべての工程に携わっているという。代表作である大人気アプリ「限界しりとりMobile」開発の裏側などについてお話をうかがった。
ゲームクリエイターってどんな仕事?
ゲームやアプリ、Webサービスの開発チームを率いる仕事
ひと口に「ゲームをつくる」といっても、そこには企画やプログラミング、デザイン、プロモーションなど数多くの工程が存在する。QuizKnockのメンバーとしてゲームやアプリの開発チームを率いる藤田隼輝さんは、そのほとんどすべての工程に携わるゲームクリエイターだ。藤田さんは現在、どのような仕事をしているのだろうか?
「QuizKnockのサービスを運営する株式会社batonには、YouTube制作などを行うメディア事業部のほかに、事業開発部という新たなプロダクトを生み出すためのチームがあります。私はそのチームを率いる立場で、現在は新規開発中のWebサービスにおいてプロジェクトマネージャーを務めています。また、チーム全体のマネジメントや採用業務も担当しています。皆さんがよくご存知のQuizKnockメンバーのように表に出る機会は少ないですが、サッカー好きということで伊沢(拓司)と一緒にセレッソ大阪のYouTubeチャンネルに出演したこともあります(笑)」
「楽しいから始まる学び」をコンセプトに「限界しりとりMobile」を制作
QuizKnockは「楽しいから始まる学び」をコンセプトとして掲げている。人々に楽しみながら知識を深めてもらううえで、ゲームの果たす役割は大きい。藤田さんbatonで初めて手がけたアプリ「限界しりとりMobile」にも、遊びと学びを融合したいという思いが反映されている。その結果、このアプリは多くのユーザーを白熱させることとなった。
「『限界しりとり』は、通常のしりとりに文字数の制限を加えたゲームです。プレイヤーは、毎ターン指定される文字数に応じて言葉をつなげなくてはなりません。もともとは伊沢が考案したゲームで、YouTubeの企画段階ではトランプを使って文字数を決めていました。それをスマートフォン向けアプリにしたのが『限界しりとりMobile』です。当時は事業開発部としてヒット作をひとつリリースしたいというタイミングでした。その点、『限界しりとり』は動画を見て楽しんでくれていた人も多かったので、すぐに親しんでもらえるのではないかと考えたんです。開発において最大のネックは、プレイヤーが入力した言葉が実在するかどうかを判断する仕組みでしたが、MeCabというライブラリで使用されている辞書を使用することによってクリア。結局、コアゲームの部分は私ともうひとりのメンバーで土日の間に完成させてしまいました。社内でも好感触だったので、その後はプラッシュアップして1か月ほどでリリースに至りました」
「白地図マインスイーパ」が完成するまで
「限界しりとりMobile」のように短期間で完成したアプリがある一方で、ゲームの内容によっては開発に期間を要するものもある。藤田さんがプランニングからリリースまで関わった「白地図マインスイーパ」もそのひとつだ。ユーザーはゲームを通じて、地名や市区町村の位置関係、各地域の情報を学ぶことができる。
「『マインスイーパ』は、爆弾がある場所を避けながらマス目を開いていくパズルゲームです。QuizKnockにはふくらPというパズルゲームが得意なメンバーがいて、当時マインスイーパに熱中していました。その様子を見ていて、マインスイーパをテーマに新しいゲームをつくってみようと思ったんです」
藤田さんは、ふたつのワードを掛け合わせることで新しいアイデアを生み出すことが多いという。この企画も「マインスイーパー×〇〇」というお題について考えるところからスタート。チーム内でブレインストーミングをしたところ、メンバーから「白地図」というワードが飛び出してきた。複雑な地図のアセットを用意する苦労は予期していたものの、このアイデアに可能性を感じた藤田さんは開発に着手することに。アイデアが固まった後、ゲーム制作はどのように進んでいくのだろうか?
「当然、白地図がなくては始まらないので、専門のサイトでデータを購入しました。しかし、手作業で市区町村単位の情報を組み込むとなると、どうしても時間がかかってしまいます。その時間を縮めるために、Adobe Illustratorの機能を拡張するプログラムを書き、Unityにインポートする『アセットパイプライン』という仕組みを使えないかと考えました。そこで、社内のチームでそれが実現できるのか技術調査を実施。並行してデザインの制作にも取り掛かりました。会社でゲーム開発をしている以上、コスト面についてはいつも意識していますね」
Unityとは、スマートフォン向けゲーム開発などに用いられるプラットフォームのこと。技術的な見通しが立てば、こうしたツールを用いた開発へと移っていく。実際に完成したゲームで遊びながらブラッシュアップを重ね、細かいバランスを調整。同時に、より多くの人に遊んでもらうためのプロモーション活動にも力を入れる。ゲーム制作における藤田さんのこだわりを聞いた。
「私はゲーマーとして、繰り返し遊んでいるうちに自分が上手くなっていることを実感できるゲーム設計が好きなんです。それは自分がつくるゲームにも反映されていると思いますね。ゲームづくりで苦労するのは、簡単すぎても難しすぎてもおもしろくないということです。そのため、アイテムを使うと有利になったり、ゲームオーバーのリスクを減らしたりと、難易度のバランスを調整するところには時間をかけるようにしています」
ゲームクリエイターに求められる資質とは?
ゲームが好きだという気持ちは、現場での共通言語になる
技術的な開発のみならず、企画からデザイン、プロモーションまでを一貫して担う藤田さん。今の組織のような少数精鋭のチームにおいては、複数のポジションを担当できる人材が強いと話す。採用担当者としての顔も持つ藤田さんが考える、ゲームクリエイターに求められる素質とは?
「ゲームづくりに関して言えば、資質よりも与えられたポジションで力を発揮することが重要だと考えています。適材適所という言葉もあるように、楽しみながら自分の役割を果たすことが理想ですね。また、チームで動くことが多いので、コミュニケーション能力は必須です。当然、『ゲームが好きだ』という気持ちだけではゲームクリエイターになることはできません。ただ、ゲーム制作の現場にはゲーム好きばかりが集まっているので、コミュニケーションにおける共通言語として役に立つことはあります」
夢を叶えるため、サッカーを辞めた翌日に美術の道へ
藤田さんが最初にゲームクリエイターを志したのは、小学6年生のとき。サッカーに打ち込む中で、周りの子どもたちはプロの選手を目指していたが、藤田さんはサッカーもひとつのゲームとして捉えていたという。
「一番やりこんでいたゲームは『ポケットモンスター 赤・緑』です。生意気だったので、これなら自分にもつくれるんじゃないかと思ったんです。今となっては当時のプログラミングの難しさも理解しているのですが、ドット絵だったので3Dのゲームよりは簡単そうに見えて……(笑)」
ゲームクリエイターになりたいという藤田さんの思いはブレることなく、高校1年生でサッカーを辞めると、翌日には美術の門を叩いていた。
「隣の家の人が彫刻をやっていて、その方に彫刻やデッサン、油絵などを教わりました。ゲームクリエイターについて調べたところ、3Dをつくるうえで彫刻の技術が役に立つと知ったんです。サッカーをやりたいと言って入った高校だったので家族から怒られましたが、彫刻で賞を取って説得しました(笑)。その後は美術予備校にも通っていたのですが、金銭的な事情もあって美大への進学は断念。デジタルなら画材費などがかからないので、デジタルハリウッド大学に進んでCGやグラフィックデザインを中心に学びを深めました。プログラミング技術については、アルバイト先のライフイズテック株式会社でメンターとして教えるようになってから身につけました」
シェアハウスでの“クソゲー”制作が現在の仕事の基盤に
大学やアルバイトでゲーム制作に関するスキルを着実に伸ばした藤田さん。だが意外にも、現在の仕事に最も役立っているのはシェアハウスで過ごした時間だという。
「シェアハウスにゲームクリエイターを目指すメンバーが集まって、夜な夜なゲームを制作していたんです。思い出すのも恥ずかしいような、いわゆる“クソゲー”ばかりでした(笑)。ただ、1日でゲームをつくってWeb上に投稿するということを毎晩のように繰り返していたのは、本当にいい経験だったと思います。ひと晩で企画からリリースまでのフローを一貫して行なっていたことで、短いゴールを設定する習慣が身につきました。リリースまでに必要なプロセスが即座に把握できるのも、ここでの時間があったからだと考えています」
ゲームクリエイターの未来像とは?
ゲームクリエイターの役割は会社の規模次第
スマートフォンの普及やダウンロードソフトの一般化により、さらなる活況が予想されるゲーム業界。ゲームクリエイターの役割はこれからも広がっていくのだろうか?
「個人的には、役割について考えることは無駄だと思っています。ゲームクリエイターの役割は、あくまでそれぞれの会社の規模や、会社ごとの役割の定義によって決まるものだと考えているので。しかし、私の仕事に関して言えば、デザインとプログラミングの両方を担当することで、分担するよりもコミュニケーションコストが下がっているという実感があります。制作コストを抑えるという意味で、小さいチームの場合は複数の役割を担う人材が重宝されていくのではないでしょうか。さまざまなことを自由に学べる時代なので、そういう戦略もあるということは知っておいてほしいですね」
ゲームづくりを一緒にできる仲間と出会ってほしい
藤田さんはエンジニアがひとりのときからQuizKnockのゲーム制作に携わってきた。仲間も増え、「限界しりとりMobile」や「白地図マインスイーパ」といったヒット作を生み出した先にある、現在の目標を聞いた。
「やはり、事業開発部として会社を大きくしたいという思いはあります。そして、同じ目標を見据えるメンバーが集まれば、自分たちの可能性はどんどん広がっていくと信じています。会社の収益が大きくなれば、細かいコストを気にせずに好きなゲームをつくれるということもありますが(笑)」
小学生の頃に抱いた夢を実現するため、一歩一歩着実にゲームクリエイターへの道を歩んできた藤田さん。最後に、藤田さんからゲームクリエイターに興味がある高校生へのメッセージをいただいた。
「漠然と『ゲームクリエイターになる』という目標を設定するのではなく、どんなゲームクリエイターになって、何を成功とするのか、具体的なイメージがあると強いモチベーションになります。自分は『世界で戦えるゲームをつくりたい』という目標を設定し、それに向けてチームづくりをしてきました。もうひとつ、友達でも先生でもいいので、一緒にゲームを制作できる仲間に出会うことも重要だと考えています。僕自身、大学で一番プログラミングができる同級生に『一緒にやろう』と持ちかけ、それぞれが得意な分野を教え合いながら切磋琢磨してきました。ゲームクリエイターになるためには、大学の授業だけでは時間が足りません。外に出てインターンやアルバイトをしながら、一緒にゲームづくりができる仲間を見つけてほしいと思います」
プロフィール
藤田隼輝(falcon)
株式会社baton
事業開発部/ゲームクリエイター
デジタルハリウッド大学 (学部/大学院)に通いながら、ライフイズテック株式会社にて中高生のメンターを担当。学部卒業手前より株式会社baton に入社し、ソーシャルゲームのリードエンジニアを経験。その後、QuizKnockのプロダクト開発に携わる。プロダクトの代表作は『限界しりとりMobile』。趣味はサッカー。
Text by 上垣内舜介(minimal)