【東京農工大学】情報+電気電子の学びに世界レベルのAI研究の実績を融合
東京農工大学工学部知能情報システム工学科
学科長(2022年度)
農学部と工学部からなる日本で唯一の国立大学である東京農工大学。2019年に誕生した知能情報システム工学科は、ルーツである情報工学科・電気電子工学科で蓄積した教育ノウハウと世界レベルのAI(人工知能)研究の実績を組み合わせた新たな学びの拠点だ。独自のデータサイエンス教育について、学科長の清水昭伸教授に話を聞いた。
「農学」と「工学」を基盤とした世界レベルの研究を展開
東京都府中市と小金井市にキャンパスを構える東京農工大学は、「農学」と「工学」を基盤とした世界レベルの研究を展開する国立大学だ。さまざまな学部・学科があるなかで、データサイエンス教育の拠点となるのが、工学部知能情報システム工学科だ。
「知能情報システム工学科は2019年の改組で、既存の情報工学科と電気電子工学科の教育カリキュラムを融合する形で誕生しました。ここではコンピュータの仕組みやプログラミングの基礎・応用に加え、最新のAI(人工知能)技術やデータ分析のスキルを身につけることができます」
そう語るのは、学科長の清水昭伸教授だ。自身が指揮を執る研究室では、AIの機械学習や深層学習(ディープラーニング)、パターン認識、ビッグデータ解析など最新の技術を用いて、医用画像解析の研究やそれらの成果を用いた診断支援システムの開発に取り組んでいる。
学科の特色は以下の通り。
東京農工大学工学部知能情報システム工学科 3つの特色
1 入学後に専門を選択できる2コース制
学科はハード寄りの「電子情報工学コース」とソフト寄りの「数理情報工学コース」の2コース制。所属学生は、入学後の2年次から自分の適性に合わせてコースを選択できる。2年次以降は、学生各自が専門分野のコアをつくった上で、ハード・ソフト両面の授業を受けることができる(他コースの科目も履修可能)。
2 少人数ラボによる「SAILプログラム」
1年次から最先端の技術に触れることができる選抜制の「SAILプログラム」を用意。同プログラムは、総合型選抜(SAIL入試)で入学した学生だけでなく、一般入試合格者も成績が優秀であれば、1年次後期から参加できる。「SAILプログラム」所属学生は、学部3年次の早期卒業も可能だ(詳しくは入試欄で後述)。
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東京農工大学工学部知能情報システム工学科SAILプログラム
3 30を超える研究室から専門分野を選択可能
学科で3年間じっくり学んだ後、卒業研究は自由に研究室を選択可能。コースの枠を超え、30以上の研究室から専門分野を選べる。3年間ハード寄りの基礎知識を身につけ、ソフト寄りの研究室を選ぶ(その逆も可能)といった自由な発想によって、ユニークな研究テーマが生まれている。
【特徴的な授業やプログラム】
ハードとソフトの両面を学べるカリキュラム
清水教授の話にたびたび出てくる「ハード」とはスマホやコンピュータの本体のこと。一方、「ソフト」とは、アプリやゲームなど命令によって動作するプログラムを指す。清水教授によれば、AIも「ソフト」の一種と位置づけられる。
「そもそもAI(ソフト)はハードがなければ動きません。そのため、ソフト・ハードの両面を知ることで、より高度な研究ができます。例えば、IoT(Internet of Things/モノのインターネット)システムを構成するセンサ(ハード)を深く学ぶことで、どのような種類の情報をどこまで正確に取得できるかが理解できます。それを把握することで、ハードの性能を最大限使いこなせる最先端のAIをつくることができます。逆にAIの能力を限界まで引き出すために必要なセンサの仕様を導き出し、改良することで、未踏の技術を創出できる可能性もあります。ソフトとハードを両輪としてバランスよく学ぶことで、よりインパクトのある技術革新を生み出せる人材を育成しています」
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東京農工大学工学部知能情報システム工学科カリキュラム
【注目すべきプロジェクト活動】
国内の大学病院や企業と共同で医療機器を開発
東京農工大学工学部知能情報システム工学科では、他大学や企業・自治体とさまざまな共同研究を展開している。なかでもユニークなのが、国内の大学病院や企業と共同で進めている医療機器で用いるプログラムの開発だ。まさに清水教授の研究室が取り組む研究テーマだという。
「私の研究室では、大阪公立大学や医薬品メーカーの日本メジフィジックス社と共同で、腫瘍性疾患の全身骨転移診断に用いる骨シンチ全身画像の読影支援システムを開発しています。すでに実用化されており、2023年3月末時点で、国内673施設で989ライセンスが利用されています。工学系の研究室では、このように実社会で役立つ研究に取り組むこともできます。特にデータサイエンスの研究は、医療分野との親和性が高いと思います」
同学科では、音響に関する信号処理を専門とする「矢田部研究室」、脳波や生体信号の情報処理を行う「田中聡久研究室」、IoTやモバイルシステムの研究開発を行う「中山研究室」など、他にも学外との共同研究を積極的に行う研究室が多数あるので、詳しく調べてみるといいだろう。
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東京農工大学工学部知能情報システム工学科研究室紹介
【この学科に特化した入試制度】
独自の総合型選抜「SAIL入試」を実施
東京農工大学工学部知能情報システム工学科には、理数系が得意で課題解決能力のある意欲的な学生を優れた研究者・職業人へと導くための情報工学・電気電子工学分野に特化した教育プログラム「SAILプログラム」がある。このプログラムに適した入学者を選抜するために実施しているのが、学科独自の総合型選抜「SAIL入試」だ。
「SAIL入試は、いわゆる年内実施の推薦入試です。情報工学・電気電子工学分野に関して主体的に活動を行っている受験生を対象に、大学入学共通テストおよび個別学力検査を免除し、活動成果レポートや面接、調査書等の内容を主な資料として総合的に評価します。プログラミングや電子工作が大好きで独自に学んできた人、誰にも負けない技術があり自分の創作物や研究成果を伝える力がある人はぜひ挑戦してほしいと思います」
定員は7名だが、高校時代からシステム開発やプログラミングの大会出場を経験してきた高校生にとっては、大きなアドバンテージとなる選抜方式。気になる人は、調べてみる価値はあるだろう。
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東京農工大学工学部知能情報システム工学科SAIL入試
【想定される進路】
学部卒の約8割が大学院博士前期課程に進学する
東京農工大学工学部知能情報システム工学科を卒業した学生の約8割は、大学院工学府の博士前期課程(2年制)に進学することが予想される。同学科は2019年新設なので、まだ卒業実績はないが、前身となる工学部情報工学科、電気電子工学科の実績では、約8割が大学院の博士前期課程に進学。そして、修了後は9割以上が就職し、残りが博士後期課程に進学していたという。
また、就職先に関しては、約6割が電機・情報系の企業に就職。近年は自動車メーカーや機械メーカーからの求人も増えているという。清水教授はこう語る。
「EV(電気自動車)化の加速によって、自動車業界に就職する卒業生が増えているのを感じます。最近の自動車は、センサの集合体です。ここでもハードとソフト両面の知識が存分に活かされます。全体として、知能情報システム工学科においては、就職はまったく問題ありません。就職できるか否かではなく、卒業後にどのようなキャリアを考えるか、どの分野でどう社会に貢献するかを考えることが重要だと指導しています」
前身となる旧2学科のここ数年の就職先には、日産自動車、本田技研工業、スズキ、ソニー、キヤノン、日立製作所、村田製作所、小松製作所、ヤフー、NTTデータなど誰もが知る一流企業が名を連ねる。知能情報システム工学科で、ハード・ソフト両面の基礎知識を修得し、大学院までしっかり研究をやり遂げれば、未来の可能性は大きく広がりそうだ。
Text by 丸茂健一(minimal)