【東京農工大学】AIと人間の協調が創り出す未来とは?
東京農工大学 藤田桂英研究室
工学部知能情報システム工学科
専門分野:マルチエージェントシステム、自然言語処理、テキストマイニング
AI・データサイエンス系大学・学部の研究室では、どのような研究が行われている? AIとAI、そしてAIと人間が協調する仕組みを実現する。そんな研究に取り組んでいるのが、東京農工大学工学部の藤田桂英研究室だ。研究キーワードは、「マルチエージェント」と「自動交渉」。アルゴリズム設計や手法の開発など、AI研究の基盤となる学びがここにある。
AI同士が協調する分散型の問題解決システム
自律歩行ロボットに自動運転車、自動配達ドローン……と近年、AIを搭載したさまざまな乗り物や機械が活躍している。しかし、こうした自律型のロボットやドローンがそれぞれの意思で勝手に動き出したら、いずれ衝突事故などが起きないだろうか……。
ならば、中央集約的にまとめて制御すればいいと考えるのは簡単だが、それらの制御機構や種類、目的には細かい違いがあり、現実的に難しいケースも多いという。AI同士が自動的に協調する——。そんな仕組みを実現する研究に取り組んでいるのが、東京農工大学工学部知能情報システム工学科の藤田桂英准教授だ。
「複数のAIが協調してタスクをこなす分散協調型の問題解決システムを開発しています。マルチエージェントシステムと呼ばれるものです。これを使えば、通信できる多数のロボットやドローンを連携させて、大がかりな仕事を実現することが可能になります。マルチエージェントシステムの開発は、AI研究の中でもかなり長い歴史があるんですよ」
ここでいうエージェントとは、自律的に行動できる知的な主体のことを指す。具体的には、AIやロボットのほか、監視カメラ、センサーなどがこれにあたる。
ロボットやドローンの連携と聞くとドローンで巨大な地球儀などを表現するドローンアートを思い浮かべる人もいるだろう。しかし、あれは中央集約的な制御で実現されているもの。マルチエージェントシステムは、それぞれの知的主体が、自律しながら協調する点に独自性がある。
「例えば、2台の自動運転車がお互いを認識して、通信しながらぶつからないように自動で道を譲り合うようなシステムが分散協調型の制御にあたります。マルチエージェントシステムは、工場間の受発注交渉の自動化などでも応用が期待されています。例えば、各工場のエージェントがお互いの工程で必要な部品在庫を把握し、足りなくなる前に自動で発注の交渉をするわけです。私の研究室では、AIの機械学習などを使って、エージェント間の協調を自動化する仕組みをつくっています」
自動交渉AIの戦略に関する国際大会に出場
マルチエージェントシステムと共に藤田桂英研究室の重要な研究キーワードとなるのが「自動交渉」だ。先ほどの工場の受発注交渉の例では、各エージェントの意思決定を担うAIに条件を与えて、自動的に交渉を行う仕組みが組み込まれているという。例えば、自動車をつくる際の部品の数は膨大で、受発注には複雑な交渉が必要になる。その部分を大規模計算が得意なAIに任せるというわけだ。
「この分野においては、自動交渉AIの戦略に関する国際的な競技会があるんです。国際自動交渉エージェント競技会(ANAC)という大会で、当研究室の学生がさまざまな部門で世界トップクラスの成績をおさめています」
自動交渉AIの設計においては、複数の主体が関与する意思決定の問題解決に用いられる「ゲーム理論」なども応用されているという。「囚人のジレンマ」で知られるあの理論だ。気になる人は、ぜひ調べてみてほしい。
AIと人間が協調できる社会を実現したい
AI同士の協調の先に藤田准教授が見据えるのは、AIと人間の協調だ。そこには言語という大きな壁が立ちはだかっている。
「将来的には、AIだけでなく、人間を交えた協調モデルの構築を目指しています。しかし、AIを動かすプログラミング言語と人間が使う自然言語は、まったく異なるものです。そこで、自然言語をAIで扱う『自然言語処理』の研究も行っています。話題のChatGPTなどの登場によって、自然言語処理の技術は飛躍的に進歩していますが、まだまだ研究の余地はたくさんあります」
自然言語処理とは、人間の言語である自然言語をAI(コンピュータ)で処理し、その意味やパターンを抽出したりする研究分野のこと。スマホに搭載された自動翻訳アプリなどにも使われている技術だ。
自然言語処理を使った藤田桂英研究室のテーマのひとつに大規模合意形成システムの開発がある。これはオンライン上のチャットの議論をAIが自動でファシリテートしてくれるというもの。「議論マイニング」という技術を利用して、議論の構造や発言の種類を判別し、自動的に意見をまとめるシステムに仕上げるのが目的だという。
この研究では、機械学習の中でも「強化学習」という技術を活用している。議論の中で試行錯誤をしながら交渉のアルゴリズムを自動で強化していくもの。アルゴリズムとは、AIに命令を与える手順や計算方法のことを指す。これは数学の基礎知識なしには、なかなか扱うことができないという。
「ChatGPTのような汎用AIが登場し、文系の人でも自在にAIを操れる時代が来るかもしれません。しかし、本当に機械学習やディープラーニング(深層学習)を使いこなすには、数学や統計学の高度な知識は欠かせません。また、Pythonなどのプログラミング言語を使いこなすスキルも必要です。ぜひ東京農工大学工学部知能情報システム工学科で、これらの専門知識を身につけてください。ここで一緒にAIと人間が協調する社会の基盤となる新たな技術を生み出しましょう」
研究室の詳細
藤田桂英研究室
AI(人工知能)の技術を基盤として、アルゴリズムの設計や手法の開発、実社会への適用、システム開発など幅広い研究に取り組む。「マルチエージェント」「自動交渉」「自然言語処理」「合意形成支援」など、多彩なテーマの研究にチャレンジできる。
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藤田桂英研究室
Text by 丸茂健一(minimal)/Illustration by 竹田匡志