【横浜市立大学】SDGsや医療連携にも取り組む 文理融合のデータサイエンス教育拠点
横浜市立大学データサイエンス学部
2018年に首都圏初のデータサイエンス学部を設置した横浜市立大学。2022年3月には、第一期生が卒業し、6割は就職、4割は大学院に進学したという。データサイエンス系学部の設置がいわばトレンドとなった今、その先鞭をつけた学部として、データサイエンスの教育・研究を社会実装につなげる先進的な取り組みを続けている。
膨大なデータから新たな社会的な価値を創造できる人材を育成
社会は今、IoT(Internet of Things)の活用によりすべてのモノがつながり、AI(人工知能)やデータサイエンスの技術が社会を大きく変えようとしている。医療関連のデータからSNSの何気ないつぶやきまで、日々膨大なデータが生まれ、蓄積されている。横浜市立大学データサイエンス学部が育成するのは、そんな膨大なデータの中から新たな社会的な価値を創造できる人材だ。
横浜市立大学データサイエンス学部は、2018年に首都圏初のデータサイエンス教育に特化した学部として誕生した。ここは文理融合型の学部であり、文系・理系という枠にとらわれない柔軟な思考と発想を大切にしている。また、企業や官公庁といった『データ活用の現場』での実践的な学びの機会を多く提供しているのも特長。世界をフィールドに活躍するデータサイエンティストに必要な、国際水準の英語力の習得にも力を入れている。
同学部は、卒業後、同大学の大学院データサイエンス研究科への進学率が高いのも特色だ。学部時代に、データを読み解くために必要な数理や統計の基礎的な知識をはじめ、社会で不可欠なコミュニケーション能力、イノベーションを起こす発想力、そして次世代に通用するビジネス力を鍛え、大学院で専門的な研究を深めていく。
医学部を有する横浜市立大学の強みを活かし、大学院データサイエンス研究科には、ヘルスデータサイエンス専攻という医療とデータサイエンスを融合した研究に取り組める専攻を設置。データサイエンスの知見を医療分野で役立てたいと考えている人は注目すべきだろう。
学部の特色は以下の通り。
横浜市立大学データサイエンス学部 3つの特色
1 「文理融合」の柔軟な学び
データサイエンスの基礎をなす学問分野は統計学や情報科学で、理系的な要素が多いことは間違いない。しかし、それらを応用する社会は、自然現象の解明や工業製品の生産あるいは医学をはじめとした健康科学という理系分野だけでなく、経済・経営やマーケティングさらには文学といった文系分野と多岐に渡る。文理を分離するのではなく融合する。これが横浜市立大学データサイエンス学部の学びだ。
2 「現場重視」の実践的な学び
データサイエンスは変化のスピードが速い分野。目の前の流行のみを追っていたのでは、いつまでたっても追いつき追い越すことはできない。重要なのは統計学、情報科学などの基礎固め。その基礎力を養ったうえで、いくつかの企業や横浜市の各部局と連携し、データが実際生まれる現場でPBL(Project-Based Learning、課題解決型学修)を行い、実践的に学んでいく。教員には思いもよらない解決法を見いだす発想力が学生に求められている。
3 国際水準の英語力を鍛えられる
自分の考えやアイデアを他の人に伝えるツールの代表格は「言語」。データサイエンスのフィールドは「世界」だ。フィールドが世界であるならば、その言語は「英語」が中心で、学会や国際会議あるいはビジネスの場では英語が共通言語となる。専門的な討論はもちろん、会議後の懇親会やプライベートな場でも共通語は英語。横浜市立大学では、データサイエンティストの活躍の場となる「世界」で通用する英語力をしっかり鍛えていく。
【特徴的な授業やプログラム】
基礎から応用、実践的PBLへ
横浜市立大学データサイエンス学部では、1年次前期から「線形代数学」や「微分積分学」等を学び基礎を固めながら、「PBL入門」の中で実施しているデータサイエンスセミナーを通してデータサイエンスが社会において果たす役割を学んでいく。後期からは「プログラミング演習I」でPython言語を学びデータを計算機で処理する基本技術を修得する。また、「統計学I」を学び、データサイエンスの基礎をなす統計学の基礎知識を身に付けていく。
2年次以降は、「プログラミング演習Ⅱ」や「データ可視化法」、「統計モデリングI」、「サンプリング法」、「多変量データ解析」等のデータサイエンスの基礎科目を学びつつ、「マーケティングデータ分析」や「医療統計学」といった、修得したデータサイエンスに係る知識や技能を社会展開に応用していく事にシフトしていく。
3年次以降の演習では、企業や官公庁と連携したPBLを通じて実践的に学ぶと共に、それらの成果を卒業研究としてまとめていく。
4年間の学びのイメージ
「データサイエンス人材育成プログラム」というワンランク上のレベルを目指す専門プログラムもある。これは、データからストーリーを紡ぐ「データ思考」を涵養したうえで、よりよい社会を構築し、データサイエンス研究を牽引する人材を育成することを目的としている。
プログラムに参加する学生は、データ思考の涵養において、統計学や情報科学の技能のみに重点を置くことなく、データサイエンス人材としての姿勢を常に検討・更新することを心がけながら、人間や社会に対する興味や関心を持ち続け、各分野の課題をデータから数理的・分析的に考える基礎的能力を修得することが求められる。また、さまざまな人々と協同して課題解決を図る態度・志向性を有し、社会に貢献することへの高い意識を有するデータサイエンス人材となれるよう意識をもって学修を進める。
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データサイエンス人材育成プログラム
【注目すべきプロジェクト】
SDGsをテーマにした国際環境シンポジウムを開催
横浜市立大学データサイエンス学部では、SDGsの取り組みにも力を入れている。2021年3月、気候変動とSDGsをテーマとした国際環境シンポジウムと学生交流ワークショップを開催。シンポジウムはオンラインで実施し、学生だけでなく一般にも公開した。
シンポジウムでは、アジア太平洋地域の研究者、自治体や企業の有識者が集まり、横浜、フィリピン、オーストラリア、台湾、マレーシア地域の気候変動の現状とその対策について議論した。気候変動におけるデータサイエンスの有用性を考えるうえで非常に大きな意義があった。
続く学生交流ワークショップでは、横浜市立大学の学生がアジアの学生や研究者らと交流し、「アフターコロナの生活の質の向上」をテーマに、グループワークを通じて議論を深め、英語によるプレゼンテーションを実施。新しい時代に向けた生活の在り方をアジアの学生と共に議論する貴重な機会となった。
【入試制度】
データサイエンス分野の活動を評価する総合型選抜も
横浜市立大学データサイエンス学部の一般選抜は前期日程、後期日程に分かれている。 前期日程は、総合的な基礎学力を評価する大学入学共通テスト(第1次試験)と、データサイエンス分野についての問題意識、理解力、論理的思考能力などを評価する個別学力検査(第2次試験)により選抜する。前期日程の第2次試験は、数学、英語、および総合問題により行う。総合問題では与えられた情報から自己の見解などを論理的に表現できる力を評価する。
一方、後期日程の第2次試験は、面接により行われる。面接は志望動機、関心のある分野、将来の進路などに関する質問を通じ、学習意欲、理解力、表現力などを総合的に評価する。
定員5名と少ない枠ではあるが、総合型選抜も実施している。データサイエンス分野における積極的な活動やそれに対する自己評価、入学後の目標を記した書類および高等学校の調査書(またはそれに代わる書類)、英語外部試験の成績の提出が必要。データサイエンス学部では、2次選考合格者に3次選考として総合的な基礎学力を評価する大学入学共通テストを課し、総合判定する。
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横浜市立大学入試情報
【想定される進路】
システムエンジニアからコンサルティングまで多彩
横浜市立大学データサイエンス学部の2021年度の卒業生は、約6割が企業や官公庁に就職、約4割が横浜市立大学ほかの大学院に進学した。同年度の卒業生の就職先は、富士通、日立製作所、電通デジタル、アクセンチュア、横浜銀行など。情報通信業、製造業(システムエンジニア)、金融、コンサルティング、メディアと就職先の業界が幅広いのが特徴だ。
Text by 丸茂健一(minimal)