【早稲田大学】数学を専門に学んだ経験は、AI時代のエンジニアとしての強みになる!

基幹理工学研究科 1年
データサイエンス系大学・学部に通う先輩は、どのような学び&研究に取り組んでいるの? 今回話を聞いたのは、早稲田大学基幹理工学部数学科を卒業し、現在は同大学院で代数幾何を研究している保坂篤志さん。数学の研究に打ち込みながら、プログラミングやアプリ開発にも取り組み、将来はエンジニアを目指している。数学とプログラミング、それぞれの面白さや両方を学ぶことの魅力を聞いた。
数学とプログラミングの両方に取り組む
――現在取り組んでいる学びについて教えてください。
私は「代数幾何」を専門にしています。簡単に説明すると、方程式を図形として捉える学問です。中学や高校で学ぶy=x²のようなグラフを思い浮かべてもらうと近いのですが、式(代数)と図形(幾何)を行き来しながら、その性質を調べていく分野です。
大学の数学科に入ってさまざまな分野に触れる中で、「こんなに面白い世界があるのか」と感じ、代数幾何を選びました。私にとっての面白さは、「できなかったことができるようになること」です。かつての古典代数幾何では扱いきれなかった問題も、現在の理論を用いれば扱えるようになっている。その背景にある発想の転換や、本質を見抜いて新しいアイデアが生まれていく過程に、強い魅力を感じています。大学院では代数幾何の研究室に進んでおり、さらに研究を深めていきたいと考えています。
一方で、プログラミングにも日常的に取り組んでいます。将来はエンジニアとして働くことを考えており、インターンなどで実務を経験しながら、知識とスキルを身につけているところです。
――プログラミングに興味を持ったきっかけを教えてください。
小学生の頃、学校で一度だけプログラミングの授業があって、「Scratch」というブロックを組み合わせる言語に触れたんです。それがすごく楽しくて、一気にハマりました。当時は家でゲームが禁止されていたのですが、「それなら自分でつくればいいじゃん」と思って(笑)。その後、基本的には独学で、Scratchを使って自分で遊ぶためのゲームをつくっていました。
※保坂さんが小学生時代につくったゲーム中学3年生の頃になると、ゲーム制作にも少しだけ飽きてしまって。そんな時に両親からアプリ開発を勧められて、プログラミングスクールに通い始め、iPhoneアプリの開発にも挑戦するようになりました。
そうした中で、「アプリ甲子園」の決勝動画を見る機会があり、「こんなすごいアプリをつくる同世代がいるのか」と衝撃を受けました。自分もここを目指したいと思ったのが高校1年生の頃です。ただ、最初の挑戦は一次予選で落ちてしまって。その悔しさもあって、英単語アプリを開発して、高校3年生のときに再挑戦しました。
――なぜ英単語アプリだったのですか?
「身の回りの課題を解決しよう」というところから考えて、当時、自分が一番困っていたのが英単語の暗記だったんです。高校時代は本当に苦手で、20点満点中3点を取ったこともあって……。「どうやったら覚えられるんだろう」と悩んでいました。
友達が単語カードを使っていたので自分もやろうと思ったのですが、1枚ずつつくるのは大変だなと。それなら「自分の得意なアプリで解決すればいい」と考えました。どんな技術を使えばより良い体験になるか、どんな機能があれば使いやすいか。企画の段階だけで半年ほどかけて、かなり入念に設計しました。
開発は基本的に一人で進めていて、プログラミングスクールのメンターの方にアドバイスをもらいながら、企画から実装までやり切りました。1年間、一つのアプリに向き合い続けるのは正直大変で、思うように動かずバグに悩まされることも多かったです。それでも試行錯誤を重ねながら、友達に使ってもらっては改善する、というサイクルを繰り返していきました。
「これ、めちゃくちゃいいじゃん」と友達に言ってもらえたときは、本当にうれしかったですね。結果的に、アプリ甲子園では準優勝できました。
大学時代は、1年間で7つのハッカソンに出場したことも
――そうした中で、なぜ大学では数学科を選んだのですか?
高校時代から数学が好きで、大学でも数学を専門的に学びたいと考えていました。大きなきっかけになったのは、高校3年生のときに受けた、大学の数学を先取りするような授業です。高校までの数学はどちらかというと計算中心でしたが、その授業では、論理を積み上げていくような内容に触れて、「こういう数学をやりたい」と思うようになりました。決まった答えを導くというよりも、自分で筋道を立てて考え、論理を組み立てていく。そのプロセスに面白さを感じたのが、数学科を選んだ理由です。
一方で、数学者として生きていくのは狭き門だし、簡単ではないとも感じていました。将来、仕事にすることを考えると、エンジニアという選択肢が現実的だろうと、高校生の頃からも思っていたんです。
学生時代は、腰を据えて数学に向き合える貴重な時間。だからこそ、大学では数学にしっかり向き合い、その一方で、学外の活動でプログラミングやアプリ開発にも取り組んでいこうと考えました。

――大学ではハッカソンなどにも参加していたのですか?
はい、かなり積極的に参加していました。特に4年次の頃は、1年間で7回ほど出場していました。毎回メンバーも異なるのですが、チームで開発することで、勉強の仕方やものづくりの進め方、考え方まで含めて、多くの刺激を受けられるのが魅力でした。
気になるハッカソンを見つけると、URLを送りつけて「一緒に出ようよ」と半ば強引に誘うこともあって(笑)。中には3、4年ぶりに連絡を取った友人もいましたが、それがきっかけで、その後も何度か一緒に出場することもありました。
LINEヤフー主催の学生ハッカソンイベント「Open Hack U 2024」では、準優勝も経験できました。このときはToDo管理アプリを開発しました。従来のToDo管理は一人で完結するものが多く、どうしてもモチベーションが続きにくい。そこで、「誰かに見てもらうことで継続できるのではないか」と考えました。同じアプリを使っている人同士がすれ違った際に、目標の達成度を共有できたり、「いいね」や簡単な応援コメントを送り合えたりする仕組みを実装しました。
――数学科の学生で、エンジニアを目指している方は多いですか?
私の周りでは、学生のうちからプログラミングに取り組んでいる人はそれほど多くはありません。ただ、進路としてエンジニアを選ぶ人は一定数いて、数学で培った論理的な思考力が活かせる分野として、関心を持っている人は多い印象です。
――近年は情報系学部も増えていますが、数学を専門に学んだ人がエンジニアになる強みはどこにあると考えていますか。
これからは生成AIの活用がさらに進んで、いわゆる「技術力」だけでは差別化が難しくなっていくと思っています。そうした中で一つの武器になるのが、「理解力」だと感じています。
数学を専門的に学ぶというのは、単に解き方を覚えるのではなく、原理を理解し、それを自分の中で組み立て直す力を養うことだと思っています。だからこそ、生成AIについても「どういう仕組みで動いているのか」を、自分なりに体系化して理解することができる。その結果、AIが得意な領域と、まだ限界がある部分の両方を見極められるようになると感じています。
論理立てて考える力や、理解した内容を再構成する力は、数学をやってきたからこそ身についたものですし、エンジニアとして働くうえでも大きな強みになると考えています。

課題を解決し、人を笑顔にできるエンジニアになりたい
――これから、大学院では数学のどんな研究をやっていこうと思っているのですか?
大学院の研究室では「行列式多様体の特異点解消」というテーマに取り組みたいと考えています。
行列式多様体というのは、簡単に言うと「行列のランクに条件を課してできる図形のようなもの」で、一般に“特異点”と呼ばれる、少し扱いにくい性質を持つ点が含まれています。特異点解消というのは、そうした尖った部分を、変換を使って滑らかにしていく操作のことです。
このテーマは代数幾何として純粋に面白いだけでなく、実はAIの学習理論とも関係があります。イメージとしては、データの中に“尖り”があると、AIがうまく学習できない場合がある。その部分を滑らかに整えることで、より安定した学習につながると考えられています。
最初はAIをきっかけにこの分野に関心を持ったのですが、代数幾何の観点から見ても興味深いテーマなので、特異点がどのような構造をしているのか、どうすればより良く扱えるのかを探っていきたいと思っています。これから本格的に取り組むのが楽しみです。
研究室には、本当に数学が好きな人たちが集まっていて、数学が得意な人もたくさんいます。博士課程の先輩方もいるのですが、憧れるような方ばかりで、「自分ももっと頑張ろう」と刺激を受けています。

――将来の目標を教えてください。
今はAIが注目されていますが、将来的にはもっと当たり前の存在になっていくと思っています。例えば、検索エンジンも登場した当初は革新的な技術でしたが、今では日常の一部ですよね。
そうした中で、自分はどんなプロダクトをつくれるのかを大切にしたいと思っています。誰かの課題を解決して、結果として人を笑顔にできるようなものを開発していきたいです。
また、知識やスキルの幅も広げていきたいと考えています。ITインフラの基礎からAIのような先端領域まで、一つに偏らずに理解を深めていくことで、簡単には代替されないエンジニアになりたいと思っています。
――最後に、高校生へのメッセージをお願いします。
これは自分も高校時代にやっておけばよかったと思うことなのですが、先輩にたくさん話を聞くことが大切だと思います。
大学生の先輩が高校に来て話をしてくれる機会などがあると思うのですが、いざ質問しようとすると、何を聞けばいいのかわからなくなることも多いと思います。そのときに、「高校時代に何をすればいいですか」といった一般的な質問だけでなく、その人がどういう考えで進路を選び、今どんなことを目指しているのかまで踏み込んで聞いてみるといいと思います。
いろいろな人の話を聞くことで、自分の中に選択肢や考え方が増えていきます。その中から、自分が目指したい方向を見つけていく。そういう積み重ねが、進路を考えるうえで大切だと思います。まずは一歩踏み込んで話を聞いてみること。それが将来につながると思うので、ぜひ意識してみてほしいです。
保坂さんは、プログラミングスクール「Life is Tech ! (ライフイズテック)」で学生メンターを務めている取材協力
Life is Tech ! (ライフイズテック)
中学生・高校生〜社会人向けのIT・プログラミング教育サービス。2010年にスタートし、これまで100万人以上にデジタルを活用したイノベーション教育を届けている。
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Life is Tech ! (ライフイズテック)
Text by 仲里陽平(minimal)/Photo by 倉持一菜(minimal)


