【東京大学医学部】医療とテクノロジーを融合させた未来を模索中!

医学部医学科 6年
データサイエンス系の学びは、どんな未来につながっている? 今回話を聞いたのは、東京大学医学部医学科に在籍しながら、エンジニアとしてITコンサルティングの仕事も手がける松村大央さん。医療系スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)を務め、生成AIを駆使したプロダクト開発や医療×AIの最先端プロジェクトに取り組んでいる。けん玉の世界大会出場やゲームの世界ランカーなど、多彩な顔も持つ松村さんに、医学とテクノロジーを両方学ぶ面白さ、そしてこれからのAI時代をどう生きるかを聞いた。
医師を目指しながら、スタートアップの現場でAI開発に挑む
――現在、どんなことに取り組んでいるのか教えてください。
東京大学医学部で医師を目指して学びながら、エンジニアとして複数のスタートアップ企業の仕事をお手伝いしています。役割としては、いわゆるCTO(最高技術責任者)のような立場を任されることが多いですね。
スタートアップの世界では、経営者の方が「こういうものをつくりたい」というイメージを持っていても、AIやプログラミングに関する専門知識がなければ、実際に形にするのは難しい。そのイメージを汲み取って、プロダクトに落とし込んでいくのが私の役割です。スタートアップは「速さ」が命なので、技術と経営の間をつなぐ部分に、自分のバリューを出せていると感じています。
――具体的には、どんな開発をしているのですか?
例えば、ある広告運用の会社では、それまで大手のツールに頼っていた計測システムを、自分たちのために一からつくり直すプロジェクトを担当しました。参考になる資料も少なく、社内でも詳しい人がいない状況でしたが、実験を重ねながら、限られたリソースの中で一人でゼロから開発しました。
いまは、ClaudeやChatGPTといった生成AIの力も大いに借りています。ただ、AIに任せきりにするのではなく、自分がどれだけ仕組みを理解して使いこなせるかが重要だと思っています。扱う言語はPythonやJavaScriptなどがメイン。技術の幅は、意識して広げるようにしています。
「ものをつくる」面白さとの出合いが、エンジニアとしての原点
――プログラミングを始めたきっかけを教えてください。
最初に基礎を学んだのは、高校1年生のときに通った予備校の講座でした。情報オリンピックで金賞を取った方が教えてくださるような、高校の授業とはかけ離れた本格的な内容で、ここで土台をつくりました。
転機になったのは、同じ高校1年の夏に参加したプログラミングスクール「Life is Tech !」のシンガポールでのキャンプです。それまではプログラミングというと、競技プログラミングのように「速く正確に解く」イメージが強かったのですが、実際に手を動かして「ものをつくる」面白さに触れて、見える世界がガラッと変わりました。
――大学に入ってからは、どのように力をつけていったのですか?
大学2年次に、東大OBの方が経営する、社員3人ほどの小さな会社でインターンを始めました。そこのCTOの方が凄腕で、プロダクト開発の基礎からリリースまでの流れ、マネジメント、機械学習まで、本当に幅広く教えていただきました。この1年半が、自分にとって一番大きな成長につながったと思います。
医療から教育まで、AIで社会課題の解決に挑む
――医療とAIの分野では、どんなプロジェクトに関わっていますか?
最近は「フィジカルAI」と呼ばれる、ロボティクスの領域にも少しずつ関わり始めています。病院内を2足歩行ロボットが歩くという、日本初の実証実験に取り組む会社のお手伝いをしています。
もう一つ力を入れているのが、119番通報へのAI導入プロジェクトです。緊急通報の内容をリアルタイムで文字起こしして、緊急度を判定する(トリアージする)仕組みづくりです。もともと判定のためのプロトコルはあるのですが、それだけでは現場の感覚と合わない部分もある。だから、現場の方のフィードバックをもとに、判定の精度を少しずつ上げていく取り組みをしています。
――個人的に取り組んでいるプロジェクトもあるそうですね。
子ども向けのAI教育ツールをもうすぐリリースできるところまで開発しています。いまの子どもたちは、わからないことをChatGPTに聞いて、すぐに答えをもらってしまう。それだと、考える力が育ちにくいですよね。だから、あえてすぐに正解を出さず、「考えさせるやり取り」を挟むことで、思考力や理解力が伸びるような仕組みを組み込んでいます。ほかにも、趣味のゴルフでは、スイングの骨格をトレースして、プロの理想的な動きと比べてアドバイスする、といった分析システムづくりにも取り組んでいます。

より早く、目に見える結果を出せる方向へ
――そもそも、なぜ医学部を志したのですか?
もともと小学生の頃から生き物が大好きで、中学に入ってからは特に分子生物学に興味を持っていました。高校1年生のときに分子科学研究所の一般公開で、「分子モーター」のような最先端の研究に触れて、「研究者になりたい」と憧れを抱きました。それが、医学を志したきっかけでした。
ただ、実際に研究の現場を知るうちに、結果が出るまでに何十年もかかる世界が、自分の性格には合わないかもしれない……と感じるように。自分は、やりたいことはすぐにやりたいし、フィードバックもすぐにほしいタイプなんです。そこから、より早く、目に見える結果を出せる方向へと関心が移っていきました。
――これからのソフトウェアやAIの世界を、どう見ていますか?
正直なところ、ソフトウェア単体でのスタートアップは、これから5年くらいで限界が来るのではないかと思っています。よほどのアイデアがない限り、汎用的なものは大手やAIが一気につくれてしまう。だからこそ、これからはハードウェアとの融合が必要になってくると感じています。
一方で、特定の業界や現場に特化したものには、まだまだニーズがあります。実際、企業の現場には「こんなことで困っているのか」と驚くような、地道な課題がたくさんある。そういうところを一つずつ解決していく仕事は、これからも価値が残ると思っています。
技術の力で、本当に必要なところに医療を届けたい
――将来の目標を教えてください。
卒業後はまず、研修医として2年間、医療の現場を経験するつもりです。自分の目で現場を見て、ITの知識も持った状態で、新しい課題を見つけたい。そのうえで、起業を含め、医療分野で貢献できる仕事をしたいと考えています。
医師の仕事には、まだまだ非効率な部分が多く残っています。技術の力でそこを変えて、本当に必要なところに医療を届けたい。いまは、技術的にもドメイン(専門領域)的にも、しっかりインプットを積む時期だと位置づけています。世界が1年で大きく変わる時代なので、方向を決め打ちするよりも、「ここだ」と思える分野を見つけたら、すぐに動ける体制をつくっておきたいと思っています。
――最後に、高校生へのメッセージをお願いします。
伝えたいのは、「世界が何で動いているのか」を知ろうとしてほしいということです。いまでいえば、その大きな一つがAIですよね。多くの人は、AIを「何か聞いたら答えが返ってくる便利なもの」としか思っていないかもしれません。でも、例えばLLM(大規模言語モデル)の中身は、すごく単純化すると「次に来る文字を確率で予測して並べているだけ」だったりする。その仕組みを、ざっくりとでいいので知っておくと、見える世界が変わります。

大事なのは、システムに飲まれる側ではなく、システムを理解して、つくれる側になること。AIをうまく使うのは前提として、その上で「これはどうやってできているんだろう」というところまで興味を持ってほしい。それはきっと、これからどんな道に進むとしても、自分の力になると思います。
取材協力
Life is Tech ! (ライフイズテック)
中学生・高校生〜社会人向けのIT・プログラミング教育サービス。2010年にスタートし、これまで100万人以上にデジタルを活用したイノベーション教育を届けている。
詳細はこちら
Life is Tech !(ライフイズテック)
Text & Photo by 丸茂健一(minimal)
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