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慶應義塾高校野球部やバスケ男子日本代表の躍進を支えたデータサイエンス 慶應義塾高校野球部やバスケ男子日本代表の躍進を支えたデータサイエンス

慶應義塾高校野球部やバスケ男子日本代表の躍進を支えたデータサイエンス

データサイエンス百景編集部
データサイエンス百景編集部

「エンジョイ・ベースボール」で話題となった慶應義塾高校野球部の甲子園優勝や、48年ぶりに自力で五輪出場を掴み取ったバスケットボール男子日本代表など、躍進を続けるチームの舞台裏には、データ活用の存在がある。スポーツ分野におけるデータサイエンスの活用とは、どのようなものなのだろうか。

部活動とデータ活用のあり方とは?

慶應義塾高校(神奈川県)の107年ぶりの優勝で幕を閉じた第105回全国高等学校野球選手権記念大会。「野球部は坊主」という価値観が未だ根強いなか、自由な髪型や、選手自身の自主性を重視すること、必要以上の長時間練習をしないといったチームビルディングでも耳目を集めました(※1)。そんな現代的な野球(エンジョイ・ベースボール)を体現した、慶應義塾高校野球部の躍進を支えた「データ班」の存在もまた注目に値します。

甲子園球場shibugakky / PIXTA

メンバー外の3年生と学生コーチで構成される「データ班」は、対戦相手が決まったと同時に、すぐさま分析を開始するといいます。動画やデータなど、世の中に出ているすべての情報をチェックして、相手投手陣のカウント別の配給など、傾向をグラフ化。慶應の各打者の特徴に合った狙い球を絞っていきます(※2)。個人の能力や努力だけに委ねるのではなく、個人の能力を最大限に発揮させるための最適化をめざすというわけです。これらの取り組みは、今後、どの学校にも必ず求められるものになっていくでしょう。

データ活用や効率的なトレーニングによって、練習時間が少ないと言われる慶應義塾高校野球部ですが、「(慶應義塾高校は)選手の技術も、フィジカルもあって、エンジョイベースボールが神髄だと思うが、楽しむために一生懸命やろうよっていう下地があった(※3)」と試合後に言及した仙台育英・須江航監督の言葉通り、「エンジョイ・ベースボール」を体現するためには、身体的な強度も必要不可欠です。

結果だけに依存せず、そのプロセスも評価する

データ分析は重要ですが、それを体現するだけのフィジカルもセットで大切。これまでの部活動では、いわゆる「根性論」やその効果がブラックボックスであるフィジカルトレーニングも少なくありませんでした。しかし、根拠となる客観的なデータを用いることによって、辛いトレーニングであっても、納得しながら取り組むことが可能になります。また、優勝校以外のすべてのチームが負けることになるのが、スポーツの世界。試合の結果だけでなく、そのプロセスを評価、改善していくことは、部活動に求められる重要な価値観となりそうです。

『データサイエンス百景』で取材を行った、スポーツ科学と人工知能機械学習)の融合について研究する名古屋大学大学院情報学研究科の藤井准教授も「結果だけに依存せず、そのプロセスを評価できることは重要」と言及していました。

「これまでのスポーツ分析やプレーの評価は、指導者やプロ選手の経験に依存したり、プレーの結果によって判断されたりすることが多くありました。結果にとらわれない評価ができることは、戦術の有効性を正確に判断することはもちろん、部活動の指導者不足の課題解決にも役立つと考えています。日本の部活動では、そのスポーツを指導する先生に競技経験が少なかったり、そもそも競技経験がなかったりすることも少なくありません。そのため、客観的な定量分析を用いることで、指導者の不在や経験不足を補うことができます。また、プレーする選手たちが自分たちの戦術的な動きの有効性を確かめることも可能になり、各部活動レベルの蓄積がスポーツ全体のレベル向上にもつながるはずです」

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【名古屋大学】データサイエンスで集団スポーツの解析に挑む

慶應義塾高校のような恵まれた設備や指導経験豊富な監督が、どの高校の部活動にも備わっているわけではありません。データの活用は、戦術面だけでなく、指導者不足の解消、監督からの指導に透明性を付与することの手助けにもなります。

データサイエンスとは、膨大なデータから課題解決につながる「価値」を見出すこと。データだけが膨大にあっても意味がなく、それをどのように活用していくのかが重要です。データの活用が叫ばれる時代には、慶應義塾・森林監督が生徒に訴える「自分の頭で考えること」(※4)が最も必要な能力になるのかもしれません。

バスケットボールなど、集団スポーツにおけるデータ活用!

FIBAバスケットボールワールドカップ2023において、3勝2敗、史上最高位の19位で大会を終え、48年ぶりに自力で五輪出場を掴み取った男子日本代表。

大会の開催前、チームを率いるトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)は、テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』に出演。そこで実施された、侍ジャパン前監督・栗山氏との対談で、データ活用について話す場面がありました。

「面白いね。データがいっぱいある。バスケットも(細かなデータを活用した)シューティングシステムがあるんです。例えば、シュートも角度とか(が出るような)。やっぱりデータすごいね。日本の野球が世界で強い理由がわかる(※5)」

バスケットボールペイレスイメージズ/ PIXTA

スポーツアナリティクス分野において、野球などの動きが限定されたスポーツは、MLBなどを筆頭に、以前からスポーツ分析が盛んに行われてきました。野球でワールドベースボールクラシックが始まった当初、他国に比べてパワーで劣る日本代表チームは「スモール・ボール」を謳い、バントや足を積極的に使いながら投手力で勝ち切る戦術を採用(※6)。これも、相手のデータとの比較から、日本の勝ち筋を見極めたデータ活用といえます。

男子バスケットボール日本代表においても、身長の不利を埋めるための「ファイブアウト」「ストレッチフォー」といった、スリーポイントシュートや選手たちの機動力を活かした戦術が採用され、日本バスケの躍進を支えました。トム・ホーバスHCは、2021年、東京オリンピックでも、この戦術で女子バスケットボール日本代表を銀メダル獲得に導きました。

前述した名古屋大学大学院情報学研究科の藤井准教授によれば、時系列的に状況が目まぐるしく変化する複雑な集団スポーツの分析は、野球などに比べて難しいですが、その活用もこれから確実に進んでくるといいます。スポーツアナリストとして、2007年から女子日本代表を支え、2年前、トム・ホーバスHCと入れ替わるようにして就任した恩塚亨HCは、以下のように話しています。

「試合自体を数字で分析できるように体現化。それぞれのスタッツに対して基準値を設けて、その基準値を基にしてパフォーマンスを評価し、そこから映像での分析に入ります。ビデオでは良い部分と悪い部分を抽出してその原因を探り、そこからまた数値化をして向上するための優先順位をつけていきます(※7)」

データ分析は、サッカー、ラグビー、テニス、フィギュアスケートなど、そのほか多くのスポーツで活用が進んでいます。データ分析の活用が進むことで、スポーツはさらにエキサイティングに、観戦する側もより楽しめるにようになっていくはず。スポーツ分野におけるデータサイエンスの活用に、ますます注目していきましょう!

<参考>
※1 上沼裕樹/慶應義塾高校野球部が仕掛ける「自己決断」のボトムアップ式指導法/DIAMOND online,2022-07-26.
※2 慶応の躍進支える「データ班」対戦相手の配球徹底分析/神奈川新聞カナロコ,2023-08-20
※3 仙台育成選手が慶応に拍手 須江監督「それが誇り」夏の甲子園/毎日新聞,2023-08-23
※4 森林貴彦/生徒自ら考える「慶應高野球部」の凄すぎる教育/東洋経済ONLINE,2020-10-23
※5 <バスケW杯>トム・ホーバスHCが語る“日本の賞賛”「死のグループと言われるのはいい意味」/テレ朝POST,2023-08-24
※6 永塚和志/「アメとムチ」を使い分けるバスケットボール日本代表指揮官 トム・ホーバスのすごさとは/Sportsnavi,2023-08-04
※7 バスケ女子日本代表・恩塚亨HC データ分析で世界の頂点へ/with Basketball,2022-03-31

Text by 編集部/Photo by Graphs/PIXTA

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