【公立はこだて未来大学】社会と共創しながら最先端の情報とシステムを学ぶ
公立はこだて未来大学
副学長
情報技術やデザイン、アート、コミュニケーション、認知科学や複雑系科学 、AI(人工知能)など、従来はそれぞれ独立していたさまざまな研究領域を有機的に融合させ、ユニークな学びを展開している公立はこだて未来大学。「解」のない社会課題に挑む「プロジェクト学習」や独自のデータサイエンスプログラムについて、副学長の佐藤直行教授に詳しく伺った。
システム情報科学部のみのユニークな単科大学
北海道函館市にある公立はこだて未来大学は、システム情報科学部の1学部からなる単科大学。情報技術やデザイン、アート、コミュニケーション、認知科学 や複雑系科学 、AI(人工知能)など、従来はそれぞれ独立していたさまざまな研究領域を有機的に融合させ、ユニークな学びを展開している。
基盤にあるのは、現在も進化と発展を続ける多様なコンピュータ技術。これからの社会を支える人材を育むため、システム情報科学部には、既成の情報工学や情報科学の枠組みを越えた独自性の高いカリキュラムが用意されている。
世界のあらゆる事象を個別にとらえるのではなく、相互に関わり合い、影響を及ぼし合うシステムとしてとらえる「システム情報科学」では、導き出される解は常にひとつではない。この世界を構成するあらゆる要素を「情報」として、相互に関連し合う「システム」としてとらえるのがこの学問の特色だという。
公立はこだて未来大学の高度な情報系の学びの基盤になるのが「データサイエンス」だ。データサイエンスに特化した全学プログラムを担当する副学長の佐藤直行教授はこう語る。
「データサイエンスは、デジタル時代の『読み・書き・そろばん』であり、現在すべての学生は、文理の分野を問わず、数理・データサイエンス・AIを適切に理解し、それを活用する基礎的な知識・スキルを体系的に習得することが求められています。公立はこだて未来大学は、2000年の開学以来、情報科学に特化してきた大学です。これまでも機械学習、深層学習(ディープラーニング)、応用数学、情報工学など、データ解析・処理に関連した先端研究に取り組んできており、データサイエンスの知識と活用を学ぶ環境が整っています。また、2020年度から、これらの高度な知識習得を目的とした『データサイエンスオープンプログラム』(後述)も実施しています」
システム情報科学部は、情報アーキテクチャ学科/複雑系知能学科の2学科から構成されている。学生は2年次から2つの学科に分かれ、さらにその中の5つのコースのいずれかの専攻に所属して学びを深めていく。
情報アーキテクチャ学科は、情報システムコースと情報デザインコースから構成されている。このうち情報システムコースは、3年次からさらに高度ICTコース(修士課程までの一貫教育)に枝分かれする。一方、複雑系知能学科は、複雑系コースと知能システムコースから構成されている。
なかでも「複雑系コース」は、大学院で学ぶことの多い「複雑系科学」を学部の4年間で学べるようにした日本初の学科・コース。情報系システムの解析と応用に不可欠な「コンピュータ」と「数理」を基礎として学びながら、幅広い領域をシステム思考によって認識する方法論を学ぶことができる。
では、公立はこだて未来大学の特色を見ていこう。
【カリキュラムの特色】
公立はこだて未来大学 3つの特色
1 オープンスペース、オープンマインド
公立はこだて未来大学は、モットーである「オープンスペース、オープンマインド」を体現した、スタジオと呼ばれる津軽海峡と函館山を望む5階分を吹き抜けにした巨大なスペースや、ガラス張りになっている教員の研究室,講義室,図書館,事務室など、キャンパスは開放的な空間になっていて、その中で卒業研究、グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーションといった対話を通じた学びが実践されている。
キャンパスがそこにいる学生全員にひとつの空間を共有する感覚を持たせ、学びの共同体としての一体感を生み出している。
「本学は建学の際、教員や学生などの構成員が互いに分野を超えて刺激し合うことで相乗効果が得られるようにという意図で、このような仕切りのない、ガラス張りの建物が設計されたと聞いています。実際、大学らしからぬ、印象的な空間だと感じます。このためか、学生がふらりと教員室(のガラスの壁)を覗きにきて議論をするというような、共に学び合うような風土があることが本学の長所だと思います。」
2 3年次全員必修の「プロジェクト学習」
1年次にシステム情報科学の基礎を幅広く学び、2年次からコース選択をした学生は、3年次に全員必修の「プロジェクト学習」を経験する。これは、決まった「解」のない実社会の問題を解決していく方法を探求する取り組み。異なる学科・コースの学生が混じり合ってチーム共同で学ぶ公立はこだて未来大学の根幹をなすプログラムだ。地域社会をフィールドとしたプロジェクト、企業の研究開発部門の方々と連携しながら取り組むプロジェクトが多いのも大きな特長で、学習の成果はさまざまな機会を通じて学内外に公表され、連携企業や地域社会へフィードバックされる。
3 学内外の共同研究が盛ん
公立はこだて未来大学では、「街に出る」研究・教育活動をモットーとして、「地域社会と連携し、社会の中で共創して」社会課題に取り組む地域貢献の試みを大切にしている。情報、デザイン、複雑系科学、知能といった領域の学問は、いずれも社会実践のただ中でこそ新しい発見があり、生き生きと学ぶことができる。街に出て、地域社会の問題を発見し、問題を取り巻く固有の環境条件を理解し、解決策をユーザや市民と共に考え、システムとしてかたちにしていく——こうした現場志向の教育や研究のスタイルは、そのまま社会と共創しながらデザインしていく活動へとつながっている。
豊富な実務経験を有する教員たち
社会との共創と同様に、学内の教員間によるさまざまな学際的共同研究も活発に行われている。脳科学が専門の佐藤副学長もさまざまな共同研究に参加しているという。「未来大では、情報アーキテクチャ学科情報デザインコースの迎山和司教授を中心としたAIによる『マンガ生成』がテーマの研究プロジェクトがあるのですが、そのプロジェクトには複雑系知能学科複雑系コースに所属している私や、知能システムコースの村井源教授もいて、学科やコースの垣根を超えた共同研究が行われています。学内にいながら、脳科学・映像表現・物語論の本格的なコラボレーションが可能なのは本学の強みだと思います」
【特徴的なプログラム】
データサイエンスオープンプログラム
公立はこだて未来大学では、在学生および社会人を対象とした履修証明プログラム「データサイエンスオープンプログラム(DSOP)」を2020年から実施している。このプログラムでは、データサイエンスの専門的な知識を習得し、実社会においてデータサイエンティストとして活躍するための素養を身につけられるようにすることを目標としている。
DSOPの修了要件(6つの科目群から8単位以上の習得)を満たした学生には、本プログラムの履修証明書が交付される。DSOPの導入科目である「データサイエンス入門」と学部必修授業の「情報機器概論」、「プログラミング基礎」は、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(応用基礎レベル)」の認定科目となっている。
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公立はこだて未来大学「データサイエンスオープンプログラム(DSOP)」
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FUNオープンユニバーシティ①「データサイエンス入門」(授業紹介動画)
【特徴的なプロジェクト】
世界を動かす「システム」をデザインする
公立はこだて未来大学には、学生も教員も新しいことに挑戦できる環境があり、面白いことにみんなで協力してチャレンジしようというマインドが共有されている。そして、そのような挑戦を受け入れてくれる地域社会の支えがあることは、地域に根ざした公立大学の強みで、「マリンIT」「SAVS(サブス:Smart Access Vehicle Service)」など、本学の先端的研究成果を社会に実装する研究がなされている。ここからも「知の交流拠点」をめざす同学の姿勢が見える。
プロジェクト紹介:マリンIT
「マリンIT」は、水産・海洋分野とITを融合するための研究領域。海という自然を相手に、季節や時間、天候によって変化し続ける様子や水産物の資源量を正しく捉えるための技術の開発と社会実践に取り組んでいる。例えば、水深ごとの水温や潮流などを遠隔で自動観測できるユビキタスブイシステムでは、漁業や養殖を営む事業者がみずから海に出ることなく、手元のスマートフォンやタブレットでリアルタイムにデータを確認できる画期的な操業環境を実現した。船の位置情報と魚群の情報を漁船同士で共有しながら漁獲量をコントロールすることで乱獲を防ぎ、適正な資源管理にもとづいた将来世代にわたる持続可能な漁業も営める仕組みだ。さらに、従来は船内の黒板や海図、無線電話を使ってアナログで行われていた資源評価作業をデジタル化して、タブレットとGPS(衛星測位情報システム)で置き換えることにより、より合理的で快適な操業を可能にしている。地域の事業者と連携した挑戦は、道内の留萌市や福島町をはじめ日本各地へ、また海外では韓国やインドネシア(バリ島)へと広がっている。
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公立はこだて未来大学 持続可能な水産業を実現するマリンITプロジェクト
プロジェクト紹介:SAVS
SAVSとは、タクシー(デマンド交通)と路線バス(乗合交通)の長所を掛け合わせた、AIによるリアルタイムな便乗配車計算を行うサービス。クラウド上のAIプラットフォームがスマートデバイスと通信し、刻々と変化する車両と人・物の移動状況において、すべての空間移動と希望時間を同時に満たす車両の走行ルートを瞬時に決定する。これは、公立はこだて未来大学発のベンチャー企業、株式会社未来シェアとの共同プロジェクトで、これまで学生も参加する形でさまざまな実証実験が行われてきた。2022年12月には、函館市内で乗り合いデマンドタクシー「未来大AIマース」の実証実験を実施。この技術により、都市レベルでの最適交通の実現を目指している。
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SAVSに取り組む大学発ベンチャー:株式会社未来シェア
【特徴的なプロジェクト】
総合型選抜で活動実績をプレゼン!
「一般選抜」では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)国語・数学・理科・外国語の4教科5科目または6科目が課される。前期日程のみ大学の個別学力検査があり、こちらは数学・外国語の2教科。数学は「数Ⅲ」も範囲になるが選択制となる。後期日程は、個別学力検査を課されない。
このほか、出願書類、適性検査および面接によって合否を判断する「総合型選抜」もある。こちらは、大学入学共通テストを課すことはなく、年内に合格が発表される。適性検査は、理数系の基礎的な能力、言語理解・言語表現の基礎的な能力を評価するもの。加えて、「これまでの活動実績」をテーマにしたプレゼンテーションが課され、その内容や志望理由について面接で問われる。
「総合型選抜では、学ぶ意欲の高い学生を評価したいですね。AIが好き! プログラミングができる! というだけでなく、高校までに身につけた知識やスキルを活かしてこんな研究をしたい、こう社会を変えたいというビジョンを語ってほしいですね」
詳しい試験科目や日程は、以下で確認を。
【卒業後の進路】
就職実績は堅調&大学院進学が増加傾向
システム情報科学部を卒業した先輩たちは、道内・道外の幅広い業界の企業で活躍している。IT系企業はもちろん、メーカー、金融機関、コンサルティング企業などに就職する先輩も多いという。
学部卒でも一流企業に就職できる実践的な学びが特長の同学だが、最近は大学院に進学する学生も増えている。2023年3月卒業生の大学院進学率は、31.2%。今後は、さらに増加すると予想されるという。
最後に佐藤副学長から受験生に向けたメッセージをいただいた。
「本学は、地方の公立大学ながら、全国から学生が集まっています。情報系の単科大学ではあるものの多様な学生が刺激し合いながら学んでいます。カリキュラムは理数系寄りですが、学際的な研究領域も多いので、ぜひ文系の受験生にもチャレンジしてほしいと思います。興味がある研究分野があれば、1年次から研究室に出入りすることも可能です。教員との距離の近さは、1学年240名のコンパクトな大学ならではの強みです。ここには『やる気』さえあれば、自分の力をとことん伸ばせる環境があります。システム情報科学という新しい学問領域で、ぜひやりたいことを見つけ、将来につながるスキルを身につけてほしいと思います」
詳細はこちら
公立はこだて未来大学 webオープンキャンパス
Text by 丸茂健一(minimal)