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博報堂のクリエイティブディレクターに聞く!マーケティング×AIの未来とは? 博報堂のクリエイティブディレクターに聞く!マーケティング×AIの未来とは?

博報堂のクリエイティブディレクターに聞く!マーケティング×AIの未来とは?

栗田 昌平 さん
栗田 昌平 さん
株式会社博報堂
コマースデザイン事業ユニット CXクリエイティブ局
クリエイティブディレクター/クリエイティブテクノロジスト

AIを使って、リアルに限りなく近い“バーチャル人間”を生み出し、その一人ひとりに何度でもインタビューできる——。博報堂の栗田昌平さんが開発を手がける「バーチャル生活者」は、マーケティングの新しい手法だ。メーカーのSE(システムエンジニア)からキャリアをスタートし、データ活用とクリエイティブ領域を軸に歩んできた栗田さんに、広告業界のAI活用の現状からAI時代に価値が残るスキルまで幅広く聞いた。

AIで生活者を再現する「バーチャル生活者」とは?

——栗田さんの普段のお仕事内容と所属するCXクリエイティブ局の業務について教えてください。

私はもともと広告キャンペーンの企画・制作に携わっていましたが、いまはデジタル領域を中心に、UI・UXデザイン(※)やAI技術を活用したサービス開発に取り組んでいます。所属しているのはCXクリエイティブ局という部署で、CX(カスタマーエクスペリエンス)と呼ばれる領域を担当しています。仕事は多岐にわたりますが、大きく4つあります。生活者が接するアプリやWebのUI・UXデザインと開発、BtoBでのAI活用のユースケース検討と実装支援、デジタル広告の企画、そして万博のようなリアルイベントでの最先端技術の展示・演出です。生成AIに代表される最先端技術は、私たちの武器になりやすい領域なのです。

※UI・UXデザインとは?
UIとは「User Interface(ユーザーインターフェイス)」の略称。Webサイト、ソフトウェア、ゲームなどさまざまなサービスとユーザーとの接点にあたる画面やアイコンなどをデザインすることを指す。UXとは「User eXperience(ユーザーエクスペリエンス)」の略称。Webサイト、スマホアプリ、ハードウェア(機械)などさまざまなサービスを使う中での体験全体をデザインすることを指す。
キーワード:UI・UXとは?

——生成AIソリューション「バーチャル生活者」とは、どのようなプロダクトなのでしょう。

バーチャル生活者

端的に言うと、AIで限りなくリアルな人間に近い“バーチャル人間”をつくり、その人たちに何度でも、いろいろな角度から、無限にインタビューできるサービスです。目的はマーケティングがメインです。例えば、『この広告はどちらがいいか?』をバーチャル生活者に聞くといった使い方ができます。博報堂が持っている生活者データと生成AI技術をかけ合わせて、数千規模のバーチャル生活者を生成し、さまざまなプロジェクトで活用しています。

バーチャル生活者を生成

人と人の対話では、立場や関係性によって、気を遣ったり、ホンネを引き出しにくかったりすることがありますよね。でも、生成AIを活用すれば、適切なプロンプト(命令)を設計することで、忖度のないフラットな視点から生活者のホンネを引き出すことができます。

バーチャル生活者は、見た目だけでなく、内面までリアリティを追求し、さまざまな個性や価値観を持たせています。多様なバーチャル生活者を数多く生成することで、顧客となる企業のブランドや商品に関する調査やインタビューをさまざまな角度から実施できます。

バーチャル生活者 ペルソナイメージ
バーチャル生活者 ペルソナイメージ

例えば、コンビニコスメの商品開発担当者が、普段あまり接点のない20代の若者向けコスメをプロデュースしたいと考えた場合、グループインタビューの対象となる20代女性社会人のペルソナ(顧客像)をAIが生成します。身長、体重、居住地、出身地、職種、ファッションの傾向、休日の過ごし方まで、生活者データをもとにリアルに再現してくれます。開発担当者は、そのバーチャル生活者に質問を繰り返しながら、商品やサービスのアイデアを練ることができるわけです。

生成AIに命令するプロンプトやアルゴリズムの核になる部分を設計

——開発にあたり、AIやデータサイエンスの知識はどのように活かされていますか? これまでのご経歴と一緒にお聞かせください。

私は2010年に国内メーカーのSE(システムエンジニア)として、キャリアをスタートしました。ちょうどビッグデータブームが到来した頃で、私は小売業の担当として、購買データを分析する高速なデータベースやダッシュボードのUI・UXを設計していました。大学も情報系で、WebデザインやCGを学んでいたので、その知識を活かすことができました。

その後、2014年に博報堂へ移り、研究開発やマーケティングテクノロジーの部門で、購買データやVRなど「生活者体験」を考えてきました。ただ、私はデータサイエンスを専門的に学んできたわけではありません。それでも、社会人になってからずっとデータ活用に興味があり、「データから面白いことが出てくる」と確信しています。「バーチャル生活者」のプロジェクトでは、AIに命令するプロンプトやアルゴリズムの核になる部分は自分で設計しています。アルゴリズムとは、システム開発の「手順」のようなもので、エンジニアとして積み上げた経験がここでも活かされています。一方で、実際のシステム開発やキャラクターデザインなどは、その領域に強みのある社員に任せています。それが、「クリエイティブディレクター」にあたる立場の仕事と考えていいと思います。

——AIを活用したサービス開発やUXデザインの面白さとは?

実際に自分が生活者としてアプリやWebサービスに触れる時に、ここを変えればもっと良くなるな、と思うことも結構あって。そこで、自分なりに工夫して、それを改善する。それが仕事につながるので、こんなに幸せなことはありません。

自分なりの工夫が仕事につながる

例えば、博報堂ではさまざまな企業ブランドのWebサイトを手がけていますが、自動化ツールが普及すると、画一的になりやすく、便利に使えても、ブランドの世界観を出すことが難しくなってしまいます。それはすごくもったいないと思うのです。そこで、Webサイトという認知のための“点”だけでなく、来店(行動)、購買、購買後までの流れ全体のストーリーをイメージして、UXをデザインしていく。それが、部署名にもなっているCX(カスタマーエクスペリエンス)を創造する仕事なのです。AIなどを使って、新しいものを生み出すのが好きな私には、この上なく面白い領域です。

——AI時代において、確実に価値が残る知識やスキルとはどういうものだと思いますか?

当たり前に聞こえるかもしれませんが、“リアルなエクスペリエンス”だと思います。人とのつながりやリアルで経験したことなど、データにならない部分にこそ価値がある。「発想は移動距離に比例する」という言葉がありますが、本当にそう思います。つまり、学生時代は「行動せよ!」ということです。

実は私も先日、1か月休みを取って海外を回ってきました。学生のうちに何を学ぶといいかと聞かれたら、迷わず英語と答えます。私は35歳から英語を始めて、それでも世界がぐっと広がった。AIで翻訳すればいいという声もありますが、リアルに会って自分の言葉で話すからこそ、相手が心を開いてくれることってありますよね?

今後、プログラミングやデザインのスキルそのものの価値は落ちていくかもしれません。でも「学ぶこと」と「ビジネスで使うこと」は別物で、学んでおくこと自体は、仕事において非常に重要です。文化や歴史も同じです。この年になって歴史を学ぶと「それが今にどうつながっているか」を考えるようになり、新しい視点やアイデアのヒントになることが本当に多い。なので、何が役立つかと考えるよりも「幅広く学んでおくこと」が重要だと思います。

まだ誰も知らない体験をつくり出すのがこれからの広告会社の役割

——今後、広告・マーケティング業界におけるAI活用は、どのように進化していくと思いますか。

AIの技術は日々進化していますが、私たちは技術そのものを開発すること以上に、そのAIを使って、皆さんがワクワクするような新しい体験をどうつくり出せるかを大切にしています。AIは業務効率化が得意ですが、そこは多くの企業が目指す領域です。

むしろ広告会社は、クリエイティブの領域で、まだ誰も知らない体験をつくり出し、提供するべきではないかと考えています。博報堂には人を単なる消費者ではなく「生活者」として理解する「生活者発想」というフィロソフィーがあります。そして、未来を構想し、生活者の新しいしあわせをデザインすることを目指しています。

コンセプトムービーの一部

「バーチャル生活者」も、ASEANを中心にグローバル展開を進め、社内で使う対話インターフェースをクライアント(顧客企業)にも開放していきます。いずれは大量のバーチャル生活者が暮らす“社会”をつくり、新商品の情報がどんな文脈で口コミとして広がるかをシミュレーションする、といった構想もあります。さらに、リサーチ用の人格モデルから一歩進めた「バーチャル販売員」も。リアルな販売員が休む時間に稼働し、対話した内容をリアルな販売員に共有する——リアルとバーチャルを融合した「ハイブリッドな顧客体験」を目指しています。

——現在の業務やプロジェクトにおいて、達成したい目標や夢があれば教えてください。

世界で通用するAIサービスやプロダクトをつくってみたいという思いが常にあります。BtoBの世界ではありますが、うまくいけば言語の壁を越えていけるかもしれません。「バーチャル生活者」のようなサービスが国境を越えて、さまざまな国々で活躍するようになれば、さらに多くの生活者データが集まり、グローバルな商品開発やマーケティングのチャンスも広がると思っています。

——AIやデータサイエンスの学びに興味がある高校生へ、メッセージをお願いします。

ぜひ「データを見る目」を養ってほしいと思います

これまでのAI活用やデータ分析の経験から、私はデータの面白さを常に感じています。データの中に、今まで気づかなかったインサイト(洞察)や人間の習性みたいなものが見えることがあります。そこから仮説を立てて、未来や社会がどうなるかを予測する。先が読めない時代において、「未来を見立てること」は非常に重要です。そのときに最も役立つのがデータです。ぜひ「データを見る目」を養ってほしいと思います。

ポイントは「データをただのデータとして見ない」こと。例えば、レシート1枚から「この人はどんな人か」を想像してみる——。書いてある事実を読むだけなら誰でもできる。でも「ここからすると、こんなこともしていそうだ」と発想を広げ、みんなが気づかない視点で見られる人、より面白く読み解ける人が、データを活用できる資質を持っているのではないでしょうか。その面白さに価値を感じられる人にこそ、データサイエンスを学んでほしいですね。

【取材協力】

株式会社博報堂

日本を代表する総合広告会社。テレビCMやWebサイトの広告制作、マーケティング支援、イベント開催支援、コンテンツビジネス、ブランディングなど、業務は多岐にわたる。最近は、生成AIなど最新テクノロジーを用いて、クライアント企業の経営やサービス開発を支援する事業も行っている。
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株式会社博報堂

※掲載情報は、2026年7月時点のものです。

Text by 丸茂健一(minimal)/Photo by 小島マサヒロ

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