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【東大松尾豊教授講演】AI時代の未来の切り拓き方 【東大松尾豊教授講演】AI時代の未来の切り拓き方

【東大松尾豊教授講演】AI時代の未来の切り拓き方

東京大学大学院工学系研究科 松尾 豊 教授
松尾 豊 教授
東京大学大学院工学系研究科

プログラミングスクールLife is Tech ! (ライフイズテック)が2023年夏に開催した中高生向け講演会「未来を切り拓くAIの授業」。今回は東京大学大学院工学系研究科/人工物工学研究センターの松尾豊教授がゲスト。 講演後の質疑応答まで大いに盛り上がった講演で、松尾先生が語った「AI時代の未来の切り拓き方」とは?

AIとの出会い:
小学5年生からポケコンでプログラムを書いていた

今日は、私がなぜAIを研究しているか、というところからお話ししたいと思います。
はじまりは単純なのですが、小学5年生の時に、両親からポケコン(ポケットコンピュータ)をもらって、びっくりしたからなんです。一番最初にもらったポケコンは、1万円札くらいの大きさで、ディスプレイには15文字くらいしか映らない端末なんですが、これまで遊んでいたおもちゃとは違うぞと。なんでもつくれてしまうし、明らかにすごいものだと思ったんですね。それ以来中高時代はゲームを作ってみたり、雑誌を読み込みながらプログラムを書いたり・・・。当時住んでいた香川県にはまともな電気屋さんが1店舗しかなくて、ひとりで休みの日に高松の電気屋さんに行って、PCを触ったりしていましたね。
でもパソコンのメモリは当時はすごく小さかったので、プログラムをちょっと長く書くとすぐにいっぱいになってしまう。スピードも遅いし……。
なので、パソコンの性能が上がったら、「PCの中で無限の世界がつくれるな」と思ってたんです。宇宙ですら誰かのPCの中なのではないか、というSF小説がありますけど、当時の私はそういうことすら真剣に考えていました。

プログラミングとの出会い

そんなことを考えていたからか、中学・高校くらいから、自分の「存在」というのは何なんだということに思考が広がりました。自分はここに存在しているように見えるけれど、本当なのか?目の前にあるものは本当に存在しているのか、もしかしたらどこかのプログラムの中なんじゃないか、とか……。
そこから発展して、こういったことを考えている自分の脳はいったいどうなっているのかというところに関心が広がったんです。

講演風景1

「世界で一番面白い研究をやっている」

東京大学に入り、学部4年に上がるときに研究室を選択するわけですが、そこで研究室リストに「人工知能」というのがあって、これだ、と思ったんですよね。「存在か、認識か」といったことを考えていたし、知能はいつかつくれると思っていたんです。
ただ、すでに知能ができていれば面白くないと思い、大学の図書館で人工知能の本を読んでみたら、どうやらまだ人間の知能をつくる技術は実現できていないらしいと。これはラッキーだと思って、人工的に知能をつくる研究しようと決意しました。

この頃から迷いはなくて、ずっと世界で一番面白い研究をやっていると思っています。
今、人工知能が流行っていて、皆さんも生成AIを使っていると思うのですが、それでも人間のような知能は未だにできていない。賢くなっているというのは確かなのですが、人間の脳とはだいぶ違っている。これはどうしてだと思いますか?

私たちの脳は、常に情報処理をし学習をしています。人間の脳もある種の電気回路なので、電気信号が行き交っていると思ってください。シナプスがつながって、ニューロンが発火する。学習するときには、ニューロンのつながり方が変わっていくんです(脳の可塑性)。このように、脳の神経細胞のはたらき自体はだいぶわかってきました。それでも未だに脳全体がどういうアルゴリズムで動いているのかわからない。2023年になった今もわかっていないって、すごくないですか?

講演風景2

博士論文でディープラーニングの登場する未来を予測

人工知能という研究分野は、私が生まれるよりもずっと前の1956年からありました。
今は第3次AIブームと言われています。生成AIが出てきて、第4次ブームと言ってもいいかもしれないですね。
私が大学生の頃は、第2次AIブームが終わった頃の「冬の時代」で、みんな人工知能という言葉を避けていました。なぜなら、ブームのときにはみんな過剰な期待をするけれど、実現できないとがっかりして、忘れようとするからです。

人工知能の歴史

そんなAIの「冬の時代」の2002年に、私は「特徴量」に関するこんな意味合いの博士論文を書きました。

「人間は10回、100回と同じことをやっているうちに、自分のことを観察して、法則に気づき始めて、工夫をしようとしますよね。ところがコンピュータに100回やれと言ったら、100回同じことをやるわけですが、何も変化が起きないし、工夫もない。
それが、AIと人間の違いで、人間のすごいところです。なので、今のコンピュータを賢くしようと思ったら、“気づく”ということができるようにならなければいけない。今の言葉で言うと、『特徴量』を見つけるということなんですけど、それをできるようにならないといけなんです。」

そして2015年、この「特徴量」を認識する技術が、画像認識の分野で成果を出したんです。人工知能において、一番難しかった問題をついに超えてきた。これは一大事だと確信したわけです。
その後、「アルファ碁(Google DeepMind)」が登場したり、深層生成モデルができたりして、ブームが加速していくわけです。そして、2022年後半から生成AIが出てきて、現在に至るわけです。

東京大学・松尾研究室から
「世界で戦える技術大国のエコシステムをつくる」

大学院の博士課程修了後に、シリコンバレーに行っていた話もしておきましょう。私は、2005年から2007年まで、アメリカのスタンフォード大学で、客員研究員をしていたんです。
その当時、GoogleとかFacebookが上場したてで、めちゃくちゃ大きくなっていたんです。しかも、Googleのエンジニアが、スタンフォードに来て、検索エンジンのつくり方とかを教えるわけですよ。一番旬なものを教えて、それでGoogleに入る学生もいれば、自分で起業する学生もいる。トップ企業が最先端の技術を大学で教えて、そこから起業して活躍する人が出てくる仕組みがつくられていたんです。
大学の研究者が理論を突き詰めて、大発見!というのも大事です。ただ、大学の研究が企業の事業に結びついて、そこでデータが集まって、それからまた大学に戻り研究するというサイクルがないと、世界に勝てないと気づいたわけです。

なので、東京大学の「松尾研究室」は、「世界で戦える技術大国のエコシステムをつくる」ために、「知能を創り、未来を拓く」というビジョンを掲げて、現代の世界で活躍するために必要な、Web工学やデータサイエンスディープラーニング、アントレプレナーシップ(起業家精神)を研究しています。ライフイズテックとやっていることは近いですね。

実は今、受講者数がどんどん伸びていて、今年は1万人を超える予定です。驚くことに、中高生の受講者もすごく増えているんです。「松尾研」から起業したスタートアップも現在18社あるのですが、高校時代に「松尾研」に加わって、18歳や20歳で起業する、といった人もいるんです。スタンフォードとかでも一番優秀な人たちは、起業するんですよね。「松尾研」のまわりもだんだんシリコンバレーのようになってきている気がしています。

講演風景3

とてもエキサイティングな時代。
これだ!と思ったものは信じてやっていく

今日は、私の子ども時代からのことをお話ししました。振り返ると自分がいいなと思ったことをやっていても、それをわかってもらえないことの連続だったんですよね。でも、20年後くらいになると周囲がやっと理解して……そんなのわかってたことじゃん!と何度も思うわけです。
だから、皆さんもこれだ!と思ったものは信じてやっていくのがいいと思います。まわりが理解するのは遅いですし、そんなものです。逆にまわりがすでにわかっていることをやっても意味がないです。

そして、これからの時代は、生成AIが相当大きなインパクトをもたらします。技術課題はたくさんありますが、それらは順次解決され、応用範囲はますます広がっていくでしょう。そうなると、「人間とは何か」が問い直される時代になります。これまでは、人間の脳がブラックボックスであるというのが前提でしたが、その認識が変わる。さまざまな「判断」や「予測」が可視化され、仕事や日常生活も大きく変わるでしょう。とてもエキサイティングな時代だと思います。
なので、まずはAIに触れて、気になる分野を勉強してみるのがいいと思います。

学びが満載だった松尾先生の講演。
後半の質疑応答では、中高生から次々に質問が飛び出しました。

(高校1年生/女子)
先ほど、スタンフォード大学での経験を話されていましたが、アメリカと日本の学生における起業に対する考え方の違いはどこから生まれていると思いますか?

(松尾先生)
いい質問ですね。皆さんは起業と聞くと、そういうのもあるのか、という感じで思っているかもしれません。しかし、資本主義経済の中では、起業することの方が普通なんです。会社をつくるというのは普通の行為。田舎で商店街があれば、魚屋さん、八百屋さんとかがあって、全部会社なんです。会社をつくって、事業をして稼ぐというのが普通なんです。
ところが日本は1970年代からの高度経済成長期に、製造業がうまくいって、大企業化したんですね。なので、そこに入ることがエリートへの道筋で、大企業で働くことが良いという雰囲気になってしまった。製造業以外では、大手の銀行とかね。本当はそうじゃなくて、会社を自分でつくるのが普通なんです。
スタートアップ企業をつくって成功すれば、早くから活躍できるし、社会にも貢献できるんです。シリコンバレーとか、スタンフォードの人は、そう思っている人が圧倒的だと思います。

質問者1

(高校3年生/男子)
将来的にゲーム会社に勤めたいと思っています。
最近、AIを駆使して、入力した内容でキャラクターをつくれる技術が出てきましたが、いま流行っているものが最先端であるのかということをどう確認すればいいですか?

(松尾先生)
ゲーム制作にAIを使うシーンは、いろいろとあると思います。5年後、10年後も大きく変わってくると思いますし、そのときになってみないとわからないこともたくさんあります。ただ、若い人の戦略というのはシンプルで、「変化の激しいところに行く」ということです。
要するに、今年流行っている技術も、来年になるとだいぶ古くなっているという業界を選ぶべきなんです。そういう業界って10年選手、20年選手というのがいないので、3年ぐらいでトップに行けるんですよね。若者だったら、非常に進化の早い業界・業種で名を上げて、活躍してから、だんだんと変化の遅いところに移っていく。それが基本戦略だと思っています。

質問者2

(高校2年生/女子)
7月に政府から、初等教育、中等教育における生成AIの使用に関する方針で出ましたが、自由研究や読書感想文において、ChatGPTなどを使うのは自分にメリットがないと教えるべきという内容でした。
私は、自分にとってプラスになるような上手な使い方を教えて、自分の知識の幅を広げられるようにしてあげるべきだと感じたのですが、生成AIを使った教育についてお聞きしたいです。

(松尾先生)
おっしゃる通りだと思いますね。ただ、今の教育の手法に生成AIが合わないのも事実です。学校側は、生成AIを使ってズルをしてほしくないというのはわかります。でも、生成AIの教育におけるインパクトというのはそういうものではないんです。レポートを書かせるとかではなくて、自分が興味を持ったものを深く知るために、生成AIをどれだけ使いこなせるかだと思うんです。レポートの課題について、ChatGPTに先行研究を聞くとか、ブレストするとか、そういう使い方をすると研究対象をより深く知ることができます。

例えば、子どもの頃に「なぜ? なぜ?」と聞いて、親を困らせた経験ってありますよね?親は答えられることは答えてくれるけど、だんだん難しくなると面倒くさくなって答えてくれなくなる。でも、「なぜ?」と聞くのが何よりも大事で、深掘りしていくと理解がどんどん進んでいくんです。
今の画一的な教育ではなくて、興味に合わせていくらでも深掘りすることが、生成AIによって今後は可能になります。それぞれの人が、興味を持つポイントに合わせて、教育を提供できるようになるのです。これによって、現行の画一的な教育では、才能を開花させられなかった人が、活躍できるようになります。それこそが、教育における大きなインパクトだと思っています。すごく大事な質問でしたね。

(中学2年生/女子)
中学に入ってから研究を始めています。その研究は生物分野や環境科学など多岐の分野に渡っていて、最近は情報分野でも進んでいます。
松尾先生は、今後、重要になってくる研究というのは、どういう分野になると思いますか?

(松尾先生)
これまであまり言ってこなかったのですが、結局、生物学とか環境科学などの分野も情報工学やAIを使って最新の研究が進められています。イノベーションが起こっているところは、ほぼすべてそうです。例えば、EV(電気自動車)も後ろ側にAIとか情報テクノロジーがあるから成立しています。コロナのワクチンができたのも、後ろでAIとか情報テクノロジーを使っているんですよね。だから、こんなに短期間でワクチンができた。

表面上では、いろいろなイノベーションが起きているように見えるけれども、私からしたらすべてAIの貢献だと思っています。すべて、プログラミングとそのほかの分野の組み合わせで、新しいことが生まれている。逆にそうじゃないと、こんなにいろんなことが急に起きるわけない。

皆さんがどの学問分野を選ぶにしても、AIやプログラミングを学んだ上で、専門分野に進んでもらえるといいと思います。チャンスがあるし、若い人が活躍できる余地があると思います。

講演参加者

松尾先生、貴重なお話をありがとうございました!

プロフィール

松尾豊教授

東京大学 大学院工学系研究科/人工物工学研究センター
2002年東京大学大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年より東京大学大学院工学系研究科准教授。2019年より同教授。専門分野は、人工知能、深層学習、ウェブマイニング。2020-2022年、人工知能学会理事。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。2019年よりソフトバンクグループ社外取締役。2021年より新しい資本主義実現会議 有識者構成員。

記事提供

Life is Tech ! (ライフイズテック)

中学生・高校生〜社会人向けのIT・プログラミング教育サービス。2010年にスタートし、これまで100万人以上にデジタルを活用したイノベーション教育を届けている。
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