データサイエンス百景

未来の解像度を上げるデータサイエンス系大学進学情報サイト

【講演】生成AI時代に大事な力とは? 【講演】生成AI時代に大事な力とは?

【講演】生成AI時代に大事な力とは?

株式会社PKSHA Technology 代表取締役 上野山 勝也 さん
上野山 勝也 さん
株式会社PKSHA Technology
代表取締役

プログラミングスクールLife is Tech ! (ライフイズテック)が2023年夏に開催した中高生向け講演会「未来を切り拓くAIの授業」。今回は、株式会社PKSHA Technology 代表取締役 上野山勝也さんがゲストです。講演後の質疑応答まで大いに盛り上がった講演で、上野山さんが語った「生成AI時代に大事な力」とは?

「Software is eating the world」の時代

2023年現在、ものすごいスピードで技術が変化しています。
「Software is eating the world.」という言葉があるのですが、これは「ソフトウェアが世界を飲み込み始めている」という意味です。

私は、このことを「ソフトウェアと人が共進化し始める」と言ってます。例えば、皆さん、スマホを1日何時間使ってますか?統計を見ると、大学生は1日6時間とかスマホを使ってるんです。冷静に6時間スマホ触っているってどういう感じか考えると、特殊なゴーグルを1日6時間付けているようなものです。
つまり、ソフトウェアによって、人の脳や認識の仕方も変わるということです。

ソフトウェアをデザインすることが、社会をどうデザインするかという“コインの裏表”のような状態になり始めている。つまり、世の中を見るゴーグルの内側をデザインすることは、あらゆる社会の仕組み、未来における仕組みをデザインする手法になっていくのです。こういう「共進化」が始まっている時代であることを、ぜひ頭に入れて置いてほしいと思います。

「人とソフトウエアの共進化」とは?
講演風景1

世界と相互作用しながら、自分の中の「ワールドモデル」を育てていく

ソフトウェアと人の共進化についてお話ししたところで、今日は「複雑性が高い時代をどう生きていくべきか」ということをメインに話します。

僕は大学生の頃に明確に人生が変わりました。知らない人がいっぱいいるところに自由に行けたり、違うコミュニティに入ったりして、いろいろな刺激を受けて、徐々に自分自身が変わっていくことを感じたからなんです。
今回初めてキャンプに参加した人も、今までの日常と明らかに変わったという体感があると思うんですね。これについて、AIのメタファー(比喩)で、こういう話をすることが多いのですが、ちょっと聞いてください。

AIのエージェント(代替物)であるロボットを育てるときって、まずは物理的な環境を認識させないといけないんです。
例えば、AIBOみたいなロボットは、自律的に動きながら、この部屋がどういう形をしているかということを自身で学習していくんですよね。いわゆる「機械学習」の一種で、AIBOのソフトウェアの中に、「ワールドモデル」という仮想空間があって、そこで(ソフトウェアが)この部屋がどういう形をしているかを理解する。
ここで初めて、AIBOは自分じゃない「他者」と「環境」を認識するわけです。

これを人間に置き換えたとします。すると、ずっと自分の部屋と学校だけの世界にいたので、ちょっと外に出た瞬間に「いつもと違う!」ってなるじゃないですか。
これが、大学時代の私だったんです。中高時代はクラスとか家しかなかった。大学に入って、いろいろな刺激を受けて、徐々に自分自身が変わっていくことを感じたわけです。
だから、「ワールドモデル」を育てていくのが超重要です。これはAIも人間も一緒。

「ワールドモデル」を育てるためには、世界と相互作用しないといけない。部屋にこもっていてはダメです。悩んでも自分の脳内より、世界の方が複雑なんだから、じっとしていても「ワールドモデル」は育たない。

講演風景2

コミュニティに横断的に入ろう

なので、不確実な時代をどう生きるかということの一つは、やっぱりいろいろな環境に自分の身を投げ込んで、そこで議論をしたり、対話をしたりしながら、世界がどういう形をしているのかを体得していくということが超重要になると思っています。

例えば、中学・高校なら1組、2組、3組というクラスに分かれている。自分が1組だったとき、1組の人としかしゃべらないんじゃなくて、2組、3組にも突っ込んでいく。隣のクラスに行ってみると、なんか空気違うんだなってわかるじゃないですか。これが超重要なんです。学校じゃなくても、地域コミュニティだったり、あるいは外国人コミュニティもある。そういうコミュニティに横断的に入っていくのが価値になります。

なぜかというと、1組の人しか知らなかったら、そういう「ワールドモデル」で脳は育ってしまうからです。大きな世界からすると、それはめちゃくちゃ偏っていることなのかもしれない。この不確実な時代においては、どんどん越境していくことがすごい重要だと思います。

インターネットやAIは、人と人との違いを価値に転換する技術

私は20代の頃、何をやりたいのかわからなくて越境しまくっていたんですよ。社会に出てからも20代は、日本でも韓国でもサンフランシスコでも働いたし、職種的にもかなりいろんなことをやりました。

越境してよかったと思う忘れられない体験があります。
世界中から集まった初対面の20名近くのエンジニアらと、サンフランシスコのアップルストアの1階に集まり、キャリアとは何か、働くとは何か……と3日3晩、いろいろ議論しました。面白かったのは、全員違うことを言ってるんです(笑)。でも、全員超楽しそうだった。

よく考えるとすべてのクリエーションにおいて、人との違いっていうのは価値なんです。みんな同じスキルだったら何も生まれないじゃないですか。新しい何かを創ることとは、何かしらの方向にズレているから実現するんです。

今後、ソフトウェアと人が共進化すると、個人のデータが「見える化」されて、自分が何の仕事に向いているかとかがわかる。逆に、自分が欠点だと思っていることが、空間を超えると価値になったりする可能性も認識できるようになるわけです。

例えば、皆さんは日本語を話せることは、この空間だと価値が高いと思われない。でも、海外の日本語を学んでいる人が集まっている空間に行ったらいきなりスターになれる。でも自分変わってないですよね。つまり、価値は環境で決まる。
インターネットとかAIって、基本的には人間をエンパワーする(力づける)技術なんですね。私は、人と人との違いを価値に転換する技術だとも思っています。インターネットとかソフトウェアには、そういう見えない価値を顕在化させる力があるのです。

講演風景3

「自分経営のすすめ」

経営とか起業と言われてもピンと来ない人が多いと思います。自分とは関係ないと思っている人も多いと思います。でも、本当は皆さん、とっくに起業しているんです。私は10年前に会社をつくったのですが、起業してからの悩みというのは、実は中高生のときの「自分は将来、何をするんだろう?」という悩みに似てるんですよね。
つまり、すでに「ひとり会社」をやっているんです。起業した後の悩みと思春期の悩みは、実は一緒なんです。例えば、起業するとまわりから、「この会社は、なんのためにあるのですか?」などと言われるんです。チームの人数もお金も有限です。
これもよく考えてみると、思春期の問いとほとんど同じで、そもそも自分は何のために生きているのだろうとか、社会で何をやればいいんだろうとか、でも時間有限だしなとか、自分よりできるやつは隣にいるよなとか……。全部一緒なんです。

「自分経営」のなかで重要になるのが、社会とのWin-Winをつくる取り組みをどうやるかということです。これを「ファウンダーマーケットフィット」と言いますが、やらないとおそらく幸福になれないでしょう。自分が何かしらを社会に提供して、喜んでもらうサイクルがない限り、人間は幸福になるようにプログラムされていない。だから、社会に対してのWin-Winのポイントを探索して、発見しないといけないんです。

働いて一応給料をもらえているんだけど、自分のやりたいことじゃないのかもというのはもったいない。自分がやりたいことと社会の接点を見つけて、それによって価値が生まれることで、お金をもらえるなら幸せですよね。

同時に、これを探索するプロセス自体を面白がるということも大切です。これからの時代、「未知を面白がる力」が大事だと思っています。今日皆さんがチャレンジしているプログラミングなども始めは難しいかもしれませんが、やってみて動かないとか、動いたとか、探索するプロセス自体を楽しみ続けられるかどうかが、結構重要なポイントになります。

講演風景4

生成AIの時代に大事な力とは

AI時代、何が大事なのかとよく聞かれます。
受験勉強で覚えたことはすぐ忘れるけど、友達と中高時代いろいろやって、笑った記憶って、身体が覚えてますよね? そういう風にできてるんです、人間は。頭で頑張って覚えてもすぐ忘れるんですけど、身体的に感じた体験は記憶されていくんです。

例えばパソコンが出現して、世の中はすごく変わりましたが、それでもキーボードをブラインドタッチできる人って、実は全人口の半分もいないわけです。なので、コンピュータが広がってもまだ人間がソフトウェアに合わせているんです。
そこに生成AIが登場したわけです。言葉をしゃべれない人って、ほとんどいないじゃないですか。だからある種、「人間のようなソフトウェア」とリアルな人間が相互作用するようになったんです。これがすごい変化なんです。
今後より重要になってくるというのは、心を揺らす体験をして、身体で記憶して、自分の中に「ワールドモデル」を育てていくことです。そのためには、「共進化」していくことが重要になってくるので、ぜひ世界といろいろ相互作用しながら、自分が本当に面白いと思えるものを発見してほしいと思います。

質疑応答

Q
海外では、AIを使って「次、この人が犯罪者になる」的なことを分析して、その場所でこのあと起きる犯罪をかなり高い確率で割り出している事例があると聞きます。
それ見て、私はちょっと怖いなって思いました。AIを取り入れて発展する分野も多いと思いますが、ここはAIを発展させない方がいいと思う分野はありますか?

A
すごく大事なポイントです。技術は手段であるべきで、何でもかんでもAIで改革しようとは思ってはいけないと思います。
大きな課題もないのに、誰かがやりがいを持ってやっている仕事を自動化するソフトウェアは必要ないですよね。どういうソフトウェアが未来に必要なのかということを問い続けて、世の中のちょっと壊れている部分を探して、それを直すためのAIを実装するべきです。

例えば、いま私の会社では、AIを使ったクレジットカードの不正検知をやっています。クレジットカードが勝手に使われる事件があります。年々、被害額が伸びているんです。我々は、カード決済のデータをAIで読み込んで、リアルタイムで「これは犯罪だ」と検知して、止めたりすることをやっています。この事業は、日本でのシェアが1位で二桁兆円の市場の裏で日々AIが不正を検知しています。

クレジットカードの不正検知は今まで人間がやっていましたが、不正検知は人間の身体に合う時間軸で認識できません。0.02秒ほどで処理されるため人間には見えない。でもAIには見えるんです。人間がルール定義できるけれど、身体的に認識できないことなどはAIに任せる意味がありますよね。

一方で環境問題は、ロングスパンの典型です。環境問題が難しいのは、課題のスパンが人間の一生よりも長いこと。大事なのはわかるけれど、明日のごはんのほうが大事となりがちです。だから、そういう遅い時間軸のパターン研究は、実はAIがやるべきかもしれない。

人間が人間であるがゆえに、壊れている問題点がたくさんあるはずです。それをソフトウェアやAIだからこそ解決できることもあります。この社会の問題をソフトウェアで解決する方法を考え始めると、超面白くなってくると思います。

Q
将来の夢は何ですか?って言われて、答えられない自分がいます。
それで今回、ライフイズテックのスクールにも通ってみたのですが、今後、やりたいことを見つけるためにどういうことを考えて、行動していけばいいでしょうか?

A
非常に大事な問いだと思います。私も大学2年ぐらいのときにぜんぜん行動できていない自分に気づく体験があったんです。そこで、一度考えるのをやめたことがあるんです。自分の中で、「思った瞬間にやる」というルールで決めて、一度生活してみたんです。そうしたら、それが癖になって、だんだん生活が面白くなっていきましたね。

「好き嫌いするな」とよく言われると思いますが、むしろ「好き」と「嫌い」を認識していくことが重要です。「好き嫌いするな」は食べ物に対しては、いいと思うんです。でも、仕事などに関しては、自分の「好き」と「嫌い」がわかることが大事なんです。

そのためには試しにやってみるしかない。いろいろなことを試しながら、どんどん経験を集めていく。興味あることをどんどんやっていくとそれが無意識でもできるようになる。行動する頭になると、むしろ、何もしていないことに違和感が出始める。初動は大変なんですけど、一定のリズムができるとそれが普通になってくるので、まずは行動してみてください。

講演参加者

上野山さん、貴重なお話をありがとうございました!

プロフィール

上野山 勝也 氏(株式会社PKSHA Technology代表取締役)

未来のソフトウエアの研究開発と社会実装をライフワークとし、人と共進化/対話をする多様なAIアシスタントを創業以来累計約2600社に導入。
ボストン コンサルティング グループ、グリー・インターナショナルを経て、東京大学松尾研究室にて博士(機械学習)取得後、2012年 PKSHA Technologyを創業。
内閣官房デジタル市場競争会議構成員、経済産業省AI原則の実践の在り方に関する検討会委員等に従事し、社会におけるAI/ソフトウエアの在り方を検討。

記事提供

Life is Tech ! (ライフイズテック)

中学生・高校生〜社会人向けのIT・プログラミング教育サービス。2010年にスタートし、これまで100万人以上にデジタルを活用したイノベーション教育を届けている。
詳細はこちら
Life is Tech ! (ライフイズテック)公式note

こちらの記事もチェック

この記事に紐づくタグ

TOP