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脳とAIが融合するブレイン・マシン・インターフェースの現在地 脳とAIが融合するブレイン・マシン・インターフェースの現在地

脳とAIが融合するブレイン・マシン・インターフェースの現在地

脳とAIが融合するブレイン・マシン・インターフェースの現在地
紺野 大地 先生
KONNO Daichi
東京大学
医学部附属病院
脳とAIがつながる未来が現実になろうとしている。これを実現する技術はBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)と呼ばれている。BMIにはどんな手法があり、何をもたらすのだろうか? 「脳AI融合」に関する著書もある東京大学医学部附属病院の紺野大地先生に話を聞いた。

脳活動を読み取ること。脳に情報を書き込むこと

脳に埋め込んだ電極にネット回線をつなげるとその人が考えていることがモニター上で映像化される̶そんなSF小説のような未来がもうすぐ訪れようとしている。これを実現する技術として期待されるのが、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)だ。

「BMIとは、簡単に言うと脳と機械をつなぐ技術です。例えば、念じるだけでロボットアームを動かすような技術の基盤を支えるものです。これは広義にはBrainTech(ブレインテック)の一領域で、私は老年病科の医師であり、脳神経科学の研究者として、BMIの産業応用を目指しています」

そう語るのは、東京大学医学部附属病院の医師で研究者の紺野大地先生だ。
紺野先生によるとBMIの主な手法は2つあるという。①脳活動を読み取る方法、②脳に情報を書き込む方法だ。

BMIの主な手法は2つあるという。①脳活動を読み取る方法、②脳に情報を書き込む方法だ。

①では、脳活動を人工知能で読み取ることで、その人が考えていることを直接文章に翻訳する技術がすでに実現している。これは、アメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループによる研究で、皮質脳波計というシート状の電極を被験者の脳に埋め込み、予め用意した文章とそれを音読した際の脳波の関係をAIに学習させたのだという。

②では、視覚を司る脳の「視覚野」を電気で刺激することで、目を介さずに光を「見る」ことができる技術が開発されている。これを応用して、文字を描くように脳に埋め込まれたシート状の脳波計を刺激することで、後天的に視力を失った被験者に文字を認識させる実験をアメリカ・ベイラー医科大学の研究チームが成功させている。

「①の分野では、日本でも京都大学のチームが『夢を映像化する』ブレイン・デコーディングという大変ユニークな研究に取り組んでいます。また、最近はこの分野に企業も参入してきました。有名なのは、電気自動車メーカーとして知られるテスラを率いるイーロン・マスクが設立したNeuralinkという会社です。すでに2021年に同社が開発したデバイスを脳に埋め込んだサルが、脳活動だけで、手足を使わずにピンポンゲームをするデモ画像が公開され、世界に衝撃を与えています」

脳とコンピュータをつなぐBMIで人間は能力の限界を超えられる!?

脳研究の成果を認知症やうつ病の治療に役立てたい

イーロン・マスクによれば、「将来的には、誰もが脳に電極を埋め込む時代が来るだろう」とのこと。そこで気になるのが、BMIの手法である。前述した研究の事例はいずれも頭蓋骨に穴を開けて電極や脳波計を埋め込む「侵襲的手法」と呼ばれる方法であり、物理的に身体を傷つけることになる。一方で、頭蓋骨に穴を開けなくても頭皮の上から脳波を測ることもできる。こちらは、「非侵襲的手法」と呼ばれるもので、身体への負担はないものの精度の面では課題が残るという。現状、「侵襲的手法」は脳機能障害などの患者を対象にした実験に限られ、健康な人の頭蓋骨に穴を開けて脳波計を埋め込むような時代が来るかどうかは未知数だ。

紺野先生は現在、東京大学医学部附属病院の老年病科で、主に認知症などの治療に従事しながら、脳研究者として知られる東京大学池谷裕二教授率いる「脳AI融合プロジェクト」にも参加している。そんな紺野先生に、脳研究に携わる上での目標を聞いた。

「やはり医師として、脳研究の成果を認知症やうつ病の治療に役立てたいという想いは、大きなモチベーションになっています。また、BMIの技術を用いて、脳機能障害で身体に麻痺が残る患者さんの身体機能を拡張するような技術開発にも興味があります。人間はまだまだ脳のポテンシャルを十分に使いこなせていません。脳とAIの融合によって、脳のさらなる可能性が見えてくるかもしれません。私の著書などによって、脳とAIの融合に関する研究に興味を持ってくれる高校生がひとりでも増えたらうれしいですね」

ERATO「池谷脳AI融合プロジェクト」とは?

脳とAIを連動させた新しい学術領域を創出する

紺野先生も参加している東京大学大学院薬学研究科池谷裕二教授率いるERATO「池谷脳AI融合プロジェクト」では、脳とAIの新たな共生様式を模索している。目標は、脳とAIを連動させた新しい学術領域「知能エンジニアリング」の創出だ。人々の命を救う、病気を治す、障害をサポートするなど、実際に役立つ医学研究を念頭に置きながら、脳とAIの融合によって、人類の幸福度と生産効率の向上を共存させる未来を目指している。この研究の4つのアプローチは下図の通り。

ERATO「池谷脳AI融合プロジェクト」

ERATO「池谷脳AI融合プロジェクト」

※ERATO=科学技術振興機構(JST)による戦略的創造研究推進事業

プロフィール

紺野 大地 先生
東京大学 医学部附属病院

1991年、山形県生まれ。2015年、東京大学医学部卒業。2022年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学医学部附属病院老年病科医師。現在は、医師として働きつつ、東京大学の池谷裕二研究室と松尾豊研究室で脳や人工知能の基礎研究に従事している。

CHECK!

『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』
(紺野大地著/池谷裕二著/講談社刊)

『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』

記事提供

「研究」で選ぶ大学進学情報サイト『F-Lab.(エフラボ)』

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