【慶應義塾大学SFC】最新AI技術で世界の交通インフラの課題に挑む!

環境情報学部 2年
情報系/データサイエンス系大学・学部に通う先輩は、どのような学びに取り組んでいるの? 今回は慶應義塾大学環境情報学部2年の亀井亮磨さんに、情報系学部を選んだ理由、企業との共同研究として取り組む画像認識AIの開発、そして将来挑戦したい社会課題について聞いた。
ジャカルタで見た「カオスな渋滞」がITと交通への関心の原点
——慶應義塾大学環境情報学部を進学先に決めたきっかけを教えてください。
もともと慶應義塾湘南藤沢(SFC)中等部・高等部に通っていたので、内部進学で慶應義塾大学の学部をある程度、選べる状況でした。その中で環境情報学部を選んだのは、情報系やITの分野にずっと興味があったからです。
きっかけをたどると、子どもの頃に親の駐在に同行して、インドネシアで生活していた経験が大きいですね。小学4〜5年と中学2年の合計3年間ほどをインドネシアの首都ジャカルタで過ごしました。通っていたインターナショナルスクールが1人1台パソコンを与えられる環境で、そこで情報技術に興味を持ちました。

印象に残っているのが、現地の交通事情です。当時、公共交通機関が十分に機能していなかったジャカルタは完全な車社会で、渋滞がとにかくカオス……。奇数・偶数などナンバーによって入れる道路が変わったり、一定人数以上乗っていないと取り締まりを受けるので、路上で“相乗り要員”を待つ人がいたり……。東京も渋滞はありますが、レベルが違います。逆に、日本の交通システムは、すごく進んでいるんだなと実感しました。そこから渋滞そのものにも興味を持って、中学2年生の頃にはパソコンを使って、簡単な渋滞シミュレーションをしていました。渋滞は、ほんのちょっとしたブレーキから生まれる。そういったところに面白さを感じていましたね。
環境情報学部を選んだ理由は、ITへの興味に加えて、学び方への期待もありました。というのも教授の話をひたすら聞く……という一方通行の授業スタイルがあまり得意ではなくて……。それよりもやる気のある学生が自主的に学んでいける自由な環境に魅力を感じました。また、最初に学びの分野を絞らなくていいのも魅力でした。例えば、経済学部なら4年間その分野を続ける覚悟が要りますが、自分はいろいろな分野を試して、本当に興味のある領域を探したかった。情報系のほかに、起業や都市計画にも興味があったので、“何でもOK”というSFCの自由さが、自分に合っていると思いました。
——高校時代はプログラミングやデータサイエンスを学んでいましたか?
プログラミングの大会に出るような本格派ではありませんでしたが、パソコンでコードを書ける程度には触っていました。例えば、Pythonを使ってスクレイピングをしてみたり、寝台列車が好きだったので、寝台列車の混雑情報を自動で収集するシステムをつくったり……。Webサイトを制作することもできましたし、ちょっとしたプログラムなら組める、というくらいまではやっていました。趣味の延長ではありますが、Webサービスに近いものを自分でつくれるところまでは到達していた感じです。
1年の秋から企業との共同研究に挑戦!
走行画像から道路を見分けるAIモデルを開発
——入学後はどのようにプログラミングやデータサイエンスを学んでいきましたか?
慶應SFCには、1年生から研究室に所属できる制度があります。必須ではなく、3年生くらいで入る人もいて、タイミングは自分で選べます。私は、最初から専門的な学びに挑戦したかったので、1年次から研究室に所属しました。
数少ない必修科目のうち、プログラミングに直結するものだと「情報基礎1」「情報基礎2」があります。「情報基礎1」は春にクラス単位で受ける科目で、簡単なWebサイトのつくり方や基礎的な演習に取り組みました。授業で理論を学びつつ、研究室では実際に手を動かす。この講義と実践を行き来しながら学べたのは、自分にとってはとてもスムーズでした。

——大学で面白かった授業・印象に残っている授業はありますか?
「Web情報システム構成法」という授業が記憶に残っています。サーバーやブラウザといった基礎から入って、HTMLやCSSの構文・特性、JavaScriptまで、Web制作の基本をひと通り扱う内容です。プログラミング言語って名前自体は聞いたことがあっても互いにどう関係しているか、どんな違いがあるかは知らなかったりしますよね。この授業での実践を通して、体系的に理解することができました。また、この科目は周期的に「GIGAプログラム」という科目群として開講され、授業が英語で行われます。秋入学の留学生や帰国生も多く、そうした学生に混ざって受講できるのも慶應SFCならではだと思います。
——所属している研究室では、どのような研究をしていますか?
現在は、植原啓介合同研究室:インターネット自動車研究グループ(ICAR)に所属しています。交通とIT、あるいは通信をかけ合わせた領域を探究するグループです。その中で、首都高技術株式会社との共同研究を先輩から引き継いでいます。1年の秋から企業との研究に関わらせてもらっていて、こういうチャンスがあるのは慶應SFCのいいところだなと感じます。
取り組んでいるのは、車載カメラやスマホなどのデバイスで撮影した走行画像から、走行中の道路の種別を識別するAIモデルの開発です。将来的には自動運転などへの応用可能性があります。分野としては画像認識で、交通×ITという掛け合わせは一般に「ITS(インテリジェント・トランスポート・システムズ/高度道路交通システム)」と呼ばれます。
技術的には、AIをゼロから発明するわけではなく、既存の画像認識モデルをファインチューニング(追加学習)して精度を高めていくイメージです。首都高のさまざまな場面の画像や一般道の画像を使ってモデルを学習させ、その一部を検証用に回して認識精度を確かめています。シンポジウムでの発表に向けて、いまは論文をまとめているところです。
——研究の面白さはどのようなところにあると感じますか?
いちばん大きいのは、企業との共同研究を通して、社会でまだ解決されていないリアルな課題に、学部生のうちから向き合えることです。企業から大学での解決が期待されて相談された課題なので、手応えがまるで違います。研究って、そもそも最初のお題を探すのがいちばん大変だと思うんです。その最初のテーマをもらえたおかげで、「次はこれをやりたい」という自分なりの問いも見えてきます。

もうひとつは、実際のデータに触れられることです。実世界のデータは、必ずしも整理されていなくて、ある種カオスなんです。そのデータをどう処理するかを自分の手を動かしながら学べる。本や講義で理論を聞くだけでは、本当の意味での理解には届かないと感じています。さらに、研究から入ったからこそ、「何のためにこの知識が要るのか」をわかった上で、目的意識を持って必要なスキルを学べる。これは、理想的な学び方だと思います。
次にやりたいと思っているのは、「ジオゲッサー(GeoGuessr)」というゲームにヒントを得た研究です。世界中のストリートビューに飛ばされて場所を当てるゲームなのですが、プロの人間は電柱の形や標識、道路の特徴などから、画像だけで場所をかなり正確に言い当てられます。これを先ほどの研究においても実現できるのではないかと考えています。技術的には「Visual Place Recognition(視覚的場所認識)」と呼ばれる分野です。例えば、首都高のあちこちの画像を学習させておけば、新しい1枚の画像から「ここは芝公園のあたり」とわかる。事故や事件の写真から場所を特定するなど、応用の幅も広そうだと感じています。
世界に誇れる日本の交通システムを利用して、
海外の都市インフラの課題を解決する!
——大学での学びを活かして、将来挑戦したいことがあれば教えてください。
現在は、スペイン語の習得に力を入れています。「インテンシブ4」という週にみっちり4コマ、合計6時間開講される語学科目を履修しています。海外生活で、英語は一定レベルまでできるようになったので、次はスペイン語という感じですね。

去年の夏には、大学のスペイン語研修プログラムを利用して、南米エクアドルで1か月間ホームステイをしました。現地で活躍する日本人の方と話す機会などもあり、非常に有意義な経験になりました。エクアドルでも交通はやはりカオスで……バスは扉が開いたまま走り、道路はバイクだらけで、渋滞も日常茶飯事……そういう光景を目の当たりにして、学んだ知識を活かして、海外の課題に挑みたいという思いが強くなりました。

日本の交通システムや技術は、世界に誇れるものだと思っています。なので、いつか語学を活かして海外に出て、現地の交通インフラの課題解決に関わりたい。対象は車に限らず、鉄道も含めた交通分野全体で考えています。AIがいくら進化しても、リアルな世界にはまだまだ課題がある。だからこそ、日本の交通技術を世界に届けることが、これからのチャンスになるんじゃないかと思っています。

実は今、2つ目の研究室にも所属していて、今年の春からは組織論も学んでいます。情報系を学んでいると「チーム開発の情報共有が難しい」「DXが現場に浸透しない」といった課題にぶつかります。それを情報分野の外から考え直す必要があると思ったのです。エンジニアもコードが書けるだけではだめで、リーダーシップがどんどん求められる時代です。核となる技術がある上で複数の分野を横断できる人、1つの学問にとどまらない人が、これからの時代は強いと思っています。
——情報系/データサイエンス系の進路を目指す受験生に向けてメッセージをお願いします。
まず、情報系の学びに興味があるなら、毎年10月に開催される慶應SFCの「ORF(オープンリサーチフォーラム)」にぜひ足を運んでほしいです。研究室が成果を発表するオープンキャンパスのようなイベントで、研究の展示やディスカッションのイベントもあります。私自身、高校で進路に迷っていた頃に行って、研究室を間近で見て「面白そうだ」と思えたことが、進路を決める後押しになりました。
もうひとつは、自分の興味と向き合ってみること。大学に入ってから変わってもいいので、「大学でどんなことをしたいか」を一度イメージしておくと、入学後に自分のやりたいことへ没頭しやすくなります。全部が自由だと逆に迷ってしまうので、都市交通でもビジネスでも脳科学でもいいので、大きな方向性だけでも見つけておくといいと思います。
そして、AI時代だからこそ言いたいのは、「まず何かつくってみよう!」ということ。スマホアプリでもWebサービスでも、一度自分で手を動かして調べてみると、見えてくるものがあります。生成AIがあるおかげで、最初の一歩のハードルはどんどん下がっています。踏み出さない手はありません。私がメンターを務めている「Life is Tech !」のような中高生向けのプログラミング講座を活用するのもいいと思います。何ごともやってみないとわからないので、物怖じせず、まず行動してみてください!

取材協力
Life is Tech ! (ライフイズテック)
中学生・高校生〜社会人向けのIT・プログラミング教育サービス。2010年にスタートし、これまで100万人以上にデジタルを活用したイノベーション教育を届けている。
詳細はこちら
Life is Tech ! (ライフイズテック)
Text &Photo by 丸茂健一(minimal)
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