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【大阪大学石黒研究室】人間と豊かに関わる知能ロボットを創成する 【大阪大学石黒研究室】人間と豊かに関わる知能ロボットを創成する

【大阪大学石黒研究室】人間と豊かに関わる知能ロボットを創成する

内田 貴久 助教
内田 貴久 助教
UCHIDA Takahisa
大阪大学大学院
基礎工学研究科
石黒研究室 所属
専門:知能情報学/対話ロボット

AI・データサイエンス系大学・学部の研究室では、どのような研究が行われている? 本人そっくりのアンドロイドを使ったユニークな研究で知られる大阪大学石黒研究室。「人とロボットの共生」をテーマにした幅広い研究が行われている。同研究室出身で、現在は助教を務める内田貴久先生に最新の研究について聞いた。

目指すのは「人とロボットの共生」

目指すのは「人とロボットの共生」

「マツコロイド」と聞いてピンとくる人も多いだろう。タレントのマツコ・デラックスさんの番組でたびたび登場した本人そっくりのアンドロイド。これを制作したのが、大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻 知能ロボット学研究室(通称:石黒研究室)の石黒浩教授だ。

「目指すのは、『人とロボットの共生』です。石黒研究室では、未来の人間社会を支える知的システムの実現を目指して、センサ工学、ロボット工学、人工知能、認知科学を基礎とした知的情報基盤、知能ロボット情報基盤の研究開発を行っています。これらに基づき、人間と豊かに関わる人間型ロボットを創成する幅広い研究に取り組んでいます」

そう語るのは、同研究室で助教を務める内田貴久先生だ。ここでいう「知的情報基盤」とは、多種のセンサからなるネットワークを用いて、そこで活動する人間やロボットの知覚能力を補い、その活動を支援する情報基盤のこと。「知能ロボット情報基盤」とは、人間と直接相互作用することを通じて、ロボットの持つ多様なモダリティ(視覚、聴覚など知覚的な様式)や存在感を活かした情報交換を行う情報基盤のことを指す。

石黒研究室で手がけた数々のロボットたち
石黒研究室で手がけた数々のロボットたち

公式サイトを見るとよくわかるが、石黒研究室の研究テーマは実に多岐にわたる。石黒教授はもちろん、内田先生を含む多くの研究者が所属し、独自の研究を進めている。

石黒教授は、大阪大学以外にも株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)内に、「ATR石黒浩特別研究所」という研究拠点を持ち、独自の研究を進めているほか、自身が設立したAVITA株式会社でもアバターを活用したリモート接客サービスの開発などを行っている。
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大阪大学 知能ロボット学研究室(石黒研究室)

軸となるのは「遠隔操作型ロボット」と「自律型ロボット」

幅広い研究を行う石黒研究室だが、軸となるのは以下の2つのテーマだという。

  1. 遠隔操作型ロボット
  2. 自律型ロボット

まず、1.の遠隔操作型ロボットの代表となるのが、モデルとなる特定の人物に酷似したアンドロイド「ジェミノイド」の開発だ。石黒教授そっくりのジェミノイドのほか、前出の「マツコロイド」もこのカテゴリーになる。

石黒教授と教授そっくりのジェミノイド

「ジェミノイドは人間理解のための研究開発プラットフォームだと私たちは考えています。このユニークなアンドロイドを用いて、工学的、認知科学的、さらに脳科学的手法を用いたさまざまな研究課題の検証を行っています。また、ジェミノイドを遠隔操作し、アバターとして用いることで、対話者だけでなく、操作者に与える影響に関しても検証を行っています。人に酷似したアンドロイドがアバターとして、どのような社会的影響力を持ちうるか……さまざまな実験を通して、この問いを明らかにしようとしています」

もうひとつの軸となるのが、2.の「自律型ロボット」だ。こちらの代表となるのは、自律対話型アンドロイド「エリカ」だろう。エリカは、人間と自然に対話するアンドロイドの研究開発用プラットフォームだ。この研究では、特定の状況において対話できる機能、複数の人間と対話できる機能などを開発し、実社会において人間と親密に関わり、人間と共生できる自律型ロボットの実現を目指している。

自律対話型アンドロイド「エリカ」
自律対話型アンドロイド「エリカ」

「エリカは、音声認識を用いた対話だけでなく、身振り手振り、表情、視線、触れ合いなど、人間のように多様な情報伝達手段を用いて、人間と自然に対話することを目指しています。エリカには、ジェミノイドのような特定のモデルはおらず、CG合成でつくられています。また、音声に関しても完成度の高い技術が導入されています。この2つの研究領域は、決して独立しているわけではありません。互いの研究成果や実験データを共有して、それぞれの研究に役立てています。例えば、遠隔操作型ロボットの振る舞いに対するユーザーの反応を自律型ロボットの対話システムに役立てたりしています」

エリカは人間のような情報伝達手段を用いた人間との自然な対話を目指している

「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」

石黒研究室では、常に政府機関や一般企業との共同研究プロジェクトが複数進められている。なかでも現在、力を入れているのが、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の「ムーンショット型研究開発事業」に採択された「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」だ。これは、その名の通り、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放されたアバター共生社会を実現するための研究。高齢者や障がい者を含む誰もが、多数のアバターを用いて、身体的・認知的・知覚的能力を拡張しながら、常人を超えた能力でさまざまな活動に参加できる社会の実現を目指している。

実世界の仮想化の例

「これは、人間の能力の拡張を目的とする研究です。ひとりの人間がいくつものアバターを操って活躍したり、逆にさまざまな特性を持つ複数の人が、ひとつのアバターを共同で扱うことで新たな価値を生み出したりする可能性を探っています。特色は『実世界の仮想化』という点です。バーチャル空間だけでなく、実世界でも遠隔操作型ロボットのようなアバターが活躍できる社会の実現を模索しています」

人間関係の構築を推進するロボットを開発する

今回、取材に対応してくれた内田先生の研究テーマは、「対話型ロボットの認知モデル」。AI(人工知能)を用いた自律対話の応用研究だという。どのような研究なのだろうか?

「話題のChatGPTもかなり高度なレベルの対話ができますが、実体としては、言葉を統計的にうまくつなぎ合わせているに過ぎません。これに対して、私は対話型ロボットを使って、対話で重要だと考えられる『相手を理解する』という課題に挑んでいます。具体的には、対話の中で出てくる発話などから相手の選好(せんこう)を推定し、この人はこういう好みを持っているらしい、こういう価値観を大事にしているらしいというデータを集めます。そして、対話から収集したデータを用いて、『人間をモデル化』するのです」

人間のモデル化

「モデル化」とは、数値や数式によって現象を「可視化(見える化)」すること。つまり、「人間の内面を可視化」する研究を意味する。例えば、Amazonのリコメンド(推薦)システムもユーザーの好みを可視化し、出力したものと考えていいだろう。ポイントとなるのは、「選好モデル」というキーワードだ。対話中におけるその人の発話などから嗜好を割り出し、相手が好みそうな受け答えをロボットがするようにプログラムを改善していくことも可能になる。

ChatGPTのようにインターネット上のテキストを解析するのではなく、リアルなロボットが実世界の対話をベースに「人間のモデル化」を行う点も独自性が強い。過去には、大型ショッピングモールに対話型ロボットを設置し、通行人と自由に対話してもらい、そこで取得した対話データをもとにその施設や周辺エリアを利用する人々の「選好」を割り出すというユニークな実験も行っている。

一方で、どうしたら人間がロボットとの対話を信頼したり、面白いと感じたりするかを可視化する研究も行っている。例えば、独り言をいうロボットがいたら人間はどのような反応をするのかを実験で検証したりもする。こちらは、「ロボットのモデル化」にあたる研究だ。

ロボットのモデル化

「『人間のモデル化』、『ロボットのモデル化』の研究で取得したデータを融合させて、『対話型ロボットの認知モデル』をアップデートしていくわけです。AIの深層学習、認知科学、脳科学など幅広い知識を融合した研究です。ここで実現したい目標のひとつが人間関係の構築を推進するロボットの開発です。例えば、小学校のクラスに対話型ロボットを配置して、子どもたちと自由に対話させるなかで、そのロボットが子どもたちの選好を理解して、『あの子と話したらきっと気が合うよ』なんてアドバイスできたら面白いと思いませんか?」

人間関係の構築を推進するロボットの開発

これは、ある意味での「ドラえもん」の実現だと考えてもいい。のび太はドラえもんを介して、ジャイアンやスネ夫、しずかちゃんとの関係を築いていく。ロボットがいる世界、いない世界で、人間関係が変わる……。内田先生が取り組む「対話型ロボットの認知モデル」の研究は、「人間のモデル化」を超え、「人間関係のモデル化」を実現するのかもしれない。

人間関係のモデル化

根底にあるのは「人間とは何か」という本質的な問い

石黒研究室の幅広い研究テーマの根底にあるのは、「人間とは何か」という本質的な問いだ。工学的にロボットの性能を向上させることだけが目的なのではなく、遠隔操作型ロボット、自律型ロボットの研究を通して、「人とは?」「知能とは?」と繰り返して問い直しているのだ。

研究室には、AIやロボティクスに携わる研究者のほか、哲学、心理学、認知科学などの専門家も在籍している。さらに、アジアやアメリカ、ヨーロッパなど海外からの留学生も集まり、まさに多様性を活かした議論が展開されているという。

「2025年の『大阪・関西万博』で、『いのちの未来』と題した50年後の社会といのちの在り方をテーマにしたパビリオンを石黒先生がプロデュースします。石黒研究室で開発した技術が多数導入される予定です!」

石黒浩プロデュース「いのちの未来」(大阪・関西万博)
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石黒浩プロデュース「いのちの未来」(大阪・関西万博)

プロフィール

内田貴久
大阪大学大学院基礎工学研究科 助教

大阪大学基礎工学部システム科学科卒業後、博士前期・後期課程も石黒研究室で研究を続ける。博士(工学)。株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)深層インタラクション総合研究所 石黒浩特別研究所 連携研究員を兼任。専門は知能情報学、対話ロボット。

研究室の詳細

大阪大学 知能ロボット学研究室(石黒研究室)

知能ロボティクス研究の第一人者・石黒浩教授率いる研究室。未来の人間社会を支える知的システムの実現を目指し、センサ工学、ロボット工学、人工知能、認知科学を基礎とした知的情報基盤、知能ロボット情報基盤の研究開発に取り組んでいる。
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大阪大学 知能ロボット学研究室(石黒研究室)

Text by 丸茂健一(minimal)/Illustration by 竹田匡志

UNIVERSITY INFO

大阪大学基礎工学部
OSAKA UNIVERSITY
School of Engineering Science
科学と技術の融合による
科学技術の根本的な開発
それにより人類の真の文化を
創造する学部
大阪大学基礎工学部
科学と技術の融合による
科学技術の根本的な開発
それにより人類の真の文化を
創造する学部

理工の枠を超え、未踏のEngineering Scienceを開拓する

物理と化学の融合による物質創成や、人間と知能システムの共生社会を目指すロボティクス、数理データ科学、量子コンピューティングなど、21世紀に求められる科学技術を創成できるパイオニアを目指すとともに、高度な基礎学力を基盤に、柔軟性と応用力をもって国際的に活躍できる真のGlobal人材の育成を目指す。4学科のうち、情報科学科、システム科学科、電子物理科学科が、データサイエンスの主な教育拠点であり、化学応用科学科でも、データサイエンスを活用する手法を学ぶことができる。

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