脳科学者の仕事内容と学べる大学
脳科学者の仕事内容
人間を含む動物の脳や神経系の構造や機能を研究する学問分野が「脳科学(Brain Science)」。欧米圏では、この分野は神経科学(Neuroscience)とカテゴライズされることが多い。そのため、この分野の専門家は脳神経科学者、神経科学者と呼ばれることもある。ここでは、「脳科学者」として説明する。
脳には、視覚や聴覚など感覚の処理に関わる機能、記憶・学習・予測・思考・言語・問題解決など高レベルな認知に関わる機能、感情に関わる機能などが備わっており、動物の生命維持やコミュニケーションにおいて不可欠な役割を果たしている。脳科学者の仕事は、脳や神経系の構造やメカニズムに「脳科学」の手法で迫り、医学や工学、心理学、理学、生物学、コンピュータサイエンスといった幅広い分野から知識を借りて新たな可能性を提示することにある。
具体的には、ニューロンや神経細胞など脳の構成単位についての研究、脳の各領域が持つ役割についての研究、脳神経科学とITを融合したブレインテックの研究などが挙げられる。こうした研究は、学習機能向上や脳へのダメージの修復といったかたちで私たちに恩恵をもたらすだろう。また、近年はAI(人工知能)研究への応用にも注目が集まっている。
現在、「脳科学」の博士号は存在せず、脳科学者と呼ばれる研究者の多くは大学院で「工学」や「医学」の博士号を取得し、大学・病院・公的研究機関などで実験や論文の執筆に取り組んでいる。医師や大学の教員職を兼務するケースも多い。
世の中には脳科学を騙った信憑性の低いデータも溢れており、こうした擬似科学からは距離を置いて情報収集を行う必要がある。
脳科学者の年収や勤務先は?
脳科学者の平均年収は職種によって大きく異なる。大学で研究のみを行う研究者の場合は年収200万〜300万円程度の助手からスタートし、助教、講師、准教授、教授とキャリアアップするに従って上昇する。大学教授の年収は500万〜2,000万円と大学や研究領域によって幅がある。医学部で医師免許を取得し、医師を兼務する脳科学者の場合は、年収1,000万円以上の高収入が期待できるだろう。
脳科学者の勤務先として代表的なものは以下の通り。
- 病院
- 公的研究機関(理化学研究所 脳神経科学研究センターなど)
- 大学・大学院(主に医学部・薬学部・工学部)
脳科学者になるには?
脳科学者に必要な資格
脳科学者になるための国家資格はない。医学系や工学系の大学院博士課程を修了し、「医学」「工学」の博士号を取得しておくのが、脳科学者を目指すうえで前提となるだろう。国内にも、大学院に脳科学研究科や脳情報研究科など、脳科学を専門的に研究できる課程を設置している大学があるので、興味があれば調べてみよう。
脳科学者に必要なスキル
脳科学者には、専門的な知識や実験スキルに基づいて脳科学、神経科学の研究を発展させる姿勢が求められる。そのため、大学・大学院で、脳科学や神経科学、その周辺領域を深く学び、その研究成果を創薬や治療法開発、脳のメカニズム解明に役立てる体系的な研究スキルが必要になる。
もちろん、研究者には必須の創造性や探究心、チャレンジ精神、主体性、課題解決能力、論理的思考力なども重要になる。また、学会発表や論文執筆は、英語を使用するのが一般的なので、語学力や国際的なコミュニケーション能力も不可欠になるだろう。
脳科学者を目指せる大学・学部・学科
ここまでにも紹介した通り、脳科学へのアプローチは多岐にわたる。ベースとなる脳科学、神経科学は、主に医学部、獣医学部、薬学部、理学部、工学部などで学ぶことができる。医薬系の学部だけでなく、理工系・情報系学部からも脳神経科学の研究にアプローチできるのがポイントだ。また、生命科学部、心理学部などでも脳神経科学を専門的に学べる学科やコースが見つかる場合がある。
具体的には、医学部では、臨床神経学、神経外科学、神経内科学などの専門科目で脳神経科学を学ぶことができる。理工系・情報系の学部・学科では、脳情報科学や計算神経科学といった脳神経科学の融合領域を学べる授業や研究室が探せる。また、生命科学、心理学系の学部・学科でも、分子レベルの脳神経細胞研究、言語や思考のメカニズム解明に関する研究などが行われている。最近は、AI(人工知能)研究から脳科学にアプローチする方法もあるようだ。
これらの学部・学科で身につけた知識は、脳科学を研究する基盤になるものに過ぎず、さらに専門的な知識を得るなら大学院での掘り下げが必須となる。
Illustration by カヤヒロヤ